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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 「リーマンショック」に備えよ
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週刊実話 2014年4月10日 特大号
いま、エコノミスト、政府関係者、政治家の景気見通しはほぼ一致している。それは、今年4月から6月期は、駆け込み需要の反動で景気が低迷するものの、7月以降は切り返して、現在の順調な景気回復軌道が続くというものだ。
しかし私は、そう簡単に景気は回復軌道に戻らないと思う。それどころか、少なくとも家計は、リーマンショック並みの大打撃を受けると考えている。その理由は、高率インフレの下で所得が伸びず、実質賃金が大幅に低下するからだ。
まず、インフレ率から考えよう。4月から消費税率が3%引き上げられる。消費税には保険診療費、家賃、学校教育費など非課税品目があるから、単純計算だと消費税引き上げに伴って消費者物価は2.2%上がる。しかし私は、2.5%上昇するとみている。
例えば保険診療費は非課税だが、病院は電気代や水道代といった経費を負担している。経費には消費税がかかるから、消費税が引き上げられても、診療報酬をそのままにしていたら病院が赤字転落してしまう。
現に、4月からの診療報酬は消費税対応分として、1.1%引き上げられることが決まっている。また、消費税引き上げにともなって3%以上の価格引き上げになる商品も多い。自販機で10円単位の価格設定が必要な電車の切符、缶ジュース、タバコなどに加え、理髪店のQBハウスが、10分1000円の料金を1080円に引き上げるなどの動きもある。
こうした消費税対応の価格引き上げに加えて、日銀が2年間で2%の物価上昇を目指した異次元金融緩和を実施している。この影響で、すでに今年1月の消費者物価上昇率は1.3%上昇となっている。
また、日銀が設定した2%物価上昇の目標期限が来年度末であることを考えると、来年度の金融緩和による消費者物価上昇は、1.5%となるだろう。
消費税引き上げの影響と合わせると4%の物価上昇し、これは'81年以来33年ぶりの高率インフレだ。しかも、33年前は物価上昇を上回る賃金上昇があったが、今年はそうはいかない。報道ベースでは、6年ぶりのベースアップが大手企業で続出したことで、賃金上昇ムードが高まっている。
しかし、冷静にみれば、結果は手放しで喜べるものではない。まずベアの水準が低いことだ。例えば史上最高益が見込まれるトヨタでさえベアは2700円で、ベア率だと0.7%程度だ。
そしてもうひとつの問題は、企業間、業種間の格差が大きいということだ。同じ自動車でもスズキのベアは800円、高島屋のベアは500円にとどまっている。中小企業の賃上げ環境は、さらに厳しい。だから全体としての賃金上昇率は0.5%程度にとどまるだろう。
そうなると、物価上昇率が4%だから、実質賃金上昇率はマイナス3.5%となる。これは戦後最大の所得減少ということだ。いままで一番実質賃金が減少したのは、リーマンショック翌年の'09年のことで、マイナス3.4%だった。
また高齢世帯は、現役世代よりもっと厳しい。公的年金が昨年10月に1%引き下げられ、4月からさらに0.7%引き下げられるからだ。こうした所得環境の下で、エコノミストたちは何を根拠に、景気楽観論を唱えているのだろうか。
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