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ジム・ロジャーズ氏〔PHOTO〕gettyimages
「世界一の投資家」に独占インタビュー ジム・ロジャーズ「日本経済に何が起きるのか、教えましょう」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38748
2014年03月25日(火) 週刊現代 現代ビジネス
日銀の政策は、株式トレーダーを喜ばせるだけ・消費税増税は最低最悪の愚策だ
'70年代から日本への投資をしてきたこの投資家は、かつて日本のバブル崩壊を予見したことで知られる。アベノミクス相場ですでに大儲けした男が次に賭けるのは、日本の成長か、それとも崩壊か―。
■私が日本株を持つ理由
安倍晋三首相が進めているアベノミクスは、これまで多くの海外投資家を惹きつけ、日本企業の株価を大きくアップさせました。
私もアベノミクスが始まれば株価が上がるという確信があったため、日本株を所有し、儲けを得ることもできました。
今後1~2年、日本株はさらに上昇すると思います。私がいまNTTなどの日本株を持っているのも、それが「上がる」と信じているからです。
しかし、「その後」を考えた時には、暗澹たる気持ちにならざるを得ません。長い目で見ると、アベノミクスというのは、日本経済を破壊する政策でしかないからです。
20年後から現在を振り返った時、安倍首相という人物は、日本経済を破壊するとどめを刺した張本人として語られているに違いありません。日本人は早くそのことに気づくべきではないでしょうか。
ジム・ロジャーズ。'42年米国生まれの71歳。'70年代にジョージ・ソロスとともに立ち上げたヘッジファンドのクォンタム・ファンドが、10年間で3000%を超えるリターンを稼ぎ出したことで知られる、伝説の投資家である。
ファンドから独立した後も、'87年の米国のブラックマンデーや、'90年代の日本のバブル崩壊を予見。現在も世界各国の情勢を分析し、株、債券、商品などに投資をして大儲けしている現役にして「世界一の投資家」だ。
'07年から移住したシンガポールの自宅にて、本誌の独占インタビューに応じた。
アベノミクスはダメだと言っているくせに、なぜあなたは日本株を持っているのか。そんな質問が方々から飛んできそうなので、まず初めにその理由をお話ししましょう。
今年に入って、海外投資家が日本株の売りを加速させていることで、「日本株は終わった」などと訳知り顔で語る人がいますが、これは大いに間違っています。
なぜかといえば、安倍政権が誕生した'12年末当時を思い出せばその答えは明らかです。
当時、海外投資家が我先にと日本株に殺到して「買い」を入れ、これが日本株の上昇のスタート地点となりました。
彼らがなぜ「買い」に走ったかと言えば、民主党政権から安倍首相率いる自民党政権に代わって、紙幣をジャブジャブ刷って、市場に大量に流す政策に舵がきられたから。その一点に尽きます。
紙幣が刷られると株価が上がるというのは歴史が証明していることであり、ほぼあらゆる投資家たちがその「真実」に忠実に行動したまでなのです。
そして、現在の安倍政権はなお多くの紙幣を市場に供給しようとしている。今年1月からはNISA(少額投資非課税制度)といった税制優遇措置も始めた。こうした政策が、今後も株価の上昇をもたらすことは容易に想像できます。
日本株の終末説を語る人は、「すでに株価がバブル状態になっている」とも主張しますが、これにも騙されてはいけません。
日経平均株価は'89年末に、3万8957円という史上最高値を付けているのですよ。現在の株価はそれよりまだ6割ほど低いのです。日経平均株価はまだバブルというほどではないし、割高と言われる水準にも達していません。
海外投資家がいま日本株を売っているのは、一時的に利益確定しているにすぎない。まだ株価の天井は先にあるのに、彼らが売ってくれているというのは、逆に「チャンス」ともいえるでしょう。
■日本人の暮らしはどうなる?
とはいえ、この株価上昇も「今後1~2年」の話です。そこから先は、アベノミクスが日本経済の根幹を蝕んでくるからです。
アベノミクスは第一の矢である金融緩和、第二の矢である財政出動、第三の矢である成長戦略という3本の矢だと言われていますが、第一の矢と第二の矢しか実行に移されていません。
特に第一の矢である金融緩和によって円という通貨の価値を切り下げたことで(つまりは円安に誘導したことで)、日本の企業は息を吹き返したように語られています。しかし、実はこうした通貨切り下げ策が中長期的に一国の経済を成長させたことは一度としてありません。
確かに金融緩和によって株価は上がりました。円安によって、一部の企業も恩恵を受けています。
しかし、円安になったり、株価が上がったりしたことで、日本人の生活や暮らしはよくなっているでしょうか。綿、銅、食品など日本が輸入に頼っている製品の価格が上昇したことで、庶民の生活費はむしろ上がったのではないでしょうか。建設コストや製造コストが上がったことで、苦しめられている企業が出てきていないでしょうか。
現実をよく見れば、1億人を超える日本人のほとんどが幸せにならずに、一部のトレーダーや大企業だけが潤っている。それが果たしてよい政策といえるでしょうか。安倍首相の答えは「イエス」でも、多くの日本人にとっては「ノー」でしょう。
3月11日の会見で日本銀行の黒田東彦総裁は慌てて否定をしていましたが、いま日銀が追加の金融緩和をするのではないかと囁かれています。これも馬鹿げた話です。
追加緩和を実施すれば株価が上がるので株のトレーダーはまた大喜びするでしょうが、多くの日本人にとってはコストアップという形でより首を絞められることになるだけです。追加緩和への期待感がマーケットでしか騒がれていないことが、いかにも象徴的です。
そもそも、安倍首相や黒田総裁は、「2年で2%」というインフレ率を達成できると息巻いていますが、政府というのはそんなに利口ではありません。むしろインフレ率が2%を超えて制御不能になるシナリオのほうが現実的ではないでしょうか。その暁には、ただでさえ厳しい生活コストがさらにアップすることになるわけです。アベノミクスの恐ろしさが少しは理解していただけたでしょうか。
アベノミクスの第二の矢、財政出動もひどいものです。私から見れば、これは「日本を破壊します」という宣言にしか聞こえません。
なぜかといえば、日本はすでに先進国で最悪レベル、GDP(国内総生産)の240%という財政赤字を抱えています。その額は1000兆円を超す巨額赤字にもかかわらず、安倍首相がさらに借金を膨らませて無駄な橋や高速道路を作ろうとしているのは正気の沙汰とは思えません。
いま日本政府が取り組むべきは、チェーンソーを手に取って、無駄な財政支出をカットすることなのに、安倍首相はなにを考えているのか、完全に逆行しているわけです。
そこへきて、この4月からは消費税を5%から8%に増税するというのだから、クレイジーですよ。増税して得た予算は社会保障の充実に使われるとされていますが、本当は無駄な橋や道路を作ろうとしているのでしょう。
安倍首相が借金に目をつぶっているのは、最終的に借金を返さなければいけなくなる時には自分はもうこの世にはいないから、関係ないということでしょう。そのツケを払うのはいまの日本の若者です。
いま日本がやるべきは、減税と支出削減です。日本人は安倍首相から予算の権限を奪い取ったほうがいいかもしれません。きっと1億人の日本人のほうが、自分や自分の子、孫のことを考えてより賢明な決断ができると思います。
法人税の減税はどうか?確かに安倍首相は法人税の減税に取り組もうとしており、これは評価できます。しかし、法人税の減税がそれ以外の部分の増税とセットになっていることにお気づきでしょうか。消費税がまさにそうですし、最近では所得税の増税も検討され始めたそうではないですか。
法人税減税が行われれば、海外投資家はさらに日本株への投資を増やすので、株価は上がります。一方で、消費税や所得税などが上がれば、多くの日本人の生活は苦しくなるばかりです。つまり、これもマーケットにとっては嬉しいけれど、日本人にとってはよくない政策ということです。
繰り返しになりますが、アベノミクスで日本経済が成長することはできません。しかも、アベノミクスの悲劇が深刻なのは、本質的な問題を隠そうと莫大な量の紙幣を刷って、大規模な財政支出を続ければ続けるほど、後世の日本人が背負う借金が膨れ上がってしまうことにあります。
■「戦争→株価暴落」の現実度
現在の米国経済を見ればその実態がよく見てとれます。米国経済というのは、4~5年ごとに経済停滞に見舞われ、その度に紙幣をジャブジャブ刷ることで問題を先送りにしてきました。
現在も中央銀行であるFRBが紙幣を刷り、政府が莫大な財政支出を行っていますが、経済はほとんど改善していません。
直近で発表された雇用統計を見て、米国経済が復活してきたと指摘する人もいますが、実はこれはリーマン・ショックが起きた'08年時とほとんど変わらない数字なのですよ。FRBはこの5年ほどでバランスシートを4倍に膨らませましたが、なんら効果がなかったということが明らかになったわけです。
米国にしろ、日本にしろ、こんなバカげた政策はいますぐに止めるべきです。このまま続けていたら、最終的にはどうなってしまうのか。それは巨大な経済破綻でしかありません。そして最終的には、1929年の世界大恐慌のような状態になってしまうのです。
それなのに、この2月22~23日に開催されたG20に出席した麻生太郎財務相が、GDPを今後5年間で2%以上上げるという共通目標について、「不可能ではない」などと語っていたので、驚きました。
2%の成長などは到底無理です。そもそもこうした国際会合というのは、いつも聞こえのいい夢のある物語ばかりが語られますが、それが実現することはめったにないものです。
'08年にリーマン・ショックが起きた後に、中国の成長が世界経済を牽引したような展開を再び期待する声も聞こえてきますが、それはありえないでしょう。
理由は簡単で、中国の「顧客」である米欧日の景気が失速していることでその悪影響が中国経済を直撃し、中国がかつてのような成長をすることができないからです。
中国政府は大気汚染対策や、鉄道システムの敷設に巨額マネーを投じると言っていますが、それで潤うのは中国経済の一部でしかありません。こうした政策を実行しても、以前と同じように強力に世界経済を牽引することはできません。
日本政府は、「5年で2%成長できる」などとありえない楽観シナリオを描いていないで、世界を騒がせているウクライナ情勢への対策を冷静に立てるべきではないでしょうか。
ウクライナ問題については、ドイツをはじめとするEU諸国がロシアの天然ガスに依存しているという構造を考えれば、すぐに有事に発展することはないでしょう。しかし、それは「今年は」という条件付きでしかありません。
世界の歴史を振り返れば、どんな戦争も、その発端はほんの些細な出来事であったりするものです。小さな事件があちこちで起きるようになり、気付いた時には深刻な戦争状態になっているというのが、歴史の教訓なのです。第一次大戦も、第二次大戦もそうでした。
翻って日本は、東アジアの本当に馬鹿げた緊張状態に直面しています。安倍政権の外交政策によって、日本と中国の間だけではなく、日韓間でもいさかいが起きています。
私は東アジアですぐに戦争が起きるとは思いませんし、それを望んでいるわけでもありませんが、政治家の失政が戦争を招くというのが歴史の必然です。
もし戦争という事態になれば、日本企業の株価が信じられないほどに暴落するのは言うまでもありません。日本人はなにが起きてもおかしくないと、身構えておいたほうがいいのかもしれません。
■国家破綻はありえるのか
悲観的なことばかり申し上げているようですが、日本経済を復活させる手がないわけではありません。
たとえば、安倍政権はTPP(環太平洋経済連携協定)に前向きな姿勢を見せていますが、これが実現すれば日本経済にとっては素晴らしい妙手になります。
市場がオープンになることによって、海外から安い製品が買えるようになる。そのうえ、アベノミクスによって引き起こされるインフレの悪影響を軽減する効果も生まれてきます。
この2月にシンガポールで行われたTPPの閣僚会合で大筋合意に至らなかったのは残念でしたが、これについてどの政府が悪いという「犯人探し」をしても意味がありません。4月のオバマ大統領の訪日に向けて、このほど日米両国が実務者レベルの個別協議を再開するようなので、安倍政権は是非とも妥結に向けて全力で取り組んでもらいたいと思います。
また、この2月の衆議院予算委員会で、安倍首相が移民政策について「国民的議論を経た上で検討する必要がある」と語ったことは前向きな姿勢だと受け止めています。
移民を受け入れることは、一国の経済を成長させるのに非常に有効に働きます。たとえば米国が世界一の経済大国になれたのは、移民の国だからです。移民を受け入れることで、能力がある人、野心がある人、やる気がある人が続々とその国に押し寄せ、経済を牽引する原動力になってくれるのです。
私がいま住むシンガポールも移民の国です。40年前は200万人の人口でしたが、世界各国の人材を受け入れる姿勢を表明したことで、いまでは人口が500万人を超える規模となり、世界の金融センターの地位も獲得しました。
日本という国は移民を嫌い、これを受け入れてこなかったことで多様性が失われてしまいました。そのうえ、これからはいまだどの国も直面したことのない急激な人口減少・少子高齢化社会に突入することになります。
国を移民に対して開くことで、この2つの大問題を解決することができるのです。現在の安倍政権の動きを見ると、移民政策についてはこれまで目立った政策を実行していません。手をこまねいていれば、アベノミクスによる悪影響が日本経済を蝕むばかりです。
安倍首相は、できるところから一つ一つ、いますぐにでも手をつけなければいけません。
政府支出のカットにしても、政府が支出を削れば、これまで政府予算に頼って生きてきた人たちが苦しむことになります。しかし、彼らはこれまでさんざんフリーランチ(ただ飯)を食べてきた人たちなのですから、それを躊躇する理由は見当たりません。
このままいけば、日本は高齢者ばかりが増え、庶民はインフレによる生活苦に悩まされ、人口減少で経済全体がシュリンクしていく中で、国の借金だけが膨れ上がり続ける。そんな貧しい国家に落ちていくでしょう。
最悪の場合、借金を返せなくなり、国家が破綻することだってありうるのです。今後10年で、世界各国で破綻する国が出てくるでしょうが、米国だって日本だって例外ではないということは肝に銘じておいたほうがいい。仮に日本が国家破綻するとなれば、その直前に多くの投資家が日本株を大量に売り浴びせることになるでしょう。
アベノミクスはすでに日本経済の土台を溶かし始めています。残された時間は、決して多くはないのです。
【インタビュアー・大野和基(ジャーナリスト)】
「週刊現代」2014年3月29日号より
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