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TPP農業開放は"逃げ切れる"か?迫られる、反対運動から「攻めの準備」へのシフト
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140323-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 3月23日(日)7時22分配信
TPPとは「環太平洋戦略的経済連携協定」が正式名称であり、環太平洋の各国で関税・非関税障壁を撤廃して自由貿易を強化しようというものです。我が国も昨年から本格的に交渉に参加し、本年も合意に向けた厳しい交渉を進めています。
なぜ交渉に参加したのかというと、「国際情勢をみる限り不可避であった」と考えるのが妥当だと筆者は考えています。つまり黒船がやってきたのに「帰ってください」とは言えない状況である、ということです。
●農業は、なぜ関税に守られてきたのか
まず大きな問題は、農業分野の関税をどうするかという点です。我が国の農業は高めの関税によって保護されてきた側面があります。ここには大きな意味があるのですが、農業だけが守られているのはなぜなのかわからない人も多いと思います。
守られないといけない理由としては、端的にいうと「日本経済そのもののバランスを維持するため」といえます。農業が成立するということは、地方に住む人がいて地方の経済が回る状況になります。都市部では工業やサービス業といった産業によって経済が回っていますが、地方でそのような経済を生むのは容易ではないことから農業が極めて重要な産業になりますし、逆に都市部にも地方の人々をすべて雇えるような雇用吸収力はありません。こういった状況を、開発経済学の用語では「二重経済」といいます。
そもそも日本は、国内で一定の所得水準を全体で維持しにくくなってきたことから、構造改革の政策によって規制緩和を進め、非正規社員の枠を増やし「雇用だけは」維持してきたのです。その結果として1人当たりの実所得はこの10年間は減少傾向にあります。なぜ所得が下がったのかというと、90年代後半から新興諸国の成長で徐々に経済面で追いつかれ始めたことによります。これは経済学では「要素価格均等化の法則」あるいは「ストルパー・サミュエルソンの定理」というもので、数学的に証明されている「事実」です。
地方で経済が回らなければ、都市部経済への依存度は高くなります。事実、現在は農業だけでは成立しにくくなってきたことから、多くの土木事業(公共事業)が雇用維持の方法として使われるようになり、地域の経済維持のため都市部から吸収された税金が地方に分配されて日本経済のバランスを維持してきたといえます。
こうした状態の中で農業が崩壊して地方経済が完全に止まると、都市部ではかなりの失業率が発生し、社会負担が今以上に大きくなりすぎて、国家の財政バランスが持たなくなるという状況を前提として理解しておく必要があります。つまり、農業を関税で守ってきたのは、「農家のため」というよりは「国のため」といえます。
かといって、現在の戦略が永遠にうまくいくかというと、そうでもありません。日本の工業製品を輸出するという面で諸外国に貿易自由化を求めながら、海外からの輸入品には高い関税を設けるというのは、ルール上できないバーターなのです。「農業を保護すべきである」というのはあくまで日本の立場でしかなく、海外から見るとフェアとはいえません。よって、我が国が世界の中で貿易立国として生きていく以上は、我が国の関税を下げるように国際的な力が働くのは不可避です。今まではそうした力を周辺諸国が保持していなかっただけなのですが、そうした国々の経済力が大きくなった現在では、「日本の独り勝ち」という状況はもう許されません。つまり、TPPに関しては「逃げ切れなくなったから応じざるを得なくなった」ということになるでしょう。
●国際競争力強化に向けた戦略づくり
では今後TPPをめぐる動きはどうなるのかというと、「交渉に時間がかかっても農業分野の関税は現状のそのままで決着する」と楽観視できない状況です。堅守したくても難しい、ということもシナリオとして知っておくべきです。難しいならば交渉の間に(あるいは実際に関税が引き下げられるまでの間に)、どのようにしたら国際競争力が高まるのか真剣に考えて戦略をつくり、世界に勝てる産業に変えていくことが、ビジネスの観点からは選ぶべき選択肢なのだと思います。
なお、TPPの非関税障壁撤廃の中には、衛生管理の水準を国際貿易レベルに上げるということも入ってきます。例えば水産加工施設に関しては、アメリカはHACCP(危害分析・重要管理点手法)普及率100%に対して、日本では20%程度です。こういった遅れた部分を限られた時間の中で改善していくことも重要です。改善すべき部分はたくさんあります。しかし改善できるものである以上、早急にその準備を今始めることが大事なのであって、TPP反対運動にすべての費用や時間、エネルギーをつぎ込むのは極めてリスキーなのではないでしょうか。
ちなみに、そもそも実質関税が最大3.5%の水産物はすでにほぼ自由化品目なので、水産業はこれから世界で十分に戦うことができる産業です。オンリーワンである日本酒、その原料である酒米、味噌や醤油や緑茶、ミカンやリンゴなど、勝負できる商品はたくさんあります。こういった分野で世界市場を開拓していくためには、商社任せだけではない、「包括的マーケティング」が必要になってきますが、日本企業がすでに持つノウハウを集めていくことができれば、むしろ地方が経済を引っ張る存在になると思います。守りに入るのではなく、攻めなければならない時期に来たということでしょう。
有路昌彦/近畿大学農学部准教授
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