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本当に「法人税減税」はできるのか 改革の論点が、いよいよ出そろった(東洋経済)
http://www.asyura2.com/14/hasan87/msg/499.html
投稿者 赤かぶ 日時 2014 年 5 月 05 日 11:50:09: igsppGRN/E9PQ
 

本当に「法人税減税」はできるのか 改革の論点が、いよいよ出そろった
http://toyokeizai.net/articles/-/36947
2014年05月05日 土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授 東洋経済


安倍内閣は、成長戦略の一環として、法人実効税率の引き下げを検討している。東洋経済オンラインでも、「実現へ高いハードル、法人税引き下げの帰趨」などで詳報されているところだ。現在、政府税制調査会で、法人課税ディスカッショングループを設けて議論を進めている。

■ 法人税をめぐる「追い風」と「向かい風」

 筆者は、経済学の立場から首尾一貫して、グローバル化を踏まえてわが国の税制を法人課税(源泉地主義課税)から消費課税(仕向地主義課税)へシフトさせる観点から、法人実効税率引き下げの必要性を主張してきた。

 とはいえ、最終的にどうまとまるかは全く予断を許さない。だが、わが国の税制改正の決定過程のしきたりから見ると、今までにない機運が感じられる。

 1つに、税金の課税対象(課税ベース)をどうするかという議論は、毎年のように各界から要望が出され、そのうちどれを採択するかを決めているのだが、税率変更を議論するという何年かに一度しか訪れない機会が今訪れていること。そして、支持率が高い安倍内閣で、安倍首相自ら税率引き下げに意欲を示している以上、これを正面から阻止することに加担しにくいこと。これらは、法人税率引き下げに追い風となっている。

 しかし、向かい風もある。一部の国民には、消費税率を引き上げるさなかに、法人税率を引き下げるとは、「消費者冷遇、企業優遇」ではないかとの忌避感があること。安倍内閣として、2020年度までに基礎的財政収支の黒字化という財政健全化目標にコミットしており、代替財源なく大幅減税をして財政赤字をこれ以上拡大できないこと。法人関係の税収の約6割は地方自治体の収入になる(残りが国の収入)が、法人減税をして収入全体が減ることを地方自治体側は容認しないことだ。

 この追い風要因と向い風要因の気流をどう潜り抜けられるかが、成否を左右する。税収が減ることに官僚が抵抗して法人減税は実現しない、と見るのは、官僚陰謀論に毒されて近視眼的になっている見方で誤りだ。

 安倍首相が意欲を示しているのに、逆らえない。税制以外にも重要な政策課題は目白押しで、支持率が高い内閣でしかできない課題が実現できそうなのに、それを揚げ足取りに回るのは得策ではないという雰囲気さえある。

■ 法人減税の代替財源を、どこに求めればいいのか

 むしろ、税務当局は、これを機に法人関係の課税ベースを正す議論を正面からできるという認識も持っている。これに対して、経済界が、法人税率引き下げで一枚岩になれるかが、成否を決する。

 経済界は、課税ベースの拡大なしに法人税率の引き下げだけを認めてもらうのがベストと見ている。だが、法人税で課税ベースを拡大しないのなら、他の税目での増税を多くして代替財源を見つけないと、帳尻が合わなくなる。消費税は、まだ10%に上げるかどうかもあいまいなうえ、前述のような忌避感が国民にあるので目下のところは代替財源にはできない(筆者は、長期的には法人課税から消費課税へのシフトが必要だとの理論に立つが)。

 すると、法人減税の代替財源は、所得税・個人住民税や固定資産税などに求めざるを得なくなる。法人減税の恩恵は、労働者や株主といった企業のステークホルダーに及ぶから、そうした立場にある国民はよい。しかし、持ち家の年金生活者は、代替財源として固定資産税を増税されると、法人減税の恩恵は直接及ばないのに増税だけ及ぶとして、これに反対するだろう。

 所得税のうち、代替財源となりそうで論理的に一つ可能性があるのは、金融所得(配当・譲渡益)課税の税率引き上げである。法人段階で課税前配当の税負担を下げつつ、個人段階で配当に多く課税する、という形だ。しかし、昨年に税率を10%から20%に引き上げたばかりで、さらなる引き上げが見通せる状況にはまだない。

 地方の所得税である個人住民税は、本来、地方自治体の行政サービスの受益者である住民に負担してもらうのにふさわしい税であるが、現に個人住民税を払っているのは約5900万人と、日本の人口の半分未満の人しかいないありさまだ。

 ここに着目して、個人住民税を代替財源にすればどうかという考え方もあるが、統一地方選挙を来年に控え、臆病な首長や政治家は個人住民税の負担増を言い出せない。

 このように、法人減税の代替財源を大規模に所得税・個人住民税や固定資産税などに求めるのは容易ではない情勢にある(とはいえ、まったくこれらをいじらずに、日本の税制を良くすることはできない)。そうなると、法人税の中で代替財源を出すべく、課税ベースを拡大することを真剣に検討することが必要となってくる。

 ここで、大胆だが、現在俎上に載っているものを列挙し、その成否について、「GW時点」での下馬評的私見を記そう(今後の情勢いかんでは、その評価は変わりうるし、最終的な成否と異なっても「下馬評」なのでご容赦いただきたい)。凡例は…◎:実現可能性高、○:五分五分、△:実現可能性低、×:ほぼありえない、とする)

 ◎欠損金の繰越控除での控除割合縮小と繰越期間延長(現在:繰越期間9年、控除割合は大企業のみ80%)

 (解説)→繰越期間の延長で、繰越欠損金の控除の使い残しがなくなる点は企業に利点。控除割合縮小で、税率がそのままなら短期では増税になるが、その分が代替財源にカウントしてもらえる可能性が高く、それで税率が引き下げられる。景気回復局面で繰越欠損金が減っており反対する企業も少ない。経済界も大筋同意か? 

 △受取配当の益金不算入割合の引き下げ(現在:持株割合25%以上の株式に係る配当は100%、持株割合25%未満の配当は50%が益金不算入)

 (解説)→益金不算入割合を下げると、法人税の課税ベースが大きくなる。税務当局は、持株割合が5%未満だと不算入割合がゼロであるフランスの制度も参考に、引下げを提案。株式保有が支配関係でなく資産運用を目的とする場合に益金不算入としない(益金に算入し法人税を課税)を意図しているが、運用目的で株式を保有する金融機関は増税となるため強く反対。他方、持ち株比率5〜25%で益金不算入割合を引き上げるという要望が出ると、痛み分けとなり、最終的には現状維持かも。

 ×租税特別措置の大幅見直し(現在:研究開発減税、中小企業の軽減税率引下げ等)

 (解説)→研究開発減税の恩恵を受ける企業は、厳しい国際競争にさらされている。法人税率が下がってもこの租税特別措置(租特)がなくなると増税になる可能性があり、元来の目的であった成長戦略とも矛盾。中小企業は、本則で大企業の税率25.5%より低い軽減税率19%となっているが、租特でさらに15%まで下げている。これを撤廃すると税率が上がることを意味し、元来の目的と矛盾。租特でない形で税率を事実上据え置くなら、代替財源にはならない。租特を見直すとしても、小幅か。

 ◎減価償却方法を定率法から定額法へ変更(現在、機械装置について定率法と定額法の選択)

 (解説)→償却可能限度額までいずれ償却するなら、最終的に法人税額への影響は同じだが、定率法を適用すると、早期に多く減価償却できる分、短期で法人税が軽減される効果がある。これを定額法にすると、短期では減価償却費が減るので、税率がそのままなら短期では増税になるが、その分が代替財源にカウントしてもらえる可能性が高い。

 ○法人事業税での付加価値割の適用拡大(現在:付加価値割が標準税率での税収の約2割を占める)

 (解説)→地方税である法人事業税には、大企業に対して、法人所得に比例した所得割、法人の付加価値に比例した付加価値割、資本金等に比例した資本割がある。そのうち、法人実効税率と関係するのは所得割で、この税率を下げれば法人実効税率は下がる。

 2004年度から、所得割の税率を9.6%から現行の7.2%に下げる代わりに、付加価値割を税率0.48%で新設した前例がある。ただし、付加価値割は、赤字法人(所得割の税負担がゼロ)の企業にも税負担を求めることになる。

 地方税の制度設計に関わる総務省は積極推進。現在大企業だけに適用される付加価値割を、中小企業にも適用する提案があるが、中小企業は猛反対。大企業の中で、所得割で課されるより付加価値割で課されると税負担が減る企業は、内々には賛成している。

 ちなみに、筆者は現行のままでの付加価値割の適用拡大には、経済学の立場から反対している。

 以上、課税ベースの見直し候補についてみてきたが、法人税の課税ベースを拡大する規模が大きいほど、法人実効税率を大きく下げられるとともに、他の税目に代替財源を求める度合いが減るので、実現可能性が高くなる。経済界がこれらの利害対立を乗り越えて意見を収束させられるかが、今後のカギとなろう。


 

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