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「国の資産を処分すれば、増税は不要」と本当にいえるのか(経済財政諮問会議で、代表撮影/ロイター/アフロ)
国の借金返済に、使えるおカネはいくらか 「国の連結決算」で見えること、見えないこと
http://toyokeizai.net/articles/-/34702
2014年04月07日 土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授 東洋経済
3月28日に、2012年度の国の「連結財務書類」が公表された。これは、毎年度、国の一般会計と特別会計だけでなく国の業務と関連する事務・事業を行っている独立行政法人なども連結した財務書類である。
■2012年度の「国の連結財務」は447兆円の債務超過
「今ごろ、2012年度の決算か?」と思われるかもしれない。確かに国の決算は、民間企業よりも公表時期が遅い。その原因は、役所の怠慢というより、中央省庁だけでなくその外郭にある独立行政法人等まで含まれ組織が巨大であることがあげられる。
それだけではない。税金が元手のおカネの出し入れは、国会で議決された予算に従って年度を区切って行わなければならないため、年度末の3月末ではなく5月末まで出納が認められており、それが終わってからしか決算を締められない。また、民間の監査法人よりもある意味で厳格な会計検査院の検査を受けるために時間を要することも、考えられる。
さて、2012年度の国の「連結財務書類」は、資産が前年度比で約40兆円増えて約822兆円、負債が前年度比で約46兆円増えて約1269兆円、資産負債差額がマイナス約447兆円と債務超過で、前年度より約6兆円増加した。
■債務返済財源に使える資産は、本当はどれだけ?
国の財政は、債務超過でその額が増えている、ということだけで議論を終えてはならない。その詳細を見る必要がある。先に、負債の内訳をみると、公債(要するに国債)が約620兆円、郵便貯金が約175兆円、公的年金預り金が約118兆円、責任準備金が約109兆円、政府短期証券が約95兆円、独立行政法人等債券が約46兆円、借入金が約36兆円、その他が合わせて約70兆円である。
このうち、公債と政府短期証券と独立行政法人等債券と借入金は、要するに国の一般会計や特別会計や独立行政法人等の借金である。郵便貯金は、連結対象である日本郵政株式会社の一部である、株式会社ゆうちょ銀行に国民が預けている郵便貯金が負債計上されたものである。
公的年金預り金は、公的年金積立金にほぼ相当するもので、将来の年金給付のために積み立てられているおカネである。責任準備金は、主に、連結対象である日本郵政株式会社の一部である株式会社かんぽ生命保険で将来の保険金などの支払いに備えて積み立てられているおカネである。
負債の内訳を踏まえつつ、資産の内訳をみると、有価証券が約272兆円、有形固定資産が約269兆円、貸付金が約186兆円、現金・預金が約41兆円、出資金が約13兆円、その他が合わせて約41兆円である。
国が債務超過になっているというが、資産も多く持っているのだから、資産を売却すれば借金返済のための増税はしなくてよい、という意見があるが、債務返済財源に使える資産はどれだけあるだろうか。
まず、国やその外郭組織が持っている有価証券は、主に3つから成る。1つは、連結対象である年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が預かっている年金積立金の運用先として投資しているものである。
もう1つは、連結対象である日本郵政株式会社が保有する有価証券(一般会計などが発行する国債は相殺)である。そして、外国為替資金特別会計で保有する外貨証券(米国債など)である。この外貨証券は、円高・ドル安を止めるために政府が為替介入した際に得たドルを、ドル建てで運用しているものである。
GPIFが運用する有価証券は、売却できたとしても、それを国の借金返済に充てられるはずはない。これは年金積立金が元手なのだから、将来の年金給付に充てなければならない。日本郵政が保有する有価証券も、売却できたとしても、預金者に利子をつけて返すべきものであって、借金返済に充てられるはずはない。
外貨証券を円建てで換金しようとするなら、米国債などを売却しなければならず、その時には外国為替市場でドル売り・円買いをすることになり、円高・ドル安を助長しかねない。したがって、円高を容認できない限り外貨証券を売却して、負債の返済に充てることは難しい。
次に多い有形固定資産は、道路や堤防といった公共用財産や国の庁舎等からなり、売却して換金することが想定できないものである。貸付金は、大半が、中小企業や地方自治体や奨学生に向けた貸付や、かつて(住宅金融公庫を通じて)行っていた住宅ローンである。
確かに、この貸付が返済されれば、負債を返済できる。しかし、中小企業や地方自治体や有利子奨学金を受けた元奨学生や今なお残る住宅ローンの債務者には、長期で貸し付けており、すぐに返済されるものではない。また、債務者は繰上げ償還すれば補償金というペナルティーが科される。
出資金は、国際機関への出資金や政策的に国に保有義務のある株式等から成る。外交政策や、NTTやJTや東京電力などへの出資方針を大きく変更しない限り、これらの出資金を換金して負債の返済に充てることは難しい。
■税金で賄うべきものを、郵貯や公的年金で取り繕うな
政府が保有する資産で無駄に保有しているものは売却するなどして減らし、負債の返済に充てることは、きちんと進めて行くべきだ。しかし、前述のように、多くの資産は、負債の返済財源に容易に充てられるものではないから、資産の処分ができれば増税は不要、とはとても言えないのが、わが国の財政状況である。
このように、国の一般会計や特別会計だけでなく、独立行政法人や特殊会社(国が設立し出資する株式会社)まで含めて財務状況を把握することによって、国の財政状況の全般を理解できる点で、連結財務書類は極めて有用である。
ただ、連結であるがゆえに税金で営む一般会計も、郵便貯金も、公的年金も一括して記載されているだけに、その読解力が問われる。税金で賄うべきものを、郵便貯金や公的年金のおカネで取り繕うことはできない。そこを見誤ると、本来直視しなければならないわが国の財政状況を誤解しかねないのである。
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