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ANA、なぜ急減速?広がるJALとの業績差、進まないコスト削減、HD制と増資が仇に
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140321-00010005-bjournal-bus_all
Business Journal 3月21日(金)4時51分配信
東京国際空港(以下、羽田空港)の国際線発着枠獲得競争で日本航空(以下、JAL)に圧勝したというのに、全日本空輸を傘下に持つANAホールディングス(以下、ANA)の顔色がさえない。足元の業績が低迷しているからだ。
国土交通省は昨年10月1日、今年3月30日から拡大する羽田空港の国内航空会社向け国際線発着枠16枠のうち、ANAに11枠、JALに5枠を配分する決定を下した。それまで水面下で繰り広げられていた国際線発着枠獲得競争に、ANAが圧勝したかたちだ。
この勝利は、ANAの業績へのプラス効果が極めて大きいといわれている。1枠当たり年間の売上高約100億円、営業利益約10億円の増収増益が見込めるからだ。つまり、今回の6枠差の配分で、ANAはJALに対して年間で売上高約600億円、営業利益約60億円の業績差をつけられるのだ。
そのせいか、配分決定直後こそANA株は上がり、決定2日後の昨年10月3日には一時223円と同5月末以来の高値を付けたものの、その後は株価が反転して下げ基調になり、8日の終値は211円まで下げた。証券アナリストは「10月の株価反転は、ANAに対する投資家の消し難い経営不安感が背景にあった」と指摘する。つまり、新枠獲得の業績貢献が1〜2年先になるのに対して、市場では「14年3月期の業績予想は下方修正」との見方がされたのだ。
実際、ANAがその月末の31日に発表した14年3月期中間連結決算は、売上高が前年同期比5.9%増の7976億円だったものの、営業利益は同42.5%減433億円、最終利益は同45.7%減の200億円だった。そしてANAは、決算と同時に発表した通期業績見通しも、営業利益は当初見通しを500億円も下回る前期比42.2%減の600億円に、最終利益は当初見通しを300億円下回る前期比65.2%減の150億円に下方修正した。
これに対して、「焼け太り再生」と揶揄されたJALの中間決算は、売上高が前期比4.0%増の6593億円、営業利益が同14.6%減の958億円、最終利益が17.8%減の819億円と、ANAとの財務体力差は明らかとなった。
これに追い打ちをかけたのが、14年3月期第3四半期のANAの連結決算内容だった。営業利益は前期比35.8%減の691億円、最終利益は同36.2%減の333億円という落ち込みようで、この理由を同社の伊東信一郎社長は「航空事業のコストの4分の1を占める燃油費が、円安の影響で約25%も増加したのが主な要因」と釈明した。だが、この外部要因にさらされたのはJALも同様で、伊東社長の釈明は「投資家には、その場しのぎの言い訳にしか聞こえなかった」(証券アナリスト)という。
●国際線強化に活路
加えて航空業界関係者は「今のANAは、企業体力を回復してきたJALに再び追い込まれている」と指摘する。
会社更生法の適用を受けたJALが企業体力を回復した要因は、業界で「3点セット」と呼ばれている。1つ目は財産評定効果で、機材等資産の簿価から時価への評価替えにより、減価償却負担が軽くなった。2つ目は金利負担の減免で、銀行などからの計5215億円の債権放棄により、現在のJALは無借金経営。対してANAは8500億円超の借金。そして、3つ目は法人税減免で、その額は10-18年度の9年間で約4000億円に上る見通し。「JALはこの3点セットで焼け太り、当社は不公平な競争を強いられている」と、ANA関係者は憤慨する。
そんな中、ANAは今年2月14日、14-16年度のANAグループ中期経営戦略を発表した。前回の中計では、15年度の営業利益目標を1500億円としていたが、これを1100億円に下方修正し、最終年度の営業利益目標も1300億円にとどめた。
発表会の席上、伊東社長は「円安進行や燃油費の高止まりでコストが急増する中、競争激化や単価下落の傾向が継続しており、事業環境が大変厳しい局面にある」と営業利益目標下方修正の理由を説明し、国際線の強化で収益拡大を図る考えを示した。
そして、国際線の強化では、
(1)羽田空港国際線新枠の活用により中長期的に有望な都市への就航を検討する
(2)16年度に国際線の生産量(座席数×運航距離)を国内線と同水準にする
(3)アジアでネットワークの相乗効果が期待できる複数の航空会社などへの出資を検討する
などの計画を示した。
●遅れるコスト削減
また、ANAは期間中に840億円のコスト削減を実現する。ちなみに前回の中計では1000億円のコスト削減を実現する予定だったが、最終的には860億円にとどまる見通し。中計推進中に持株会社制に移行した影響で、コスト削減が当初計画より遅れているのが原因と説明した。
この新中計に対しても、証券アナリストは「市場の不信感は強い。国際線の強化策は抽象的だし、コスト削減策も生ぬるい」と指摘する。
「同社はかつてコスト削減の厳しさに定評があったが、今は倒産を経験したJALのほうが厳しい。その結果、投資家にとってANAのコスト削減策は甘く見えて仕方がない」
一方、ANA関係者は「乾いた雑巾を絞るようなコスト削減努力を続けている」と、次のように強調する。
「ANAは14年から羽田空港など国内主要空港の搭乗ゲートに自動改札機を導入した。従来の搭乗ゲートには少なくとも3人の係員が待機し、乗客の案内などに当たっていたが、自動改札機導入により係員を2人に削減した。14年度中に50空港以上に導入し、年間約4億円のコスト削減を図る。ほかにも、2月から事務用品などの消耗品をグループ全体で購入する仕組みに変えた。これまでは数千社から消耗品を購入していたが、これをアスクル子会社の通販サービス『SOLOEL(ソロエル)』に一本化し、購入業務の無駄を排除した」
さらに同関係者によれば、同社は今年4月から本社フロアを半分に削減し、入りきらない部門を賃料の安いビルに移転するなどして、13-15年度に賃料を100億円削減するといい、涙ぐましいコスト削減努力の実情を明かす。
ところが、業界関係者によると、例えば消耗品の購入では、購入を打ち切ろうとしていた相手が大口顧客だったことが判明し、計画通りに一本化が進んでいない。また、本社フロアの半減に伴う、本社部門から営業、空港サービス等フロント部門への人員配置転換、賃料の安いビルへの移転なども大規模な人事異動と相当な移転費が伴うため、計画通り進んでいない。
さらに、昨年4月の持株会社制移行は、各事業会社が機動的かつ主体的にコスト削減を進めるのが狙いの1つだったが、「以前はトップダウンで削減できたコストが、持株会社制移行により事業会社の都合が優先するようになり、コスト削減のスピードが落ちている」(業界関係者)。
●ずさんな増資計画
こうした苦境が続くANAの業績に、ずさんな増資計画がさらに冷水を浴びせている。
同社は12年7月3日、公募増資と第三者割当増資により2110億円の資金調達を実施すると発表した。B787型旅客機をはじめとした最新鋭機の購入で欧米向け国際線の輸送能力を増強するほか、成長著しいアジアにおいて買収を含めた機動的な投資ができるよう財務基盤を強化するのが目的と説明。調達額の大きい公募増資の募集総額1840億円だった。同社が増資発表をしたのは株式市場の引け後だったが、日中にその概要が市場に知られてしまったため株価は急落、前日比14%安の193円で引けた。
株価が急落したのは「前回の増資が成長につながらなかったのに加え、今回の増資は額が大きいため、株価値の希薄化を招くと投資家の大半が判断した」(証券アナリスト)のが要因だった。その結果、同社が8月15日に発表した「増資確定」では、公募増資が約1600億円、第三者割当増資が約136億円の計1736億円にとどまり、予定資金を全額調達できなかった。
それだけではない。「目標未達」に終わった公募増資には、次のような裏話があった。
それは12年4月下旬のこと。ANA関係者は「JALの12年3月期連結決算を見ていた役員の顔が、見る間に真っ青になった」と打ち明ける。同期のANAの決算は、売上高が1兆4115億円、営業利益が970億円、最終利益が282億円でいずれも過去最高とホクホクしていたら、JALの売上高は1兆2048億円でANAを下回ったものの、営業利益は2049億円、最終利益は1866億円。営業利益はANAの2.1倍、最終利益はANAの6.6倍に上ったからだ。
「もう競争相手ではないと思っていたのに、気が付いたら以前より強靭な筋肉を身に着けてリングへ戻ってきたのに驚愕した」(ANA関係者)というわけだ。12年は「LCC元年」といわれた年でもあり、「これではLCCとJALの挟み撃ちに遭う」(同)と慌てたのも無理はないだろう。
業界関係者は「そこでANAは不利な状況を一挙に打開しようと、急遽大型増資に踏み切った。この泥縄的な増資がボディブローのように体力を弱め、業績の足を引っ張っている」と指摘する。つまり、増資により株式が大量に増えた結果、国内線で割引利用できる株主優待券が増加した。同社のエコノミークラス株主優待割引率は50%。株主優待券を使って搭乗する個人株主が増えたため、路線価格が下落した。証券アナリストによると、14年3月期第3四半期の「国内線収入は想定より収入が約140億円下振れしているが、うち約65億円は株主優待関連による」と分析している。
一方で、1736億円もの資金を市場から調達しながら、同社がこの間に決めた戦略的な投資案件は、米国でパイロット訓練事業を手掛けている「パンナムホールディングス」の買収に137億円、ミャンマーの中堅航空会社「アジアン・ウィングス」の買収25億円ぐらいのもの。増資で調達した資金をなんら有効活用できないでいるのだ。こうした実態も、投資家の「新規に獲得した羽田国際線の11枠を有効に活用し、JALとの企業体力差を縮められる智恵がANAにあるのか」との疑心暗鬼を生み出している。
証券アナリストは「ANAの経営には場当たり的な対応が目立つ。投資家の間に渦巻く経営不安を払拭するためにも、今度の11枠こそ練りに練った戦略的活用で、市場に『なるほど』と思わせる結果を出す必要がある」と、注文を付けている。ANAが市場からの信頼を回復するためには、当分時間が掛かりそうだ。
福井晋/フリーライター
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