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証券取引所グループ、東証、日経新聞が算出するphoto gettyimages
新株価指数「JPX日経400」に年金基金が投資するのは問題あり
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38846
2014年04月02日(水) 山崎 元 「ニュースの深層」 現代ビジネス
年初から算出が開始された新しい日本株の株価指数であるJPX日経400に、公的年金をはじめとする年金の資金が、投資を開始した、あるいは、検討していると報じられている。
■JPX日経400の構成・計算方法
筆者は、新しい株価指数を作ることに賛成だし、年金基金がインデックス運用を増やすことに賛成だ。しかし、現時点のJPX日経400に年金基金が投資することには反対だ。
投資している基金があるとすれば、それは、年金運用者としての見識が無い、と判断する。そうした意味で、JPX日経400は、年金基金の見識を測るいいリトマス試験紙だ。
JPX日経400は、資本の利用効率が高く、企業統治が優れた企業に、投資資金が向かうように、との目的で構想された株価指数だと推測される。
この指数は概ね以下のような手順で構成・計算される株価指数だ。
(1)東証一部以外の上場銘柄も組み入れ候補とする
(2)ROE(自己資本比率)が高く(配点は40%)、過去3年間の累積利業利益が大きく(同40%)、時価総額が大きい(20%)ことをポイント化して評価する
(3)社外取締役2人以上の選任、IFRS採用予定、英文決算資料のTDnetを通じた情報開示に対応、といった企業統治の定性評価でポイントを微調整して400銘柄の組み入れ銘柄を選ぶ
(4)組み入れウェイト上限1.5%として浮動株調整済みの時価総額ウェイトでポートフォリオを構成し、このポートフォリオの時価評価を反映させる
■TOPIXとの勝ち負けは半々か
これまで年金運用のインデックス運用の対象として使われることが多かった、東証一部上場企業全体の株価を代表するTOPIX(東証株価指数)と比較すると、(1)時価総額の小さな株のウェイトが高くなりやすいこと、(2)株価純資産倍率(PBR)が高い株のウェイトが高くなりやすいこと(3月末時点でTOPIXが1.35倍、JPX日経400が1.46倍だった)、(3)銘柄入れ替えの比率が大きくなりやすいこと、などの差があることが推測できる。
読者は、これらの性質を好ましいとお考えになるだろうか?
筆者は、(1)は「やや好ましい」、(2)、(3)は「少し好ましくない」と考える。
尚、断っておくが、(1)、(2)、(3)の傾向は、そうなりやすいと推測できるということで、必ずそうなるというものではない。
時価総額の大きな400銘柄が選ばれればTOPIXよりもサイズが大きくなることがあり得るし、高PBR銘柄にあってこれを打ち消すような低PERの傾向があれば、高ROE銘柄のPBRが市場全体の平均よりも小さくなることがあり得るし、また、その時のデータが動かなければ年に一度の銘柄の入れ替えがごく僅かで済む可能性もある。
TOPIXとJPX日経400との勝ち負けは、大まかにいって半々だろう。
しかし、「現在ROEが高い会社」、「現在営業利益が大きい会社」、「企業統治が先進的な会社」といった優等生銘柄に「後から」投資することになりがちなJPX日経400JPXの組み入れ銘柄選定基準は、プロのファンドマネジャーの多くが「イケていない!」と思うのではないだろうか。
無いものねだり的な願いだが、ファンドマネジャーが投資したいのは、「既に、ROEが高い銘柄」ではなく「これからROEが向上する銘柄」だ。
また、長期的には、PBRが低い銘柄を持つ方がリスク調整後のリターンで有利な傾向があったことを考えると(日米何れでもそうだ)、僅かであっても平均PBRが高いJPX日経400は、直ちに魅力的とは言い難い。
一方、時価総額が既に巨大になってしまった銘柄のウェイトが低く抑えられていることは、若干ではあるが、魅力的な要素だ。
■銘柄入れ替えの影響がどうなるか
一つ大いに心配なのは、JPX日経400の銘柄入れ替えがどの程度の規模になって、指数が(従って、指数に連動する運用のパフォーマンスが)どの程度の影響を受けるかだ。
日本経済新聞社は思い出したくもないだろうが、2000年4月に行われた日経平均の銘柄入れ替えでは(225銘柄中30銘柄が入れ替えられた)株式市場全体の上下に関係なく日経平均が1割以上値下がりして日経平均に連動するインデックス・ファンドの投資家等が大損する一方で、証券会社の自己売買部門が2000億円以上の利益を上げた。
この銘柄入れ替えは大失敗で、日本経済新聞社は、その後、この時の教訓を生かして日経平均を運営しているように見えるが、新指数が銘柄入れ替えでどのような影響を受けるかについては、まだ分からない点がある。
さて、以上のようなJPX日経400の特性を知って、同指数をターゲットとするインデックス・ファンド等を通じてこれに投資するかしないかは、個人の自由だ。
筆者は必ずしも賛成しないが、今後、この指数が運用のベンチマークとして広く採用されて、この指数の構成で運用される資金が増える、という読みで投資する投資家がいるかも知れない。
筆者は、個人投資家が、この指数に投資することを止めようとは思わない。
TOPIXや日経平均との差は大きくないはずだし、高い運用手数料を払ってファンドマネジャーの腕に賭けるアクティブ・ファンドに投資するよりも遥かにましだ。
■年金基金がJPX日経400に投資するのは時期尚早
しかし、年金基金が投資するとなると、事情が異なる。なぜなら、年金運用は「他人のお金」の運用であり、年金基金の側では、プロセスの正当性と説明責任が伴うからだ。
年金運用には、慎重さと保守性が必要なのだ。年金運用では、どのようなリスクとリターンの期待の下に資金運用を行ったかが厳しく問われる(べきだ)。
JPX日経400については、少なくとも一度は、銘柄入れ替えを見て、その規模や影響を観測した上で投資するか否かを決めるべきだろう。
この手続きを経ずに、「新しくて、良さそうだから、買ってみよう」と判断・行動するのは、素人が自分のお金でならやってもいい行為だが、年金運用にあっては「見識が無い」と言わざるを得ない。
公的年金の運用を検討した有識者会議(座長・伊藤隆敏東大教授)の報告書では、ベンチマークの多様化が推奨されていたが、求めるポートフォリオの性格にあったベンチマークを、個々に委託する資金に応じて採用する「カスタマイズド・ベンチマーク」には大いに意味がある(他方、資金委託側で高度な判断と技術が必要になる)。
が、アセットアロケーションに使うベンチマークと異なる複数のベンチマークを混ぜて使うことは、年金基金自身がアクティブ運用をやっているのと意味が同じだ。
JPX日経400に投資した年金基金は、運用ポートフォリオとして見た同指数のリスクやポートフォリオの特性などについて、たとえばアクティブ運用を行う運用会社に基金が要求するような検討を自分達で行ったのだろうか。
■運用料の安さだけが救い
仮に基金側が「国策だから協力しなければ」と考えて投資したのであれば、これは大変危険な考え方だし、筋違いだ。年金基金の担当者には、国策のためではなく、基金の加入者のため「だけ」に働くことが求められている(「プルーデントマン・ルール」と呼ばれる考え方だ)
有識者会議が、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような投資家が、JPX日経400に、直ちに資金を投入することを想定していたのだとすると、彼らは有識者の名に値しない危険な木偶の坊である。
JPX日経400のインデックス・ファンドに年金基金が投資することは、運用会社にとってはパッシブ運用であるが、同時に、年金基金自身が責任を負うアクティブ運用である。その覚悟を持ち、それにふさわしい検討プロセスを経て投資した年金基金が一体幾つあるのだろうか。
唯一の救いは、この運用は、商品としてはインデックス・ファンドなので、低廉なインデックス・ファンドのフィー(運用料)で運用されることだ。手数料の高いアクティブ運用の資金枠を削って、こちらに回したのなら、運用の改善になっている可能性がある。
ヘッジファンドやオルタナティブ運用といった、実質的な手数料が高い、年金基金が金融機関のカモになる運用に、あわよくば公的年金の資金を振り向けようとしている連中の所行に比べると、(少額なら)JPX日経400に投資することの悪影響は小さい。
「そこまで言わなくてもいいではないか」と言いたくなる基金の担当者がいるかも知れないが、年金運用の基本に関わる問題なので、この際指摘しておきたい。
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