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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第73回 一貫して間違えている安倍政権の労働政策
http://wjn.jp/article/detail/3890257/
週刊実話 2014年5月1日 特大号
大本の思想、発想、もしくは考え方を間違えてしまうと、その後はどれだけ頭をひねっても、誤った解決策しか生み出せない。
現在の安倍(晋三)政権の労働政策は、まさに根本が歪んでしまっているため、見事なまでに一貫して間違えている。
安倍政権が推進する各種の労働規制を一言で書くと、
「規制緩和により労働市場に新たな労働者を放り込み、労働者間の競争を激化させることで実質賃金を下げる」
というものになる。
日本国民は'97年に橋本(龍太郎)政権が緊縮財政の強行というミスを犯した結果、15年以上もの長きに渡るデフレによる実質賃金の低下、つまりは「貧困化」に苦しめられた。その「デフレ脱却」を標榜して誕生したはずの第二次安倍政権が、驚くほどの熱心さで実質賃金を引き下げる政策を推進しているわけだから、呆れ果ててしまう。
安倍総理は4月4日の経済財政諮問会議、産業競争力会議の合同会議において、
「女性の活躍推進の観点から外国人材の活用について検討してもらいたい」
と、耳を疑うような発言をした。
すなわち、家庭の家事や育児の分野に外国人労働者を広く受け入れ、専業主婦の女性が働きに出るように制度を変えろという話だ。
また、安倍総理は3月19日の時点で、専業主婦がいる世帯の所得税を軽減する「配偶者控除」の縮小、廃止を検討するように指示している。
安倍総理は「働く女性は素晴らしい。主婦はダメ」という価値観でも持っているのだろうか。そうであるならば、随分と差別的な話である。
個人的には、専業主婦だろうが、キャリアとして働いている女性だろうが、輝いている女性は輝いているし、輝いていない女性は輝いていないと思うわけだ。各女性が持つ価値観を大切にし、それぞれが主婦なり、仕事をするなり、好きな道を選ぶことが可能な環境を作るというならばともかく、「女性は仕事に出るべき」という価値観に基づく政策を、一方的に押し付けようとしているわけだから、傲慢でもある。
4月4日の合同会議では、掃除や洗濯、育児などの家事や家族の介護を理由に、仕事に出ることができない女性が220万人いるとの試算が公表された。
つまるところ、経済財政諮問会議や産業競争力会議の「民間議員(実は単なる民間人)」のお歴々、あるいは安倍総理大臣は、220万人もの女性を労働市場に送り出せば「就職できる」と考えているのだろうか。220万人分もの雇用需要が余っているならば、我が国はとうに完全雇用を達成していることだろう。
要するに、現政権は「労働者を労働市場に供給すれば、仕事がある」と勝手に思い込んでいるのだ。まさに、典型的な「セイの法則」的勘違いである。
新古典派経済学の「基盤中の基盤」を成す考え方、すなわち「セイの法則」は、一言で説明すると「供給が需要を創出する」になる。製品やサービスは、供給すれば必ず客が買ってくれる。ということは、人々が職を求めたとき、必ず仕事があるということになるわけだ。
すなわち「完全雇用」は常に成立している。冗談でも何でもなく、新古典派経済学者は「非・自発的失業は存在しない。失業者は全員が自発的失業者である」と考えているのだ。
非・自発的失業者が存在しない、すなわち「失業問題がない」環境下であるならば、専業主婦の女性が働きに出れば、必ず仕事があるという話になる(たとえ220万人でも!)。
とはいえ、現実の世界ではセイの法則は成り立っておらず、完全雇用も実現していない。扶養控除の廃止等の政策で専業主婦の女性を労働市場(注・低賃金労働市場)に送り出した日には、我が国の労働市場の競争は激化の一途をたどり、日本国民全体の賃金水準も抑制されてしまう。ゆえに、国民の貧困化が進む。
外国人労働者の問題も同じである。外国人に「育児」を任せるなどという、おぞましい発想は論外だが、現在、人手不足が顕著になっている一部の産業(土建、運送など)においても、外国人は役に立たない。理由は、日本語による堪能なコミュニケーションが不可能であるためだ。
確かに土木、建設、運送、IT開発等で人手不足は深刻だが、求められているのは「日本語に基づく円滑なコミュニケーションができる専門職」なのだ。
普通に考えて、30万人近くも存在する「働けるにもかかわらず、生活保護を受けている日本国民」(あるいはNEETと呼ばれる若い世代)をトレーニングし、資格を取得させ、労働市場に送り出すべきだと思うわけだが、なぜ安倍政権からは女性、外国人労働者といった話が出てくるのだろうか。
理由はもちろん、現在の日本において、
「余計な労働規制の緩和はしない。人手不足が深刻化している産業に対しては、賃上げ及び『働けるにもかかわらず、労働市場から退出している日本国民』をトレーニングし、労働市場に送り出すことで対応する」
という、至極真っ当な政策を実施してしまうと、国民の実質賃金が上昇を始めてしまうためだ。
すなわち、日本国民が豊かになっていくという話なのだが、
「そんなことをしたら、企業の国際競争力(価格競争力)が低下する!」
と主張する「民間人」が、民間議員として経済財政諮問会議や産業競争力会議に入り込み、政策をリードしているわけである。
筆頭は、もちろん人材派遣大手パソナ・グループの取締役会長である竹中平蔵氏である(現在の安倍政権が検討する労働政策が実行に移されれば、パソナのビジネスもさぞや増えることだろう)。
筆者は「自分は保守派だ」などと名乗らず、名乗る気もないが、少なくとも安倍総理はいわゆる「保守派」と呼ばれる政治家の一人だったのではなかったか。
いや、むしろ保守政治家の代表のように「見えた」安倍総理が、外国人労働者、移民を増やし、家庭のあり方まで変えかねない労働政策を推進している。
「冗談ではない。そんなことをしてもらうために、安倍自民党を選んだのではない」
と、自民党に投票した日本国民こそ、猛烈に反対するべきだと思うわけである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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