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シェールガスブームが米国の地政学的武器に ウクライナ危機、米国のガス輸出議論が大きく変化
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40132
2014.03.10 Financial Times
(2014年3月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
急拡大する米国の石油・ガス生産は、エネルギー自給を後押しする恵みとして描かれてきたが、ウクライナの危機はこれに異なる光を当てた。海外の同盟国を助ける戦略的な武器としての石油・ガスだ。
米国はロシアを抜いて世界最大のガス生産国となり、3月初旬には共和党の有力議員2人が、ロシアの燃料に対する同盟諸国の依存度を下げるのを手伝うために、米国は欧州向けの天然ガス輸出を促進すべきだと訴えた。
エネルギー生産拡大で目指すものは何か?
こうした状況はシェールロック層から抽出したエネルギーで米国は何を達成したいのかという議論を呼んでいる。ホワイトハウスと連邦議会は、シェールガスとシェールオイルが世界の安全保障を強化する手段なのか、それとも米国産業を育成したり、米国人にとって燃料価格を低く抑えたりするための手段なのかを決めなければならない。
これらの結果は相容れないものではないが、どれも結局、1つの疑問に縛られている。米国はエネルギーを輸出すべきなのか、それとも国内にとどめておくべきなのか、という問題だ。
現在は、石油輸出が事実上禁止されており、天然ガスは海外に販売できるものの、欧州連合(EU)を含め、米国と貿易協定を結んでいない国・地域への輸出は政府の承認が必要で、エネルギー業界によれば承認には極めて長い時間がかかるという。
元シェブロン幹部で、現在は戦略国際問題研究所(CSIS)の上級研究員を務めるエドワード・チョウ氏は、3月第2週までは輸出を巡る議論は国内問題を軸としていたが、ウクライナがこれを変えたと指摘する。
「これまで我々は主に米国の国内経済にとって良いことか否かという観点でガスや原油の輸出について論じてきた。ウクライナ情勢によって、これまでいわば背景に潜んでいた地政学、外交政策の側面が加わった」
共和党のジョン・ベイナー下院議長は、欧州向けの天然ガス輸出の承認を促進することは、「ロシアの侵攻に立ち向かう」1つの方法だと述べた。共和党の大統領候補になるかもしれないマルコ・ルビオ上院議員は、米国は「エネルギーを武器として使おうとするロシアの取り組みに同盟国が影響を受けにくくするために」、同盟国への天然ガス輸出をスピードアップすべきだと語った。
3月初旬、ロシアの国営ガス会社ガスプロムは、ウクライナに割引価格でガスを販売するのをやめると述べた。
米国は今、同盟国を助けるために何もできない。2011年以降、米エネルギー省はシェールブームで得られた液化天然ガス(LNG)向けの輸出基地を5基承認した。
だが、最初に承認されたルイジアナ州のサビーンパスは2015年下半期まで輸出が始まらない。少なくとも24件の申請が承認を待っている。
左派系シンクタンク、センター・フォー・アメリカン・プログレス(CAP)の上級研究員、ダニエル・ワイス氏は「輸出基地の建設には長い時間がかかるため、米政府はぶらぶらと救済に向かえるが、救済に駆けつけることができない」と指摘する。
それでも、国家安全保障はガス輸出を巡る議論の条件を変え、11月の米国中間選挙を前に、この議論の政治的要素を強めるだろう。
反対派と賛成派の主張
輸出反対陣営を率いるのは、原材料として安い米国産ガスを望む企業、特にダウケミカルだ。製造業の業界団体である米国産業エネルギー消費者団体(IECA)は5日、ガス輸出は間違った地政学的解決策であり、米国はむしろ、水圧破砕技術を輸出し、他国が国内のシェール層からガスを抽出できるようにすべきだと述べた。
やはり輸出に反対するのが環境保護主義者だ。彼らは海外向けの販売はガス生産の拡大、そして潜在的に汚染の拡大を意味すると話している。
一方、輸出賛成のロビー活動を率いるのは、石油・ガス産業とその業界団体の米国石油協会(API)だ。APIは、輸出拡大は米国の雇用をさらに創出すると話しており、3月初旬にはガスの地政学的役割も受け入れた。「我々のLNG輸出は危機と不正操作に対して国際エネルギー市場を大幅に強化できるだろう」とAPIの理事、エリック・ミリート氏は語った。
ロシア産ガスに依存する東欧諸国は、米政権と議会に制限を緩和するよう求めている。
リトアニアは国内で消費する天然ガスをすべてロシアから調達しており、米国のLNGの受け入れ拠点にしたいと考えているターミナルを建設中だ。在ワシントン・リトアニア大使館の首席公使、ロランダス・カチンスカス氏は「切迫感は既にあった。ウクライナでの出来事は、我々はこの政策をこれ以上遅れることなく追求しなければならないことを改めて証明した」と話している。
党派と同じくらい生産と消費の地理にも左右される議論
エネルギー輸出の政治は、共和党と民主党の意見対立と同じくらい、生産と消費の地理にも関係している。
コロラド州選出のマーク・ユドール上院議員(民主党)は3月初旬、米国はロシアの侵攻に対抗するためにコロラド州の天然ガスを輸出すべきだと述べた。だが、生産量より消費量の方が多い州の政治家は、ガス輸出が消費者が電力と暖房用燃料に払う価格に与える影響について心配している。
指標となる米国のガス価格は欧州の価格のざっと半分、アジアの4分の1で、輸出の賛成派も反対派も、自分たちの選択肢は米国の低価格を維持すると主張している。誰が正しいのかはっきりしないことが、政治家がこの問題を避ける1つの理由だった。
だが、自由市場の推進を掲げるシンクタンク、ケイトー研究所のスコット・リンシコム氏は「ウクライナ情勢は、選挙の年にこの問題を取り上げたくなかった政治家に問題に取り組む誘因を与えるかもしれない。対処を強いられる可能性もある」と話している。
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