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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第72回 実質賃金をめぐる混乱
http://wjn.jp/article/detail/9552009/
週刊実話 2014年4月24日 特大号
4月1日に消費税が増税され、いよいよ本連載でたびたび取り上げた「実質賃金」の問題がクローズアップされそうな様相である。
厚生労働省が4月1日に発表した毎月勤労統計調査(速報値)によると、2月の事業所規模5人以上の現金給与総額は、1人平均で26万2308円と、前年2月と変わらなかった。
とはいえ、すでに物価の方は上昇を始めている。物価の変動を考慮した実質賃金で見ると、前年比1.9%減。何と、8カ月連続の減少である。物価上昇に、賃金上昇の伸びが全く追いついていない現状が浮き彫りになったわけだ。
消費税増税は「強制的な物価の引き上げ」になる。'14年4月以降の実質賃金は、下手をすると3%を超すマイナスということもあり得る。実質賃金の低下は、国民の購買力の縮小だ。
「実質的に賃金が低下した。消費や投資を増やそう!」
などと思う国民は、一人もいないだろう。
消費税増税をきっかけに、国内の消費や投資が減り、それ自体が別の誰かの所得を引き下げるというデフレの悪循環が舞い戻ってくる可能性があるわけだ。
その場合であっても、安倍政権や政権の周辺を固める学者、官僚、「民間議員」たちは、
「実質賃金の低下は、企業の国際競争力(注・価格競争力)が高まるため、かえって良いことである。実質賃金が下がれば、輸出が増える『はず』である」
と、言ってのけるのだろうか。国民の貧困化を前提にした「経済成長路線」とやらに価値があるとは思えない。
安倍政権は消費税増税というコストプッシュ的な実質賃金切り下げ以外にも、労働市場の「競争を激化」させることで、これまた実質賃金を引き下げようとしている。
配偶者控除見直しにより、女性の「低賃金労働市場」への参加を促進。派遣社員の受け入れ期間上限を「廃止」することで、企業の「正規社員から派遣社員への切り替え」を後押し。労働移動支援助成金を拡大し、大企業にも適用可能とすることで、企業の人員解雇を促進。そして、極め付けが「移民年間20万人受け入れ」や、外国人技能実習制度の期間延長(3年から5年へ)である。
企業のリストラを容易にし、派遣労働の規制を緩和。労働市場に女性や外国人労働者など「新たな労働者」を供給することで、競争を激化させる。結果的に、賃金水準は抑制され、企業は人件費を節約でき、グローバル市場における「国際競争力(注・価格競争力)」が高まる、という論法だ。
政府の経済財政諮問会議で検討が始まっている「移民年間20万人受け入れ」は、表向きは「今後100年間、人口の大幅減を避けるため」となっている。とはいえ、現実には「現在」の実質賃金の引き上げを防ぐためなのである。
恐ろしいことに、公共事業などにおける「人手不足」問題までもが、外国人労働者の導入に利用されようとしている。外国人技能実習制度を拡大する理由が、「一時的な建設需要への対応が必要」となっているのだ。
だが、現実には外国人労働者は建設の現場では役に立たない。理由は「危ない」ためだ。
最近の土木業、建設業は政府(国土交通省)の規制が厳しくなっており、とにかく「安全」を優先しなければならない状況になっている。事故を起こすと、会社全体がペナルティーを強いられてしまうのだ。
建設の現場では、様々な安全管理、事故防止の対策を徹底し、特に作業員の「ヒューマンエラー」を最小化することが求められ、各対策についてチェックリストが作成されており、現場監督者は「確認者」としてサインをすることを求められている。
工事事故防止のマニュアルを読めば誰でも理解できるのだが、現場で最も重要なのは「円滑なコミュニケーション」である。たった一人の作業員が指示等を理解せず、ヒューマンエラーを犯してしまうと、現場全体や会社に多大な損害が発生してしまう(そもそも人命に危険が及ぶ)。
しかも、我が国は世界屈指の自然災害大国だ。自然災害が多発する以上、日本国の土木、建設の需要は「日本国民」の手で担わなければならない。国民の安全保障にかかわる分野について、「外国人頼み」など許される話ではない。
というわけで、ゼネコンを含む各建設業の経営者たちが、揃って「外国人は危ないから無理」という反応を示し、全国建設労働組合総連合(建設業で働く全国の労働者で作る組合)が、労働者の待遇の改善を求める集会を開き(3月26日)、
「人手不足は、外国人に一時的に頼るのではなく、若い人が建設業に就職するような対策を取ることが大切だ」
「外国人が現場で実習していることは評価しているが、今働いている日本人の労働条件を改善し、若い人たちが建設業に就職することが、産業が継続して維持していくために重要だ」
と、コメントを発したのは、当然すぎるほど当然なのである。
バブル期は実は建設業の賃金水準が製造業を上回っていた。ところが、'98年のデフレ深刻化以降、建設業の賃金水準がひたすら下落していき、製造業に逆転された状態が続いているのである。
ある意味で、現在の土木、建設産業における深刻な人手不足は、働き手が「所得を増やす」絶好の機会だ。何しろ、東北の復興や国土強靭化、老朽インフラのメンテナンスや東京五輪に向けたインフラ整備は「やらなければならないから、やらなければならない」のである。
土建産業の賃金水準が上昇し、失業者や生活保護受給者などが雇用されていけば、いずれは「国民の所得拡大」が他の業界にも波及する。
ところが、人手不足を外国人労働者で補ってしまうと、当たり前だが賃金水準は抑制され、国民は所得拡大の機会を逸す。
「いや、実質賃金が下がれば、企業の国際競争力が高まるので、いいんだよ」
と言われ、納得する国民は果たして全体の何割くらい存在するのだろうか。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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