01. 2014年4月18日 08:17:34
: nJF6kGWndY
>値段の安いラーメンか、高くてもそれに見合うラーメンかの二極化 昔から千円超えもあったが、デフレ不況で牛丼界同様、幸楽苑みたいな安売り店が増殖しただけの話 ただし、よほどインフレが進まない限り、千円超えが普及することはない http://kokorosha.hatenablog.com/entry/20081002/p1 前から気になっていた「昭和二十九年創業 幸楽苑」で昼食をとることにしました。 食べたことのある方も多いかと思いますが、値段を考えるとおいしいですよね。ラーメン単体が290円(税抜き)というのは驚き。地方で個人がやっている「ラーメンとカレーの店」みたいなところだったら太刀打ちできないでしょう。
f:id:kokorosha:20081002202000j:image ▲現に、この店のはす向かいにあった「喜楽亭」は、イージーゴーイングな名称とは裏腹に必死でがんばっていたと思うのですが、この有様…大量生産でコストを徹底的に下げるという、とても現代的な店の前には、リアル懐かしい店が太刀打ちできるわけがないのです。
家のそばにあったら結構通ってしまいそうなこの店ですが、個人的に3点ほど不思議に思った点があります。
【謎その1】ファミリーレストランのような外観・内装で、伝統を一切感じさせない点 外観はもちろんのこと、内装もまた、ラーメン屋というよりもファミリーレストランといった雰囲気です。老舗のラーメン屋特有の小汚い感じとは無縁。ラーメン屋にネガティブなイメージを持っている人にはいいのかもしれませんが、せっかく「昭和二十九年創業」と随所に入れているというのに、伝統のでの字もないのは、大きなお世話ですが、もったいない気がします。 競合とおぼしき「日高屋」は、特に伝統はなくて、最初からチェーン展開を睨んで大企業が作っているもののようですが、日高屋に似てますね。 同じ伝統を感じさせない店と言えば(昔「牛丼ひとすじ80年」というCMをしていた)吉野屋がありますが、単に味がよいことの保証としての80年であって、懐かしさを売りにはしていません。吉野家の牛丼を食べて、懐かしさでむせび泣く人はいないし、今はメジャーになりすぎているので、伝統という支えはもはや不要になっているようです。 【謎その2】「懐かしのラーメン」と銘打っているが、むしろ最近のラーメンの味がする点 f:id:kokorosha:20081002202001j:image こちら、お店の外に貼ってあるパネルですが(無駄に空がきれいな写真ですみません…)、懐かしさを全面に出しています。懐かしいと自分で言うのって、「私、天然ってよく言われるの」と口走る女に似…そもそも、「懐かしくて涙」っていう状況というのは、具体的に考えると、今がすごく嫌で、昔は幸せだった場合のことだと思うのですが、そんな後ろ向きな生き方はどうなの、などと言いたくなるし、バナナが高級だった話はよく聞きますが、ラーメンがごちそうだった時代って本当にあったんでしょうか…などと思いますが、とりあえずお腹がすいたのでチャーハンセットを頼みました。 f:id:kokorosha:20081002201958j:image そして、「老若男女に『懐かしい』と言わしめる、最大公約数的なラーメンは可能なのか?」と思いながら注文し、出てきたラーメンを観察すると…石立鉄男のヘアスタイルを彷彿とさせる、太いちぢれ麺!スープは、醤油ベースですが、アッサリというほどでもない感じ。ちょうど喜多方ラーメンからクセをなくしたような味です。喜多方ラーメンが全国区になったのはだいたい昭和60年以降のことなので、ぼくの中では「懐かしい」というより「最近のラーメン」という印象。ここで「涙するかも」と言われても「これ…おいしいのはおいしいけど…ワイが昔食べてたラーメンとちゃうで!」と言い返したくなります。懐かしのラーメンと一言で言っても地域特性がある以上、みんなを泣かせるのは難しいですね。(ぼくが懐かしいと思うラーメンは西山製麺の札幌ラーメンです。) これがうどんだったら西日本と東日本で地域差が顕在化しすぎて絶対無理だったでしょう。 【謎その3】店内のどこにも本店の写真や創業時の話がない点 それなりに続いているラーメン屋のチェーン店は、店内の随所に、創業時の話が載っているものです。たとえば、みんな大好きで毎日食べたいと思っている「天下一品」の場合だと、木村勉社長の屋台ラーメン屋時代の苦労話*1は、ラーメンが出てくるのを待つ間に何度も何度も読んで覚えてしまうくらいですし、神楽坂店などは、店先に創業時の屋台の模型を置いていたりします。 f:id:kokorosha:20081002201959j:image ▲社長のミーイズムに抱かれながらラーメンを食す快感ときたら! しかし、この「幸楽苑」に至っては創業者の濃い〜コメントや、創業時の話などはどこにも見あたりません。 …と、気になってホームページを見てみました。やっぱり会津のラーメン屋で、昭和45年に今の店名に改称、最近はサンデーサンとFC契約をしているようです。(←hitogomiさんのご指摘をうけて修正。ありがとうございます〜)なるほど…幾分スッキリしました。 さらに、この店の商売の巧みだと思った点について考察していきます。 【うまい点その1】昭和29年という絶妙な時代設定 戦後すぐ高度経済成長の前、55年体制の直前です。たとえば昭和19年とかだと、物資が乏しい時代のラーメンなんて…となるし、高度経済成長期に入ってしまうと、「貧しかったあの頃」という演出が白々しくなってしまいます。 【うまい点その2】あえて出自を隠すという戦略 会津は言わずと知れたラーメンの名産地です。しかし、札幌・博多に比べると、日常的に食べるほどポピュラーではありませんし、地方色が出てしまうので、あえて「喜多方ラーメン」というブランドを捨てるという英断を下しています。そうすることで豚骨ラーメンや、味の濃いラーメンも同時に提供でき、メニューに厚みが出ようというものです。 そのへんは意識しているようで、Wikipediaによると、福島県内と一部地域では「会津っぽ」という店名だったようで、地元なら地元っぽさを売りにし、全国展開をするにあたっては地域性を感じさせない店名にしているという周到さです! 【うまい点その3】見た人全員が「昭和」を感じる店名 たとえば、これが「来来軒」という名前だったら微妙だったでしょう。この店のラッキーなところは『渡る世間は鬼ばかり』に出てくるラーメン屋『幸楽』とかぶっているところです。もちろん、『渡る世間』の方が後に作られたのですが、この店名じゃなかったら、たとえば、創業時の「味よし食堂」の名前のままだったら、ここまで大きくなれなかっただろうなと思います。 わたしが社長になってラーメンのチェーン店をするんだったら、「『幸楽○』っていう名前の店で、昭和25年〜29年に創業した店ならどこでもいい。店ごと買収や!味は継承しなくていいから最近の味にして!」とオーダーするに違いありません。 伝統を誇示すると同時に出自をひた隠しにすることで、「誰もが懐かしいと思う店」への足かせとなる地域性をとっぱらい、「失われた昭和」への郷愁を呼び起こすラーメン…「失われた昭和」をテーマにしたビジネスはいろいろありますが、成功しているものはだいたいこのセオリーを押さえているんじゃないかと思います。
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