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http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYEA2P06020140326
2014年 03月 26日 18:48 JST
亀岡裕次 大和証券 チーフ為替ストラテジスト(2014年3月26日)
近年の国際収支状況を振り返ると、2013年は12年に比べて国内への資本流入が強まったことがわかる。
12年は、経常収支はプラス4兆6817億円(プラスは資本流入)、外貨準備を除く金融収支はプラス7兆9655億円(プラスは純資産の増加=資本流出)、外貨準備はマイナス3兆515億円(マイナスは純資産の減少=資本流入)だった。金融収支での資本流出が経常収支での資本流入を上回り、外貨準備での資本流入がそれを埋めた。
これに対し13年は、経常収支はプラス3兆3061億円、外貨準備を除く金融収支はマイナス5兆3523億円、外貨準備はプラス3兆8504億円だった。外貨準備を除く金融収支が資本流入に一転して、経常収支と合わせた資本流入が拡大し、外貨準備が資本流出に転じた。つまり、13年は経常収支の黒字は減少したが、円安が進むなかで証券投資での純資産減少(資本流入)が大幅となり、円高方向への圧力が大きかったと言える。
では、14年はどうなるだろうか。13年のように円安進行は当初、すでに保有している外貨資産の売却を促しやすいが、円安が継続するとの見通しが台頭してくると、外貨資産の取得を促すように変化したケースが過去にはある。実際に14年2月以降、対外証券投資の売却超過(資本流入超過)が減少し始めているうえ、対内証券投資の取得超過(資本流入超過)も減っており、金融収支の動きを左右する証券投資での資本流入は縮小しつつある。
一方で、経常収支の悪化が加速している。14年1月の赤字額は季節調整後で5883億円となり、12年9月の1954億円、13年11月の1063億円を大幅に上回った。貿易収支とサービス収支が悪化していることが原因だが、特に貿易収支の悪化が大きい。
もし金融収支の資本流入が減るとともに、経常収支の資本流出が拡大するならば、円安方向に作用することになる。為替への影響を考えるうえで、貿易収支の動向が重要だろう。
<円安効果による貿易収支改善はまだ先か>
貿易収支を、輸出入物価の価格変動を除いた実質貿易収支と、輸出入物価の比率である交易条件とに分解すると、貿易収支の悪化が主に実質貿易収支の悪化によるものだとわかる。
世界的な景気回復局面になると国際商品市況が上向いて、製品中心の輸出物価よりも一次産品中心の輸入物価の方が上昇して交易条件は悪化しやすい。また、貿易取引通貨における円建て比率は輸出が35.6%、輸入が20.6%(13年下半期、財務省調査)なので、円安基調の下では円ベースの輸出物価よりも輸入物価の方が上昇して交易条件は悪化しやすい。したがって、実質貿易収支が改善傾向に転じない限りは、貿易収支は改善しないだろう。
12年10月より円安が進み始めてからすでに1年半が経過しようとしているが、実質輸入が増加基調をたどる一方で実質輸出はいまだに横ばい傾向を脱しておらず、円安効果による収支改善はみられていない。ただし、プラザ合意後の1987年から06年までの20年間でみると、貿易収支は為替に2年ほど遅れて基調転換する傾向がある(例外として、08年は円安効果よりもリーマンショックが強く影響して貿易収支が悪化した)。今回にあてはめると、14年8―10月頃から貿易収支が改善に向かい始める可能性がある。
ここで重要なポイントは、貿易収支が改善に転じてすぐに円高に転じるわけではないことだ。過去を振り返ると、1年程度の時間差を置いて為替は基調転換する傾向があるので、円高に転じるのは15年8―10月頃になる可能性が比較的高い。
つまり、円安効果で日本の貿易収支が改善し始めるにはまだあと半年程度はかかる可能性が高く、そうなった後も1年近くは円安基調が続きやすいと考えられる。
<海外生産拡大で円安感応度が低下>
日本の鉱工業出荷(=国内向け出荷+輸出向け出荷)に占める輸出の比率は13年に19.8%と、08年の19.1%からわずかな上昇にとどまっている。この間、内需に比べて外需は堅調に推移したはずだが、円高によって輸出が増えにくかったうえに海外生産による輸出代替が進んだとみられる。
海外生産比率は長期的に上昇傾向にあり、12年度には20.6%と初めて20%を超えた(13年度見込み21.6%、18年度見通し25.5%)。12年にかけての円高を受けて、12年度の海外生産比率は前年度よりも3.4%ポイントも上昇し、上昇幅は過去最大だった。そして、海外生産の拡大とともに総供給(=国産+輸入)に占める輸入の比率も上昇傾向にあり、08年の20.1%から13年には23.6%に上昇した。
円安が時間をかけて実質輸出にプラス、実質輸入にマイナスに働き、貿易収支を改善させる効果は今なお存続していると考えられるが、海外生産比率と輸入浸透度の上昇を背景に、円安が日本の貿易収支や企業収益に与えるプラス効果は低減しているとみられる。その結果、以前よりも大幅に円安が進まないと貿易収支改善を通じて円高基調には転換しにくくなっているとも言える。
日米購買力平価からの円安・ドル高方向への乖離率が、日本企業の海外生産が拡大し始めた80年代後半以降、長期的に拡大しているのはそのせいだろう。このことからすれば、14年は少なくとも1ドル=110円程度までは円安・ドル高が進みやすいと考えられる。
<シェール革命と円供給拡大が110円超え後押し>
さらに、その他の要因を考慮すると、110円を超える可能性が高いと言える。一つは、米国においてシェールガス開発を背景にエネルギーの輸入依存度が低下し、貿易収支が改善しやすくなっていることだ。エネルギーの実質貿易収支が明確に改善し始めたのは08年以降であり、07年にかけての円安・ドル高よりも購買力平価からの乖離率を大きくする一因になりうるだろう。
もう一つは、日銀の量的緩和により円供給が拡大していることだ。11年までは米国の量的緩和によるドル供給ペースが円供給ペースを上回っていたが、12年以降は逆転している。03年にかけても円供給ペースがドル供給ペースを大幅に上回った時期があったが、当時は日本の貿易収支改善が円高に働いた。今回は、日本の貿易収支悪化、米国の貿易収支改善、ドル供給を上回る円供給の3つが重なり、ドル110円超えの公算は大きいと考えている。
*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
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