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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第69回 焦る日本政府
http://wjn.jp/article/detail/8522768/
週刊実話 2014年4月3日 特大号
消費税増税を控え、最近、日本政府の「焦り」が目立つようになってきた。
例えば、甘利明経済再生担当大臣は、3月11日の閣議後の記者会見において、
「政府は賃上げの環境整備のため、法人税の減税を前倒しして原資を渡している。利益が上がっているにもかかわらず、なんの対応もしない企業は、経済の好循環に非協力的だということで、経済産業省からなんらかの対応があると思う」
と、語った。
「いつから日本は統制経済国家になったのだ」
と、皮肉な感想を覚えてしまう。「無条件」の法人税減税をした際に、企業が政府の要請に応じて賃上げをする「義務」などないことくらい、はじめからわかっていそうなものだが。
政府が法人税を(無条件に)引き下げた場合、企業側は何もしなくても純利益が増える。増えた利益を賃上げに使うのか、国内に設備投資するのか、株主の配当金に回すのか、内部留保を積み上げるのか、あるいは「外国に投資」するのかは、企業の勝手である。
当たり前だが、企業が内部留保を増やし、海外に直接投資をしたところで、日本国民の雇用は増えず、所得も拡大しない。
だからこそ、筆者は「法人税減税は設備投資(もちろん国内限定)減税と賃上げ減税に限定するべき」と主張し続けていたのだ。設備投資減税や賃上げ減税ならば、政府が法人税を引き下げた際に、国内に雇用が創出され、国民の所得が「必ず」増える。
一応、日本政府は設備投資減税や賃上げ減税も実施するのだが、合わせて復興増税の前倒し解除が決定した。すなわち、無条件の法人税減税である。
我が国の'13年第4四半期(10〜12月期)の経済成長率は、予想通り速報値から下方修正された。実質GDPで見た経済成長率は、対前期比わずか0.2%。日本経済は失速した。
しかも、土木・建設産業等で人手不足が深刻化し、公共事業の消化すらままならない。この状況で4月に消費税が増税され、国民の消費は確実に減る。
そんな環境下において、民間企業が喜んで賃上げに応じてくれるだろうか。あり得ない。無条件の法人税減税で純利益が増えた企業は、内部留保を積み増し、投資するとしても「海外」というのが関の山であろう。
一部、4月のベアを決断した大手企業もあるが、それにしても基本給を1%程度引き上げるに過ぎない。消費税増税により、名目の物価は2%上昇する。ベアが行われた企業ですら、実質賃金はマイナスに陥る。
実質賃金が下がり続けると、国民は怨嗟の声を上げる。何しろ、消費税により物価が上がっても、「政府に分配される所得」が増えるだけの話で、国民の所得が大きくなるわけではないのだ。
無論、日本政府は消費税増税による経済の落ち込みを受け、大慌てで補正予算を組もうとするだろう。5.5兆円の景気対策も、すでに決定している。
とはいえ、現在の日本は「デフレ」から「インフレ」へと移行する過渡期で、かつて経験したことがない歪みを抱えている。すなわち「人手不足であるにもかかわらず、実質賃金が低下している」のが現在の日本だ。
政府が緊急的に財政支出を拡大し、景気を下支えしようとしても、土建産業の供給能力不足がボトルネック(制約条件)になり、短期ではどうにもならない。結果、安倍政権の支持率は激減することになる(我が国の「正しい人手不足の解消方法」については、本連載第65回、第66回で解説した通りだ)。
その時点で、政府が、
「法人税を減税したにもかかわらず、企業が賃金を十分に引き上げなかったせいだ」
などと言い訳をしたところで、誰も聞く耳を持つまい。
もう一つ、日本政府にとって衝撃的な事実がある。
それは、アベノミクスにより円安が進行した2013年すら、我が国の輸出がそれほど増えていないという現実だ。
日本の財(製品)の輸出額は毎月せいぜいが6兆円程度で、実のところ民主党政権時代と比べて劇的に伸びているわけではないのだ。
日本銀行は3月10日〜11日に開催した金融政策決定会合で、輸出について、前月の「持ち直し傾向にある」から「このところ横ばい圏内の動きとなっている」へと下方修正した。
実は、我が国の製造業はリーマンショック以降の輸出激減を受け、工場を続々と海外に移し、国内産業の空洞化がさらに進んだのだ。結果的に、単純に「円安になれば、輸出が増える」状況ではなくなっているのである。
それどころか、円安は鉱物性燃料の輸入価格を引き上げる。我が国は現在、全ての原発を停止しているため、LNG(液化天然ガス)に代表される鉱物性燃料の輸入総量が激増している。そこに円安が被さってきたため、「輸出が増えない中、輸入金額だけがひたすら増える」有様になり、貿易赤字が膨張していっているのだ。
貿易赤字は「日本国民の所得が海外に流出した」と同じ意味である。
結局のところ、金融政策を拡大し(これ自体は間違っていないが)為替レートを円安に導き、法人税を引き下げ、企業の投資を喚起するという、新古典派的な経済政策は現在の日本に適していないのだ。
何しろ、資本移動は自由化されており、企業は資金的余裕が生じたときに、国内投資ではなく海外投資に振り向けることができる。
今後の安倍政権は、特に来月以降、「こんなはずではなかった」ケースに相次いで遭遇することになるだろう。
その時点で「経世済民」の基本精神に戻り、軌道修正をかけられるか否かにより、安倍政権が長期政権になるか、あるいはレームダック(役立たずの政治家)化するかが決まる。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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