09. 2014年3月05日 17:44:32
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信用格付け会社の功罪 The Credit Rating Controversy フォーリン・アフェアーズ リポート 2010年7月号 格付け各社がギリシャ、ポルトガル、スペインはデフォルトに陥る公算が高いと示唆する評価を示したことで、世界の金融市場は長期的な混乱に陥っている。一部のアナリストは、格付け会社が国債の価格下落に先んじてではなく、トレンドに追随して国債の格付けを引き下げており、その結果、さらなる市場の下落を招いていると批判している。要するに、アナリストたちは、そうした格付けは金融市場の変動幅を大きくしてしまっていると批判している。すでに、ヨーロッパもアメリカも格付け会社に対する規制策を検討している。しかし、批判にさらされているとはいえ、格付け会社が依然として頼りにされているのも事実だ。「かつて誤った格付けをしたのと同じような様々な証券や債券を格付けするために」依然として格付け会社は頼りとされている。 圧倒的力を持つ格付けのビッグスリー 信用格付け会社がユーロ圏諸国の財政赤字にネガティブな格付け評価をしたことに、ヨーロッパの政治家や銀行は大いに憤慨し、米議会でも格付け会社に対する監督を強化することが議論されている。 これに対して、大手格付け会社は、そうした規制強化は格付けシステムの価値を損なうことになると反発している。 ムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズ、フィッチという三大格付け会社(ビッグスリー)がこれまで何度も格付け評価を誤ってきたにもかかわらず、それでも投資家は不思議なことにこの3社の評価を頼りにしているようだ。 格付け会社は、債券のリスクに関する分析を世界の投資家に提供している。対象となる債券には政府債、社債、CD(譲渡性預金証書)、地方債、優先株、そして、債務担保証券(CDO)や不動産担保証券といった各種担保証券などがある。こうした債券に投資することのリスク評定は、発行体が企業であれ、国家であれ、あるいは地方政府であれ、債券の利息や元本を期日通りに払えない可能性の大小が目安とされる。 格付け会社の評価は一般に、アルファベット文字で示される。最も評価が高く安全とされる格付けが「AAA(トリプルA)」で、格付けが低下するとともに、文字の数が三つから二つに、二つから一つに(例えば「AA=ダブルA」や「A=シングルA」へ)と減っていき、さらには次のアルファベットに移行していく。 ある統計によれば、ともにニューヨークに本社を置くムーディーズとスタンダード・アンド・プアーズ、そしてニューヨークとロンドンに本拠を持つフィッチが有力な格付け会社ビッグスリーとして、世界の格付けの98%を手がけ、格付け産業の総収入の90%を占めている。 だが、圧倒的な優位を持つこれらビッグスリーが、「債券発行体から格付け評価の手数料を受け取るビジネスモデル」を採っているために、不正確な評価や市場混乱を引き起こしているとする見方もある。 ↑ページの先頭に戻る 格付け会社のビジネスモデル
格付け会社に対する批判の多くは、「発行体から手数料を受け取る」ビジネスモデルに向けられている。
このビジネスモデルでは債券の信用格付けに必要な費用を債券発行体が格付け会社に対して支払い、一般の人々(と機関投資家)はこの格付け情報を無料で利用している。 信用格付け会社の多くが1970年代にこのビジネスモデルへと移行した。それまでは、債券やその他の有価証券に投資する大手機関が格付けのコストを負担するモデル、つまり、「情報利用者がコストを負担する」ビジネスモデルが採られてきた。 米議会調査局(CRS)は、ビジネスモデルがこのように変わったのは、発行体が格付けを取得するための費用負担を惜しまないことに格付け会社が気づいたことが一つの理由だと指摘する。金融機関に債券を売るには格付けがある方がスムーズにいくからだ。 有力な格付け3社が、発行体から手数料を受け取るビジネスモデルを採用しているのに対して、一部の小規模な格付け会社は、いまでも情報を利用する側の投資家が費用を負担するビジネスモデルを採っている。このビジネスモデルの場合、格付け会社は公表されている財務データを基にリスクを評価する。 「発行体から手数料を受け取る」大手格付け会社と違って、こうした小規模な格付け会社が、発行体にインタビューして評価をすることはない。 「発行体から手数料を受け取る」ビジネスモデルについての論争が起きていることもあって、「情報利用者から手数料を得る」小規模な格付け会社は、自分たちのビジネスモデルの長所をアピールしている。 例えば、ペンシルベニア州ハーバーフォードに本拠を置く格付け会社で、「情報利用者が手数料を負担する」ビジネスモデルで活動しているイーガン・ジョーンズ社の代表は、多くの議会公聴会で「ビッグスリー」によるビジネスの独占とこれらの会社による格付け評価が偏向していることが少なくない、と現状を批判している。 また、異なるビジネスモデルを採る信用格付け会社を比較した複数の独立系調査では、「情報利用者が手数料を負担する」モデルを採るイーガン・ジョーンズ社の格付けの方が、「発行体が格付け費用を負担する」モデルを採るスタンダード・アンド・プアースやムーディーズといった会社の格付けよりも高く評価されている ↑ページの先頭に戻る なぜ規制当局は格付け会社を容認しているか
「格付け会社を資本市場のゲートキーパーと想定する」金融規制や法律にも大きな問題があると、CFRのベン・ステイルは指摘する。これによって、投資家がごく限られた格付け会社に過度に依存せざるを得ない状況が生まれている、とステイルは言う。
金融機関がリスクの高い債券を扱うには、その債券のリスクに応じた最低資本を保有することが義務付けられているが、米証券取引委員会(SEC)は1975年に、この最低資本のレベルを具体的に特定できる能力を持つ格付け会社の選定を始めた。 当初選ばれた格付け会社3社―ムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズ、フィッチ―は「市場で広く認知された格付け会社(NRSRO)」と分類された。 SECはその後、3社以外の格付け会社もNRSROに指定するようになったが、ムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズ、フィッチが圧倒的優位を持っていることに変わりはない。 NRSROという表記はやがてほかの連邦法や州法でも見かけるようになった。例えば、「マネーマーケットファンドはNRSROの認定を受けた格付け会社によって分析・評価された債券にしか投資できない」という規制もある。 国際金融規制もこうした標準化の動きを強めていった。銀行規制の国際基準である1994年のバーゼル合意には、各国の規制当局の銀行への通達として、「ムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズ、フィッチなど、ごく少数の指定された格付け会社の評価情報を利用することを認める」という一文がある。 だがこのシステムは、2000年代初めにエンロンやワールドコムのスキャンダルで両社が破たんする直前まで、格付け会社が両者に投資適格級の評価をしていたことをきっかけに、批判されるようになった。 2006年、米連邦議会はNRSROの認定プロセスを定める格付け会社改革法を成立させた。この改革法では、格付けが正確であるかどうかを一般市民がより的確に判断できるよう、格付け会社の事業や手法に関する情報開示を強化することも盛り込まれた。 ↑ページの先頭に戻る 格付け会社は金融危機を増幅させているか
規制強化が行われたにもかかわらず、格付け会社に対する批判は続いた。
金融危機のさなかにあった2008年には、格付け会社は住宅ローン関連証券のリスクの評価を誤ったとして米議会公聴会や法廷で激しく非難された。 格付け会社は、個別の住宅ローンとそうしたローンを組み込んで証券化された商品がデフォルトに陥る確率を特定する、複雑な評価数式モデルを持っていた。 だが、格付け会社は、こうした「仕組み債」の多くを住宅市場が活況だった数年間にわたって最高格付けのトリプルAの商品と評価した挙げ句、住宅市場が崩壊すると投資不適格級へと格下げした。2007年に住宅価格が下がり始めると、ムーディーズは2006年にAAA格付けを与えていた総額8690億ドル相当の住宅ローン証券の83%を格下げしている。 格付け会社は住宅価格の下落とそれがローンのデフォルトにつながる可能性の判断を誤った、と批判された。 実際、仕組み債を格下げするのは、社債や国債といった単一の債券・証券を格下げするのとは違って、より大きなシステミック・リスクを伴うことが認識されていなかった。仕組み債の場合、金融システムで取引されるほかの多数の証券と複雑に関連しているため、それを格下げするマイナスの波及効果は、例えば国債などを格下げした場合よりも大きい。 格付け会社は拡大する仕組み債市場でより多くのシェアを獲得しようと、格付けの質を犠牲にしたとする批判もある。 「動物の牛が組み込まれている仕組み債でも格付けを試みただろう」。2008年の議会公聴会で、スタンダード・アンド・プアーズの幹部は当時の実態をこう表現している。 ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、2006年にはムーディーズは仕組み債関連の格付けだけで、2001年の同社の総収入を上回る8億8100万ドル規模の収益を得るようになっていた。 格付け会社のビッグスリーは、「格付けはアナリスト個人ではなく格付け委員会が決定するものであり、アナリストは格付けに基づいて報酬を受けているわけではない」と、格付けビジネスの客観性を主張している。またビッグスリーは「発行体から手数料を受け取る」ビジネスモデルに対する批判については、「情報利用者が手数料を負担する格付けモデルにも利害の衝突がある」と反論した。 ビッグスリーは、問題の本質は「発行体から手数料を受け取る」か「情報利用者が手数料を負担するか」ではなく、「格付けを決める際の基準にどれだけ透明性を持たせるかにある」と主張している。 だが、格付け会社は仕組み債の評価に問題はないと主張し続けた。2009年の議会証言でフィッチのスティーブン・ジョイント最高経営責任者(CEO)は、同社が一部仕組み債を格付けする手法を2008年に改善したにもかかわらず、「仕組み債の発行体が適確な評価をするのに必要な情報提供を怠り、SECも発行体にさらなる情報開示を義務付けることを怠った」と、問題は発行体とSECにあると示唆する発言をしている。 一方、こうした証券を発行した金融機関も批判された。ニューヨーク州のアンドリュー・クォモ司法長官は、2010年10月に「金融機関が自ら発行する債券への高い格付けを得ようと、格付け会社に誤った情報を提供したのかどうかを調査するために」、大手金融機関や格付け会社から事情聴取している。 ↑ページの先頭に戻る ユーロ危機と格付け会社
アメリカでサブプライム住宅ローン危機に関連したずさんな格付けが非難されているのに対して、ヨーロッパでは、ユーロゾーンの財政危機をめぐって、過度にネガティブな国債の格付け評価が危機を増幅させたとの批判が高まっている。
2010年4月にギリシャ国債の格付けを投資不適格級に引き下げたスタンダード・アンド・プアーズの決定は、それに伴う債務コストの増大を懸念したギリシャや欧州連合(EU)の当局者の大きな反発を買った(ギリシャ国債の格付けは6月にはジャンク級へとさらに引き下げられた)。 格付け各社はギリシャ、ポルトガル、スペインはデフォルトに陥る公算が高いと示唆し、この評価は何ヵ月にもわたって世界の金融市場を混乱させた。一部のアナリストは格付け会社が国債の価格下落に先んじてではなく、トレンドに追随して国債の格付けを引き下げ、その結果、さらなる市場の下落を招いている、つまり、格付けが金融市場の変動幅を大きくしていると批判している。 これを受けてフランスとドイツは、国債がどのように格付けされているのか、格付け会社が「金融危機の増幅」にどのように役割を果たしたか、格付け会社の「金融の安定性に対する衝撃」を調査するように欧州委員会に要請した。 欧州中銀(ECB)のジャン=クロード・トリシェ総裁は格付け会社間の競争を高める必要があると強調している。欧州各国の首脳たちも、アメリカとイギリスに本拠を置くビッグスリーと競合できるようなヨーロッパの格付け会社の創設を提唱している。 ヨーロッパでは、ビッグ・スリーはアメリカやイギリスの経済を脱線させた金融資本主義に毒されているとする見方もされている
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