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「自動車会社が儲かることと、自動車産業が潤うことはまったく別」という話。
http://fusenmei.cocolog-nifty.com/top/2014/03/post-1118.html
2014/03/08 誰も通らない裏道
今週は自動車会社がベア回答のニュースが盛んに流れていた。
アベノミクスのお陰で経済状況が好転し賃上げが実現。いよいよ景気回復は本格的なものになる……などとアベシンゾーは言っているが、少なくとも自動車産業においてはそのようなことはないと私は思う。
なぜなら、自動車会社の好決算と自動車産業全体の動向とは話がまったく異なるからだ。
周知のようにトヨタ、日産などの自動車会社の好調は為替が円安に振れたことが最大の要因である。
もちろん国内市場の販売状況も現在は悪くないが、これは消費税増税前の駆け込み需要によるもので、4月を過ぎるとその反動が予想される。
さて、ではどうして自動車会社の好調=自動車産業の好調ではないのか?
その理由は日本独特の自動車産業の構造にある。
1台のクルマにおいて日本の自動車会社自身が製造している部品は、全体のおよそ3割と言われている(これを内製率という)。残りの7割の部品は外部から買って組み立てているわけで、つまりこの部分については自動車会社は製造業というより商社に近い。
今年の初めに火災のあった新日鉄の名古屋製鉄所は、トヨタのためにある製鉄所といっても過言ではないが、これに投資をしたのは新日鉄であってトヨタではない(少しは出資しているのだろうが)。
同様に他の外製品についても、自動車会社が自ら投資をしているわけではなく、ありとあらゆる会社がトヨタや日産に買っていただくために勝手に投資をして研究開発しているのだ。
一方、アメリカの自動車産業について言えば、かつてフォードの内製率は80%までいったことがあるという。さすがに今はその比率は下がっているが、なにしろ製鉄部門からゴム部門まで持っていたこともある。
これが何を意味するかというと、もし仮にアメリカのメーカーと日本のメーカーが同じ金額の投資をしたとしても、それは日本の場合は30%の内製品であるのに対して、アメリカの場合は倍以上の内製品に対するものということになる。したがって一つ一つの部品に対する投下額がまったく違うわけで、日米のクルマの品質に差が出るのは当たり前の話だったのである。
ヨーロッパの内製率もアメリカほどではないが日本よりは高く、つまり日本の自動車会社の強さの秘密はこの内製率の低さにあった。
しかも日本の自動車会社は、そうやって他社が必死になって研究開発した7割の外製品をただ買うだけではない。徹底的に買い叩くのである。
それが、メディアがことあるごとに賞賛して止まない、製造原価の低減なのだ。
これがもっとも厳しいのがトヨタで、反対に緩かったのが日産である。1990年代後半に日産を襲った経営危機の大きな原因の一つはこの部分にあり、ルノーから来たカルロス・ゴーンが真っ先に手をつけたのもここだった(ちなみにホンダはこの点においてはトヨタなみに厳しいという)。
クルマの部品というのは数万点に及ぶ。ゆえに裾野が広く、下請けは1次、2次、3次……と続いていく。
このうち1次下請け、2次下請けなどは十分に体力もあるが、末端の中小企業は同じようなわけにはいかない。自動車会社の度重なるコスト削減要求に対して常にギリギリの対応せざるを得ず、まさに自らの身を削って対応しているわけだ。
こういう産業構造の中にあっては、為替の変動によって川上の自動車会社が儲かっても、川下の下請け会社にその恩恵がいくことはなく、賃上げをするような余裕はない。
しかも、いまや日本の自動車会社はコスト管理の面ですべてトヨタ化している。
ま、それでもクルマが売れればスケールメリットが出てくるが、今後、日本市場で自動車の販売台数が劇的に伸びることはない。
かつて高度経済成長の時代には、各メーカーとも4年に一度のモデルチェンジを繰り返し、ユーザーもそのたびにクルマを買い換えるというサイクルがあった(だから日産はトヨタに負け続けても大きな利益を出すことができたとのである)。
が、もはやそのような時代は遠い昔の話で、クルマという、かつては見栄を張るのに絶好だった商品は、いまや白モノ家電化しつつある。今どきのユーザーにとっては、燃費のいいクルマを長く乗れればいいのである。
元々、日本のユーザーの年間走行距離というのは短い。国土が狭い上に欧米のように長いバケーションをとれるわけでもないので、ひと昔前で年間6000キロ程度と言われたが、これは今でも変らないか、もっと下がっているだろう(このところのガソリン価格の高騰もマイナスに働くはずだ)。
したがって新車から10年、一台のクルマを所有しても走行距離は5,6万キロということになる。
現在の日本車の信頼性の高さを考えれば、これはまだまだ十分実用に耐え得るレベルで、クルマの所有年数は長くなりこそすれ、短くはならない。
しかも日本においてはこれから人口減がどんどん進む=マーケットが小さくなっていくわけだから、国内の自動車産業は縮小の方向へ行かざるをえない(そうなればディーラーの整理もしていかなければならないだろうし、車検をする町の自動車工場も淘汰されることになる。あるいは自動車保険の契約数も減っていくことになるだろう)。
つまり、ことはアベシンゾーが主張するがごとく単純ではまったくないのである。
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