05. 2014年2月27日 01:24:53
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140225/260226/?ST=print オバマ大統領が6000億ドルをフイにする?!自由貿易への消極姿勢は高くつく過ち2014年2月27日(木) The Economist 2008年7月。米大統領候補だったバラク・オバマ氏は、熱狂するベルリンの聴衆を前に次のように訴えた。「真のパートナーシッ
プと進歩はたゆみない努力と犠牲なくして成し遂げることはできない」と。自由貿易も同じだ。先頭に立つ指導者が、自由貿易 がいかに広範な恩恵をもたらすかを理解していない限り、必ず偏狭なナショナリズムに足元をすくわれる。 オバマ大統領は今や、与党である民主党内の保護貿易主義者に屈服しそうな雲行きだ。オバマ大統領が同党の目を覚まさ せることができなければ、市場開放と貿易自由化を目指すこの20年間で最良の機会を世界は失うことになる。このことはまた、 開かれた世界経済の擁護者としての役割を、米国が放棄することを意味する。同大統領は外交政策において内向きの姿勢を 強めている。これと同じことが通商政策でも起こっている。 自由貿易の推進において、オバマ大統領は1期目にはほとんど何の足跡も残せなかった。だが、2期目にはこの問題に多少大 胆に取り組み始めたように見える。多数の太平洋諸国及びEU(欧州連合)との間で野心的な新通商交渉を開始し、世界貿 易を巡る協議に新たな生命を吹き込んだ。 自由貿易への機運が高まるなか、「たゆみない努力と犠牲」は成果をもたらした。昨年12月、世界貿易機関(WTO)加盟国・ 地域が、貿易円滑化など一連の改革に向けた「バリ・パッケージ」で合意したのだ。創立後20年にして初めて、本格的な多国 間貿易の合意に達したのである。外交官たちは、頑なな姿勢を崩さない民主、共和両党に交渉の席に着くよう説得するという ホワイトハウスの新たな決意を信じた。サービスやIT貿易の自由化、「環境財とサービス」の交換に関する障壁の低下――二酸 化炭素の排出抑制コストの引き下げにつながる――といった面でも、交渉進展への期待がにわかに高まった。 貿易交渉にファーストトラックは不可欠 問題は、貿易交渉の合意には議会の承認が必要なことだ。過去の大統領は、「貿易促進権限(ファーストトラック)」の恩恵 に与っていた。ファーストトラックとは、政府間で合意した通商協定について、議会にイエスかノーかだけの判断を求めるものである 。これがなければ、政府が入念な交渉の末に各国政府と合意に達しても、議会が有害な修正を行って合意を台無しにする恐 れがある。そのような環境で、米国と真剣な協議を行いたいと思う国などあるだろうか。したがってファーストトラックは必須だが、議 会が承認するかどうか情勢は極めて不透明だ。前回、議会が大統領にファーストトラック権限を与えたのは2002年で、これは 2007年に失効した。 オバマ政権は事態を甘く見、議会は「ファーストトラック」の更新を認めるとの考えを示していた。だが、民主党を中心に多くの議 員が、ファーストトラックに反対する文書に署名した。民主党のハリー・リード上院院内総務は今年、法案を審議にかけること自 体を拒んだ。そして2月14日にはジョー・バイデン副大統領が、民主党指導者たちとの集まりで、彼らがファーストトラック付与に 反対していることは理解していると述べた。ホワイトハウスはほとんど戦わずしてファーストトラックの獲得を諦めた感がある。11月に 予定されている中間選挙の前にファーストトラックについて採決が行われる公算は極めて低い。 これがなぜそんなに問題なのだろう。戦術的に見れば、ワシントンで繰り広げられる政争の1つというだけかもしれない。中間選 挙が済めば、議会はファーストトラック支持に戻る。オバマ大統領はこの法案に、中国の為替操作に対する紋切り型の非難を盛 り込むことができると楽観視する向きもある。また、そもそも貿易交渉がそこまで重要なのかと疑問視する声もある。事実、TPP( 環太平洋経済連携協定)やTTIP(環大西洋貿易投資協定)が成立しても経済にさしたる恩恵はないとする見方が、民主党 がオバマ大統領を非難する理由の1つになっている。 しかし実際には、交渉のテーブルに乗せられているこの問題は、大きな意味を持つ。幾つかの合理的な試算によれば、TTIPと TPPは、世界のGDP(国内総生産)を年6000億ドル(61兆5400億円)押し上げる可能性がある。つまり、こうした多国間自 由貿易協定が発効すれば、サウジアラビアと同じだけのGDPが新たに生まれることになるのだ。そのうち米国の生産増は2000億 ドル(20兆5100億円)前後に達する。 実際の効果はもっと大きいかもしれない。TTIPやTPPの成立はサービス貿易の自由化に道を開く。サービスが貿易に占める比 率は微々たるものだが、富裕な諸国のGDPの大半を占める。サービス貿易の開放は、運輸から金融、教育、医療まで、あらゆる 部門のコストを低下させる潜在性がある。数十年にわたって工場労働者が直面してきたのと同じ世界競争にこれらの専門的職 業を投げ込めば、オバマ大統領が極めて頻繁に取り上げ、問題視する所得格差の是正にも役立ち得る。 貿易自由化をためらう動き 戦術的には、TTIPとTPPのいずれについても、わずかな遅れさえ命取りになりかねない。TPPは、米国と日本が農業分野での 妥協点を探るなか、交渉が延長された。両国政府間でどのような合意が成立しても、議会が反故にする恐れがあるとすれば、 日本の政治家は敢えて農家の怒りを買うような挙に出るだろうか。 EUとの交渉は、政争の具にされないように、迅速な成立――恐らく2年内――を目指していた。ファーストトラックに対するオバマ大 統領の弱腰な姿勢を見て、欧州の指導者たちは米国の決意を疑問視することだろう。フランスの農家などTTIPを懐疑的に見 る向きはこうした状況に大喜びしている。米国の諜報活動に激昂しているアンゲラ・メルケル独首相が、自由貿易協定のために 戦うことなどさして価値はない、と判断する恐れもある。 最大のリスクは米国の政治的な潮流だ。米国内では、貿易自由化に向けた流れが反転している。この流れをもう一度引き戻 すことは容易ではない。ティーパーティ(茶会党)の支持を受けている共和党の一部議員はファーストトラックに反対している。その 理由は、何でもできる権限をオバマ大統領に与えたくない、というにすぎない。「格差解消のために戦う政党」というイメージを作り 上げたい民主党は、経済ナショナリズムを選挙戦の分かりやすい争点にするかもしれない。そうした理念を掲げて11月の中間選 挙を戦った後で、候補者たちはその理念に対して反対票を投じることはできない。 この点についてはオバマ大統領に責任の一端がある。同大統領は格差拡大を盛んに問題視するが、米国が世界に背を向け ることが格差を解消する正しい方法ではないことを、説明しようとはしない。例えばオバマ大統領は、安価な輸入品が入ってくれ ば貧しい人々の生活費が下がり、消費における格差解消につながることに触れることはめったにない。 世界はゼロサム・ゲームではない グローバル化は必然ではない。かつて、各国の政府は様々な障壁を築いてグローバル化の流れを押しとどめようとした。それが 1930年代には悲惨な状況を招いた。今も同様のことをしようとしているのかもしれない。したがって、開かれた世界経済の旗振り 役である米国が孤立主義に向かうシグナルを発していることは危惧される。 米議会はつい最近、既に合意していたIMF(国際通貨基金)への拠出金増額を拒否するという子供じみた行動に出た。また 米連邦準備理事会(FRB)は新たな銀行規則を推進している。これは外資系銀行に不利に作用し、世界経済をさらに分裂さ せかねないものだ。オバマ大統領は極めて重要なカナダからの石油パイプライン建設の承認を先送りし続けているし、天然ガスの 輸出についてもなかなか承認しようとしない。 オバマ大統領は2008年、ベルリンで「米国は内向きになることはできない」と述べた。今、2014年のオバマ大統領は、「イエス・ ウィー・キャン(Yes we can)」と答えている。 ©2013 The Economist Newspaper LimitedFeb 22nd 2014 | From the print edition 英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事は www.economist.comで読むことができます。 このコラムについて The Economist Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。 世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。 記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。 このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。 |