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河北省では、過剰設備とみなされた工場の爆破が行われた。写真は河北省の廃墟工場(ロイター/アフロ)
習政権が工場爆破令、豪腕に地方政府が震撼 過剰投資を抑え安定成長への転換を狙う中国
http://toyokeizai.net/articles/-/32355
2014年03月09日 西村 豪太 :東洋経済 記者
2月23日朝、河北省の五つの主要都市で轟音が鳴り響いた。「過剰生産設備」と見なされた鉄鋼工場が一斉に爆破されたのだ。
この日だけで、15社の鉄鋼メーカーの設備が破壊され、河北省の粗鋼年産能力は820万トン減少。派手な爆破の様子は当日昼のニュースで全国放送された。昨年11月に続き、これが2回目だ。また、2月17日には省都の石家荘市内で、セメント工場が対象の「爆破パフォーマンス」があった。
北京市と天津市をぐるりと取り囲む形の河北省は中国有数の重工業地域で、最近、中央政府から厳しい指導を受けている。首都北京を覆う大気汚染物質、PM2.5の主な発生源であるうえ、中国経済の宿痾である過剰生産の象徴とされているからだ。
国務院は昨年10月、鉄鋼やセメントなど五つの業種を名指しし、過剰生産設備の削減を進める方針を示した。中国工業・情報化部の毛偉明次官は2月18日の記者会見で、5業種について「2017年まで生産能力の拡張は認めない」と断言している。
■鉄鋼は明らかな供給過剰
中でも鉄鋼の膨張は深刻で、粗鋼生産は昨年、前年比7.5%増の約7.8億トンに達した。実に日本の7倍だ。
だが、政府発表では稼働率は7割前後で、明らかな供給過剰に陥っている。現地の報道では、河北省だけで12年末で約2.9億トンもの年産能力があったとされる。
同省での過剰生産は、胡錦濤前政権時代からの懸案だった。清華大学政治学部の張小勁教授は「胡政権もこの問題に取り組んだが、逆に河北の鉄鋼生産は増えてしまった。今回、削減を実現できたのは習近平政権の基盤の強さを示している」と語る。
今回の爆破処分の対象になったのは、大半が中小の民営企業。中には、補助金をもらって海外への進出を促された例もあるようだ。
中国全体の13年の成長率は7.7%。他国に比べて高いとはいえ、かつての二ケタ成長から確実に減速している。そうした中、昨年来の河北省に対する“集中砲火”は、ほかの地方政府を震撼させた。目先の成長率引き上げのため、野放図な投資を許してきた地方政府には、強烈な見せしめとなった。
すでに出そろった地方政府の14年の成長率目標を見ると、約7割が前年の目標水準から引き下げている。地方のGDPには一部、水増しもあるといわれるが、「これだけの数の地方が目標数値を前年より引き下げたのは、前代未聞」(北京の国際金融筋)。
経済成長の結果で地方指導者の実績を評価してきたことが過剰投資の元凶であったことは、以前から指摘されてきた。それにようやく歯止めがかかってきた格好だ。
一方、過剰投資の裏側には、過剰な債務もある。昨年12月、13年6月末時点での地方政府債務の総額が17.9兆元(1元は約17円)と発表された。国と地方の直接・間接の債務合計は30.3兆元で、12年末GDPの約6割に相当する。
ここ数年の債務増加の主役になったのが、地方政府の資金調達機関である融資平台だ。融資平台が銀行融資や債券発行で資金を調達することで、大規模なインフラ投資や不動産開発を可能にしてきた。だが、非効率な投資にカネが流れ続けると、不良債権の量産に直結しかねない。金融機関を介さない「影の銀行」といわれる取引の拡大を抑えることも課題だ。
■刺激策への期待を牽制
河北省で爆音が響いたのと同じ週末。オーストラリアのシドニーで開催されたG20(主要20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)では、中国の製造業購買担当者指数(PMI)が7カ月ぶりの低水準になったことが話題になり、楼継偉財政相が「中国ではGDPに占める製造業のシェアは6割を超えていたが、13年にはサービス業が上回った」と説明。そのうえで、「13年も中国は世界の経済成長の30%近くを支えており、自国の経済規模を超えた貢献をしてきた」と言明した。
また、会議に同行した中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁も、「中国には7〜8%の成長がふさわしい」として、中国に景気刺激を求める議論を牽制している。リーマンショック後の「4兆元投資」の結果、成長の原動力を投資に依存する度合いが高まったことへの反省は深い。
3月5日から開く全国人民代表大会(全人代)では、今年の経済成長率の目標値が定められる。昨年と同じ7.5%になるとの予測が大勢だが、構造改革を優先する姿勢を示すため、7.0%に落とすという見方も根強い。
昨年秋の共産党中央委員会全体会議(三中全会)で、行政や金融、対外開放など、改革メニューは出そろった。過剰投資の負の遺産を処理しつつ、いかに安定的な成長を維持できるか。その成否は、全人代で示されるはずの具体策に懸かっている。
(週刊東洋経済2014年3月8日号〈3月3日発売〉 核心リポート04より図版などを削除し一部掲載)
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