http://www.asyura2.com/14/hasan87/msg/217.html
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先週火曜日に発売された『ニューズウィーク日本版』2014−4・22に掲載されている記事の紹介である。
先日、関連するものとして富の偏在に関する投稿を行った。(参照先スレッドを添付)
数字的な衝撃度しては、前回の「裕福なわずか67人の富=世界人口のほぼ半数35億人の富」のほうが大きいかもしれないが、経済社会の動きや論理を考えるネタとしては、今回のほうが面白い。
近代化度や通貨価値が違う国や人々をごちゃ混ぜで並べて比較したものではなく、アメリカ合衆国という近代世界最先進国の富と所得に関する構造と推移をデータで示したものだからである。
富や所得がますます上位者のもとに集中するという論理は、記事で説明されているように、「所得が貯蓄や投資に回されることで「富」となる。それが何年にもわたり蓄積された結果、富の格差は所得の格差以上に大きくなる。貯蓄する額が多ければ増える資産も多い」ということでおおよそは理解できる。
記事では触れられていないが、問題は、格差レベルの推移とそうなった原因や背景である。
記事に拠ると、アメリカで最も裕福な0.1%層によって所有される富が占める割合は、60年代の10%から現在では20%に倍増したという。
上位0.5%層の所得シェアは、78年から3倍に増加し、18%に達しているともいう。(グラフが掲載されており、彼らほどは金持ちでない0.5〜1%層のシェアは4%ほどで増加幅もわずかである)
この記事だけで考えると、金持ちがますますどん欲になり、稼ぎ(所得)や富の独占を高めてきた歴史のようにも思えるが、実際は異なる。
所得や富の上位者への集中について言えば、戦前と同レベルにようやく“回帰”したのである。
上位1%層の所得シェアは、第一次世界大戦から第二次世界大戦が始まるまでの時期もだいたい16%超であり、2000年代前半とほとんど変わらない。大恐慌に至るバブルの時代は20%を超えるレベルまで格差(上位への集中)は強まっていた。
ざっくり言えば、所得や富の上位者への集中については、第二次世界大戦勃発(1939年)からレーガノミクス(英国ではサッチャー主義)が始まる1970年代末までを特殊な時代とみることができる。それが、60年代のホームドラマに象徴されるアメリカ国民の豊かな中間層意識や少し遅れるが日本でも総中流意識をもたらした経済社会的背景である。
この特殊な時代を特徴付けるものは、国家総力戦とも言われる大衆動員と産業資本主義経済の全盛である。
別の言い方をすれば、大量破壊と大量殺戮のため諸国民が大量動員され、それにより産業資本主義経済が大いに活況を呈した時代である。
殺戮と破壊のために男は徴兵され、男たちの活動を助けるため、婦人や子どもたちまでが産業の場に駆り出されたわけである。
第二次世界大戦は45年で終結したが、終戦から70年頃までは「復興の時代」と呼ぶことができるから、WW2による世界的大量破壊が戦後の産業資本主義経済の活況を支えてことがわかる。
1929年に始まった米国の「大恐慌」(強烈なデフレ不況)は、ニューディール政策をもってしても一進一退で、39年のヨーロッパ戦争(WW2)勃発を契機とした軍需産業の活況によってようやく終息し、日本との戦争勃発により一大好況期を迎えた。
39年には米国で富裕税が導入され、39年には上位1%で16%を超えていた所得集中が、43年に10%まで低下した。
このような経緯から、税制と製造業の活況が「所得格差」を縮小させたことがわかる。
だからといって、軍需品の生産増強でGDPが飛躍的に増大していった時代だから、金持ちの所得が縮小したというわけではない。低中所得者の所得が増加したことで「所得格差」が縮まったのである。
戦後も、上位1%への所得集中は抑制され、60年代及び70年代は8%ほどで収まっていた。ただし、株式など債券類や不動産の売却益であるキャピタルゲインを含めた所得は、60年代後半まで10%レベルでの集中を見せていた。
このような状況を変えていったのが、レーガノミックスという所得税制のフラット化や配当・キャピタルゲインといった高額所得者優遇政策である。
そのような高額所得者優遇税制とともに、日本などの競争に負けたり外国に生産拠点を移すことなどで衰退していった米国製造業が人々の所得水準を低下させていくことで、「所得格差」は大きく拡大していった。
レーガン政権第2期(85年後半)には、上位1%への所得集中が15%を超える水準まで高まり、以降は、その集中が強まっていく傾向を示す。
産業力で世界最強を誇った米国も、産業資本主義から金融資本主義へと転換し、GDPが金融利得の波及に支えられるようになったことにより、上位者に所得や富が集中する度合いを高める一方、中所得者層の多くが低所得者層へと没落していったのである。
そのような経済条件のなかで、政府までが高額所得者優遇税制を実施したのだから、高額所得者に所得や富が集中するのは当然だとも言える。
日本は現在重大な岐路に立っている。
米国は金融資本主義のメッカとしての立場を維持しているが、日本の金融業界にそのような力はない。日本(の金融資本)が得られる金融利得がたかがしれており、米国のように、GDPの支えとすることはできない。
日本は、製造業は衰退すれば、自動的に経済全体が衰退する構造なのである。
日本は、サービス業の強化などといった寝ぼけたことを考えずに、高い付加価値を生み出す製造業の国内での強化を何が何でも達成しなければならないのである。
※ 参照データ
「The World Top Incomes Database」サイト
http://topincomes.g-mond.parisschoolofeconomics.eu/#
メニューから「Graphics」を選択すると米国における長期の所得集中度合いグラフを確認できる。
※ 関連投稿
「[富の偏在問題]「裕福なわずか67人の富=世界人口のほぼ半数35億人の富」という現実」
http://www.asyura2.com/14/senkyo164/msg/174.html
この場を借りて恐縮だが、コメント欄に刺激的なコメントや質問を多くいただきながら未だレスポンスをしていないことを深くお詫びさせていただきたい。
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『ニューズウィーク日本版』2014−4・22
P.23
「アメリカ経済格差がますます開く理由
社会の富を独占する「本物の金持ち」は上位1%ではなく0.1%の人々だ
アメリカでの金持ちとそれ以外との格差は、私たちが思う以上に拡大していたようだ。
カリフォルニア大学バークレー校の経済学者エマヌエル・サエスとロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのガブルリエル・ザックマンは、アメリカの「富」の格差に関する新しい調査結果を発表。そのよう内容は衝撃的だった。
富とは、ある世帯が所有するものの価値の総額で、持ち家や債券などから負債を引いたものだ。調査結果を見ると、アメリカで上位1%の富裕層が所有する富の割合は、1980年代に比べて少なくなっている。しかし、問題はそこではない。
調査が示しているのは、かつて世界を席巻した「1%」という表現に意味はなく、真の勝ち組はわずか「0.1%」しかいないということだ。アメリカで最も裕福な0.1%の世帯は現在、最低でも2000万ドルの富を所有する。アメリカの全世帯の富のうち彼らの富が占める割合は、60年代の10%から現在では20%に倍増した。
考えてみてほしい。人口の1000分の1が、アメリカの富の5分の1を所有しているのだ。
スーパーリッチ層はさらに金持ちになっているが、それより下位の富裕層はあまり変わらない。上位0.5〜1%層が所有する富の割合は60年代からほぼ横ばいだ。一方、彼ら以上にリッチな0.1〜0.5%層のシェアはやや上昇。さらに、その上をいく上位0.1%層、特に最上位0.01%のシェアは大きく上昇した。
11年に発生した「ウォール街を占拠せよ」デモでは、豊かな1%とそれ以外の99%の経済格差が焦点だった。だが経済専門家は当時から、金融市場がグローバル化した現代の経済で最大の勝ち組は、1%の中でもさらに一部のスーパーリッチたちだと指摘していた。アメリカの富は、人々が考えるよりもはるかに限られた人たちに握られているのだ。
サエスはかって、フランスの経済学者トマ・ピケティと共に「所得」の格差に関する調査も行ったが、結果は今回のものと多くの点で共通していた。
上のグラフの赤い線は、上位0.5%層の所得が、アメリカ人の総所得の中で占める割合を年ごとに示したもの。その割合は78年から3倍に増加し、18%に達している。一方で、彼らほど金持ちではない0.5〜1%層(青い線)のシェアは4%ほどで、増加幅も少ない。
この所得が貯蓄や投資に回されることで「富」となる。それが何年にもわたり蓄積された結果、富の格差は所得の格差以上に大きくなる。貯蓄する額が多ければ増える資産も多いわけだ。
金持ちの中でもスーパーリッチの富が増えるペースが速いのもそのためだ。普通の金持ちが高い生活水準を保とうとすれば、所得の中で消費に回すカネの割合がスーパーリッチより高くなる。こうして、スーパーリッチはますます金持ちになる。
ジョーダン・ワイスマン」
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