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柳井正氏曰く、「ひとりずつが夢を実現する会社にしていきます」〔PHOTO〕gettyimages
まさか、呼び方が変わるだけじゃないよね ユニクロがパート・アルバイト1万6000人を「正社員化」それって、いいことなの?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38863
2014年04月08日(火) 週刊現代
一生の生活を保障するため、パート・アルバイトを正社員にする。ユニクロの柳井氏が突如としてぶちあげた、新経営方針。おいしい話には大抵、ウラがあると云われるが―。
■「ブラック企業」と呼ばれて
「商売の仕組みを百八十度変えようと思います。(現状の店舗運営では)パートやアルバイトが主ですが、今後は彼らを正社員にしていきます。一生を託せる会社、成長していける環境をつくります。販売員全員を店長、あるいは店長代行ができる人に変えていく」
衣料専門店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(以下、FR社)の代表取締役会長兼社長・柳井正氏が、国内外に勤める店長や幹部たち約4100人を集めて、1時間ほど大演説をぶったのは3月中旬のこと。
「店長」だけに重責を負わせる自らの戦略を「一番大きな失敗」と率直に認め、今後は店舗で働く販売員ひとりひとりに責任ある仕事をしてもらうと、経営方針の大転換を発表したのだ。
そして、国内のユニクロ店舗で働くパート・アルバイトのうち、半分強に当たる1万6000人を正社員にする方針を固め、数年のうちに移行を進めていくという。この正社員は働く店や地域が限られた「地域限定正社員」であり、転勤はなく、勤務時間が短くてもよい点で、厳密な意味での正社員とは異なる。
ユニクロ=FR社のような日本を代表する企業が、これほど大規模な方針転換をするインパクトは大きい。非正規社員の正社員化は、安倍政権の方針でもある。だが、この「正社員化」は諸手を挙げて歓迎すべきなのか。果たしてそれで、日本全体が抱える雇用構造の問題を解決できるのだろうか―。
「正社員化は、人材確保の狙いが大きいです。ユニクロのようにいくら知名度があっても、地域によっては人手が不足する場合もある。そんな地域で、『パート募集』ではなく、『正社員募集』と掲げれば、イメージがよいので、人が集まりやすくなります」(社会保険労務士の庄司英尚氏)
契約社員を正社員に「格上げ」することはすでに、名だたる大手企業が次々と始めている。
たとえば日本郵政は4月から、契約社員4700人を「新一般職」の名称で正社員に登用する。ただし、FR社と同じく、勤務地を限定し、子育てや介護と両立しやすくするという名目で地域限定正社員である。
ちなみに、スターバックスコーヒージャパンも4月から、契約社員の約800人ほぼすべてを正社員とするほか、三越伊勢丹ホールディングスやそごう・西武、西友などでも契約社員の正社員化を進めている。
厚生労働省によると、限定正社員制度を採り入れている企業(正社員300人以上)は、51・9%に及ぶ。
限定正社員制度とはいわば国家的プロジェクト。安倍政権は働き手の4割にのぼる非正規社員の広がりを抑えるために、制度の普及を目指しているという。
今回のユニクロの「改革」は、働く人に安心感を与えるというスローガンとは別に、限定正社員制度の導入を進めたい政府へ向けての大々的アピールという側面が強いと見られている。
「かつて、雇用が多様化していた時代には、正社員は正社員とワンパターンに決める一方、非正規の部分で多様な雇用形態をつくっており、どうしても雇用の不安定さや待遇の不公平が出ていました。ところが最近は、正社員自体を多様化していこうという動きが主流です。
ユニクロの正社員化は、ある意味、国の政策を真正面から受け止めて実行しようとしていると思います。
さらに言うと、ユニクロはこれまで『ブラック企業』というレッテルを貼られてきました。今回、正社員の働き方を多様化するという正攻法で、それを払拭しようとしているのではないでしょうか」(労働政策研究・研修機構研究員の濱口桂一郎氏)
■やがて哀しき正社員
収入が安定しない非正規雇用を減らし、会社というひとつ屋根の下で、家族同様に日々の暮らしを守りたい―。柳井氏を始めとする経営者たちが本当にそう考えているならば、ワーキングプアに苦しむ労働者たちにとっては朗報だ。
だが、正社員になれば、すぐにでも安定した生活や収入増が見込めると考えるのは早計だろう。正社員という肩書よりも、実際にどのような待遇が受けられるかが重要なのだ。
正社員を増やすのであれば、当然のように、企業の人件費は上がり、そのぶん利益率は下がる。
実際にFR社のある幹部は、「従業員ひとりあたり約2~3割のコスト増が見込まれる」と明かす。ただ中長期的に見て、長く働くベテランスタッフが増えれば、生産性はコスト以上に増大していくので問題ない、というのがFR社の考えだ。
しかし、そこに落とし穴がある。現在、現場の店長には「売り上げの増大」と「人件費の管理・削減」という難題が要求されているという。FR社は「正社員化」される人々が納得できるような賃金アップをするつもりはあるのだろうか。
また、賃金がある程度上がったとしても、それに見合わないほどの過重なノルマが課せられるようなことになっては、「幸せ」とは到底言えないだろう。
ブラック企業被害対策弁護団の代表を務める、弁護士の佐々木亮氏が語る。
「現状の報道だけ見て、『立派な判断ですね』とは言えません。正社員化によって生み出されるのは、残業やノルマが増えただけの『名ばかり正社員』という可能性もあるからです。
柳井さんは正社員化の方針と同時に、『販売員には今の効率の2倍を求めます』と述べていますね。これまで店長が担っていた責任が、新たな正社員にも降りかかり、労働強化が行われることが容易に想像できます。そもそもユニクロは長年、長時間労働が問題視されてきました。その是正が同時に図られるのでしょうか」
働き手の仕事量や責任が増えるだけではなく、正社員化はクビ切りをしやすくする方策でもある。
「たとえば、その地域の店舗が不採算店のために閉めざるを得なくなったとき、子育てなどのためにその地域でしか働けない人はやめざるをえない。そんな人を切りやすくする布石として、正社員化を持ち出したという穿った見方もできます。限定正社員のクビを切りやすくして、『雇用の流動性』を高めたいという政府の狙いとも符合している」(前出・佐々木氏)
すでに安倍政権は、仕事内容や勤務地などが限られた限定正社員を増やすことと、解雇ルールの見直しをセットで議論している。企業が各地の店舗や工場を廃止する際、そこに勤める正社員を簡単に解雇できる仕組みを構築しているとも言えるのだ。
いともたやすく解雇される正社員―。これではパート・アルバイトが「限定正社員」と呼び方が変わっただけではないのか。
呼び方が変わっただけならまだいい。正社員であるばかりに、パート・アルバイトとは異なり、サービス残業がごく自然かつひそかに課せられる可能性だってある。
FR社には、労働組合が存在しないという。とすれば、会社は労働者をどれほど酷使しても、社員は強力に抵抗する術をもたない。
ユニクロの店長が、タイムカードを押して退社したように装い、サービス残業をしていたと告白したことで、裁判沙汰になったことは記憶に新しい。正社員という身分と引き換えに、会社の言うまま、重労働にひたすら耐える日々。そうなる可能性は皆無とは言い切れない。
■笑顔で働き続けられるか
先の演説で、柳井氏はこうも述べている。
「『全員経営』ですから、全員がトップの経営者のつもりで働いてもらいたい。我々はサラリーマンや時間給をもらうような人はいらない。経営者の代理として考え、仕事をすることが大事です」
ガムシャラに働かず、自分(柳井氏)の求める成果を出せない者はすぐにでもクビを切る。そう告げているようにも聞こえる。
もともと、FR社の「全員経営」の理念についていけずにやめてしまう正社員は多い。同社を3年以内に離職する人は、'09年入社で53%、'10年入社で47・4%、'11年入社が2年間で41・6%にものぼる。
自らユニクロに勤めた経験から『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)を著した大宮冬洋氏が、離職した理由を語る。
「ユニクロの離職率の高さは有名ですが、私の独自取材では、10年内離職率が8割を超えると推測します。
原因はサービス残業などの不合理さよりもむしろ、合理的すぎることにあるのではないでしょうか。ユニクロは完全実力主義、徹底した合理主義で貫かれていて、年齢や経歴は無関係、業績を上げ続けなければ、役職がついていても平社員に降格されかねません。
だから精神的に追い詰められ、やがて自信と気力を失ってしまう人もいます。正社員にならず、パートやアルバイトのままでいいという人もいるでしょう……私の場合はうつ気味になって、わずか1年で逃げるように退社しました」
結局のところ、パート・アルバイトが正社員となり、定年まで生活が保障されるというウマい話などないということだろう。
FR社のコーポレート広報部部長を務める古川啓滋氏が本誌の質問に答えた。
「正社員化によって、誰もが一様に仕事が大変になるということはありませんし、解雇されやすくなるなどということはまったく想定していません。また仮に、地域限定正社員が働く店舗を閉める場合、個人面談で希望を聞き取ります。ユニクロで働きたいなら、それに応じた形でやっていきますし、近くにあるGU(衣料品の製造・販売を行うFR社の子会社)などに異動して頂くことも理論的には考えられます。
20~30代でお子さんのいる女性からは正社員化を歓迎する声を聞いています。ただし、短期を望む方には、これまで通りパートで働いて頂きたいと考えています」
先の演説で、柳井氏はこんな「お願い」をしている。
「まずは笑顔で。『わっはっはっは』と笑ってみてください。販売員は毎日笑う訓練をしないといけませんし、笑えない人は販売員にはなれません。アホみたいに笑うこと」
正社員に「格上げ」された人々が心の底から笑えるためには、経営者が自社の利益を追求するばかりではなく、社員を心から大切にしながら社会貢献する方策を練ること。それができなければ、「正社員化」は単なるお題目に終わるだろう。
「週刊現代」2014年4月5日号より
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