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[地球回覧]働けぬ女性、米国の憂鬱
成長妨げる政治の不作為
「ガラスの天井」と呼ばれる壁が残るとはいえ、女性が働きやすいように見える米国。そんなイメージも今や過去のものになりつつある。
4月23日、バージニア州アーリントン。ホテルの一室で開かれた企業説明会は、ことのほか活況を呈していた。米化粧品大手エイボン・プロダクツやキヤノンの関連会社など、10社あまりのブースを見て回る数十人の志願者たち。その6〜7割は女性だ。
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「IT(情報技術)企業に勤めていたが、1年前に解雇された。政府の予算削減で受注が落ちたそうだ。同じ業種の面接を15回も受けたのに、まだ職場が決まらない」
「子どもが大きくなって、少し余裕ができた。もう一度働きたいので、何度か企業説明会に足を運んでいる。でも再就職は容易ではない」
話を聞いた女性たちは悩んでいた。問題はその多くが職探しを断念し、労働市場から退出してしまう点にある。
16歳以上の人口のうち、働く意志のある人(就業者と職を探す失業者)の割合を「労働参加率」という。今の米国は63%弱。2000年の67%強をピークに低下傾向をたどり、36年前とほぼ同じ水準まで落ち込んでいる。このままでは米国の成長力を鈍らせる要因になりかねない。
深刻なのは女性だ。経済協力開発機構(OECD)のデータで25〜54歳の女性の労働参加率をみると、12年の米国は75%。主要7カ国(G7)の中では5位にとどまる。1位のフランス(83%)には遠く及ばず、6位の日本(72%)との差も縮まっている。
通常の景気回復局面では、職探しを諦めていた人たちが労働市場に戻り、労働参加率が上昇するケースが多い。だが08年9月のリーマン・ショックの傷痕が深く、雇用の復元が予想以上に鈍い。
1946〜64年に生まれたベビーブーマーの退職も、労働参加率の押し下げ要因といわれる。米調査機関ピュー・リサーチ・センターのポール・テイラー副所長は「2030年までに毎日1万人が65歳を迎える」と指摘する。
そこに女性特有の問題が重なる。同センターの調査によると、18歳未満の子どもを持つ母親のうち、仕事をせずに家庭にとどまる人の割合は12年時点で29%に達した。1999年の23%を底に、じりじりと上昇しているそうだ。
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リーマン・ショックのあおりを受けているのは確かだが、仕事より子育てを優先する女性の意識変化もうかがえる。その傾向が強いヒスパニック(中南米系)やアジア系の人口が増えた影響もある。
4月24日、バージニア州ビエナ。今度は女性の「駆け込み寺」の役割を担うウイメンズ・センターを訪ねてみた。メンタルヘルスや家庭内暴力の相談に応じるだけでなく、職探しのノウハウも教えるNPOのひとつだ。
臨時の最高経営責任者(CEO)を務めるシャーリー・クラーク氏の話が印象に残った。「米国では両親や親戚と離れて暮らす共働きの世帯が多い。子どもを持つ夫婦の支援体制が弱く、夫よりも妻の方がしわ寄せを受けやすい。そんな女性の待遇を改善し、働く場を与える官民の努力が要る。私たちは職場復帰のトレーニングをしてもらうジムのような存在でありたい」
その声は政治の世界にも届くのだろうか。「男性が1ドル稼ぐ時に、女性は77セントしか稼げない」。民主党のオバマ政権は男女間の賃金格差是正にご執心だが、企業の負担増を嫌がる共和党が応じる気配はない。民主党の提案とて、11月の中間選挙で勝つための方便という印象が強く、抜本策には踏み込めずにいる。
少子高齢化が進む中でも経済の活力を維持するには、女性の労働参加を促す必要がある。その知恵を主要国が競っている時に、米国の不作為が続くのは見過ごせない。
(ワシントン支局長 小竹洋之)
[日経新聞5月4日朝刊P.12]
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