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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第68回 ウクライナとエネルギー安全保障
http://wjn.jp/article/detail/7016079/
週刊実話 2014年3月27日 特大号
2月22日にデモ隊が大統領府に突入し、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領がロシアに亡命するという「クーデター」が発生したウクライナには、ご存知「チェルノブイリ原子力発電所」がある。厳密には「あった」と書くべきだろう。
現在、チェルノブイリ原発は廃炉にされ、周辺は緑の王国になっている。人が居住しないため、自然が復活しつつあるのだ。
さて、チェルノブイリ原発は「黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉」という長い名前の原子力発電技術を採用していた。理由はよくわからないのだが、チェルノブイリ原発には格納容器がなかった。同じ黒鉛減速沸騰軽水圧力管型を採用していても、欧米の原発には格納容器がある。
チェルノブイリ原発に格納容器が存在しなかったため、メルトダウン(炉心溶融)が発生し、爆発後に放射性物質が飛び散った。
ちなみに、福島第一原発の事故は、原発自体が緊急停止したのち、電源喪失で冷却が不可能になり、発生した水素が建屋内に貯まり、天井を吹き飛ばした。原子炉や格納容器が爆発したわけではない。
さて、チェルノブイリ事故の現場(事故当時はウクライナ共和国ではなくソ連の一部)となったウクライナであるが、実は原発推進国である。現時点でも4カ所の発電所で10基以上の原発が稼働し、さらに2030年までに10基以上を増設する予定とのことだ。
なぜだろうか。
理由は、
「エネルギー自給率が50%程度と“低い”から」
とのことである。エネルギー自給率が50%で“低い”とは、日本国民から見れば「何を贅沢なことを…」と言いたくなるかも知れない。何しろ、我が国のエネルギー自給率は(原発が動いていない現在)5%に達していない。
もっとも、ウクライナが50%のエネルギー自給率を“低い”と考えることに、それなりの理由があるのも確かだ。
ウクライナはソ連時代から、ロシアからパイプラインを通って送られてくる安価な天然ガスにエネルギー供給を依存していた。結果、同国はロシアと度重なる「ガス紛争」を起こす状況になっている。
'08年にリーマンショックが発生し、世界的な金融危機がウクライナをも直撃した。対外債務の返済不能(いわゆるデフォルト)寸前に追い込まれた同国は、IMFに緊急支援を要請せざるを得なくなった。
同じ年、'08年の末、ウクライナはロシア産ガスの料金すら支払えなくなり、ロシア企業ガスプロム社(ロシアの事実上の国策ガス会社)が、
「滞納料金と罰金を支払わなければ、'09年1月1日にガスの供給を停止する」
と警告したのである。
ウクライナは'08年年末までに、何とか滞納料金を返済したのだが、罰金分の支払いの見込みが立たず、1月1日にガスの供給が止まった。
1月18日に、ようやくロシアのプーチン首相(当時)とウクライナのティモシェンコ首相(同)が合意に至り、ガスの供給が再開された。
とはいえ、ウクライナ側は'09年のガス価格については20%のみの割引、'10年以降は欧州諸国と同じ価格を支払うことを飲まされたのである(ウクライナは旧ソ連構成国の一つであるため、ロシア側は欧州諸国と比べ安価にガスを提供していた)。
ロシアはウクライナの経済、生活の基盤である「エネルギー」を一方的に売っている。逆側から見ると、ウクライナ側は「あのロシア」にエネルギー安全保障を依存していることになるわけだ。
一応、ウクライナも天然ガスは産出しているのだが、自給率は3割程度に過ぎない。しかも、'09年のガス紛争以降、ウクライナは一定量以上の天然ガスを、毎年、ロシアから買うことを義務付けられ、高いエネルギーコストは同国の政権のアキレス腱になり続けた。
こうした事情を理解すると、ウクライナが50%のエネルギー自給率を「低い」と判断し、原発推進路線を進んでいる理由がわかると思う。
ウクライナの原発推進は、完全に「国家のエネルギー安全保障」の問題であり、そこにセンチメント(感傷)は全くない。
ついでながら、福島第一原発の事故の後、国内マスコミなどで「ドイツを見習って、日本も脱原発」といった論調が流行っていたが、現実のドイツは脱原発などしていない。
ドイツが2011年に脱原発を宣言したのは確かだが、現在も9基の原子力発電所が稼働中だ。
今回のロシアのウクライナへの介入を見て、それでもドイツは呑気に「脱原発」などとやっていられるだろうか。
実際、ドイツのエネルギー自給率も3割に満たない。残り7割は外国からの輸入であり、もちろんロシアからの天然ガスにもある程度依存している。
ドイツを含むEU全体で見ると、ガス輸入量の3割がロシア産だ。
ガス供給のロシア依存は、もちろんEU内で問題になっており、アゼルバイジャンからロシアを経由せずに欧州に向かうガスパイプラインが計画されていた。残念なことに、完成は2019年で、今回のウクライナ紛争には間に合わなかった。
さて、我が国のエネルギー依存度は5%を下回り、さらに中東依存度が極端に高い。'80年代中盤に70%を切った中東依存度は、その後は上昇に転じ、再び90%に接近している。
中東からの日本に向かう原油やLNG(液化天然ガス)を満載にしたタンカーの航行が止まると、途端に我が国は窮地に陥ることになる。
今回のウクライナの騒動をきっかけに、是非とも日本国民は「エネルギー安全保障」について真剣に考えて欲しい。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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