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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第71回 韓国の雇用統計の怪
http://wjn.jp/article/detail/7876407/
週刊実話 2014年4月17日 特大号
'14年3月12日に韓国の統計庁が雇用動向を公表したのだが、'14年2月の失業率は「4.5%」と、急激に悪化したとのことである。何しろ、前月(1月)は3.5%だったわけで、対前月比1%増になる(対前年比では0.5%増)。
4.5%ということは、失業率だけを見ると現在の韓国の雇用環境は、日本よりも悪化していることになるわけだ(失業率以外の数字を見ても悪化しているが)。
韓国の失業率は毎年2月に悪化し、その後は低下し「完全雇用」に近づくのが恒例だ。
それにしても、'14年1月から2月にかけた上昇幅「1%」は半端ない。わずかひと月で失業率が1%も悪化する事態など、雇用環境が極度に悪化している南欧諸国ですらも、経験したことがないだろう。
韓国の毎年2月の失業率の急騰は、何が原因なのだろうか。
韓国統計庁は、
「2月が就職活動シーズンである上、下級公務員と警察公務員の採用手続きが始まり、就職活動者数が急激に増えたため」
と、分析している。
裏を返せば、韓国は本来は失業者に含めるべき求職者たちの多くを、労働市場から追い出すことで、失業率を「低く見せている」という話である。
本連載第56回で解説した通り、韓国の労働参加率は66.4%(2012年)と、OECD諸国の中でも際立って低い(日本の労働参加率は74%)。労働参加率は「労働人口÷生産年齢人口」で計算される。
それに対し、失業率は「失業者÷労働人口」で計算される。失業者を「働く意思なし」ということで、労働人口の「外」に追いやってしまえば、見た目の失業率は下がる。無論、政府に無理やり「非労働人口」にされた以外にも、自ら就職を諦め、労働市場から去った人々も少なくないだろう。
そして、毎年2月に公務員などの採用手続きが始まると、就職を諦めていた人々(あるいは政府によって労働市場から追い出されていた人々)が一斉に労働市場に押し寄せ、彼、彼女らは「職がない労働人口」すなわち失業者となり、失業率を一気に押し上げることになるわけだ。
韓国以外でも、失業率は「失業者÷労働人口」で計算される。本来は働ける年齢であるにもかかわらず、労働市場から去った人々も少なくないだろう。とはいえ、公務員の採用手続きが始まった「程度」で、一斉に「非・労働人口」が労働市場に押し寄せるようなことはない。
いや、公務員に採用される可能性があるならば、就職を諦めていた人々が労働市場に戻るというケースは、韓国以外でもあるだろう。それにしても、わずか1カ月で失業率を「1%」も押し上げてしまうなど、さすがに他国では考えられない。
韓国政府がいかに、
「失業者を労働市場から追い出し、見た目の失業率を引き下げるか」
に苦心しているかが、如実にわかるエピソードである。
統計マジックを駆使し、見た目の失業率を低く見せたところで、雇用問題が解決するわけではないと思うのだが。
韓国の統計マジックは、他にも多数ある。雇用統計におけるマジックを、もう一つだけご紹介しておこう。すなわち「青年就業率」だ。
青年就業率とは、普通のOECD諸国では、15歳〜24歳までの、いわゆる若年層の就業率を意味している。計算式を書けば、「若年層就業者÷若年層年齢人口」だ。
韓国の直近の青年就業率は39.7%で、IMF直後(1997年、国際通貨基金による韓国救済直後、40.6%)をも下回る史上最悪の状況にある(OECD平均は約44%)。
しかも、この40%を切ってしまった青年就業率にすら、韓国お得意の統計マジックが使われている。
すなわち「青年(若年層)」の定義が、他国は15歳〜24歳であるのに対し、なぜか韓国は15歳〜29歳となっているのだ。「青年」の定義を拡大することで、韓国は青年雇用率を「嵩上げ」しているわけである。
それでも、同国の青年雇用率はOECD最低水準で、しかも「史上最悪」を更新し続けているのが現実だ。
ちなみに、韓国の若年層失業率('14年2月)は8%だが、例により「失業者を労働市場から追い出す」行為があからさまに行われているのに加え、大学卒業後に就職できなかった若者は、失業統計に含まれない。
韓国における「失業者」とは、働いていた就業者が失職した、という定義なのだ。大学で勉学にいそしんでいた若者は「働いていない」わけだから、卒業後に無職となっても失業者として統計されない。
大学を出たにもかかわらず、就職していない若者が何をしているかといえば、もちろんNEETだ。ILO(国際労働機関)が2013年5月20日、「世界青年雇用動向」を発表したのだが、韓国のNEET率(15歳から29歳まで)はじつに20%弱と、日本の10%弱の2倍であった(最もNEET率が低かったのはルクセンブルクで、7.1%)。
いずれにせよ、韓国の雇用情勢を「正しく」知りたいならば、失業率ではなく「就業率」で見なければならない。
韓国の朴槿惠政権は「就業率70%達成」という目標を掲げている。失業率が(夏から秋にかけて)完全雇用状態にまで下がる国が、就業率の引き上げを目標としなければならないわけだ。
韓国の就業率は64.4%で、日本(70.6%)はもちろんのこと、OECD平均(66.2%)をも下回っている。
韓国の雇用統計に限らず、あらゆる経済指標は「統計マジック」を駆使する余地を持っている。
韓国内マスコミで経済指標が登場した際に、「定義」が説明されることはめったにない。
しかも、同国のマスコミは「日本を貶める」目的で統計マジックを使うのが大好きだ。
今後の日本では、国民が各指標の定義や意味を「正しく」理解するリテラシー(読み取り能力)を身に着ける必要があると確信している。面倒な話ではあるが。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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