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第3四半期の決算発表の場で平井社長は1100億円の赤字見通しとパソコン事業の売却を発表した〔PHOTO〕gettyimages
元副会長、ウォークマンの産みの親ほか かつての幹部が実名告白 あぁ、「僕らのソニー」が死んでいく
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38460
2014年02月24日(月) 週刊現代 現代ビジネス
ジャパン・アズ・ナンバーワンの象徴だった。オーディオ・ビジュアルの技術で人々を魅了し、次々と世界を変えていった。日本人として何だか誇らしかった。あの頃の輝きはもう取り戻せないのか。
■ソニー精神の火は消えた
「さみしいよね。優秀な人はいるんだけど、優等生ばかり。今みたいにリストラを重ねると、余裕がなくなってしまうからねえ。昔もみんな忙しかったけれど、どこかに余裕を見つけて、勝手に自分の好きなことをやっていた。そういう中から新しいビジネスの種が育っていたんですよ。このままの状態では、ソニーはますます小さくなってしまうかもしれない」
初代最高財務責任者(CFO)や副会長を務めた伊庭保氏でさえ、現在のソニーの苦境をこう嘆く。それほどに、ソニーが抱える病巣は根深い。
ソニーは今期の連結決算見通しを300億円の黒字から1100億円もの赤字へと大幅に下方修正した。今月22日には、北米で販売台数を伸ばす家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)4」の国内発売も控えるが、これが消費者に支持されるかは未知数。円安効果でパナソニックや日立、シャープさえも好決算を発表するなかで、ソニー一人負けの構図なのだ。
平井一夫現社長は2月6日、巨額赤字への対応策として、長年培ってきたパソコン事業「バイオ」の売却を公表した。あわせてテレビ事業の分社化と、国内外で5000人規模のリストラを行うことも発表。ソニー社員のみならず、日本社会に衝撃を与えた。
ソニーは、トランジスタラジオに始まり、テレビ、ウォークマン、ハンディカム、PSなど、エレクトロニクスメーカーとして、多くの画期的な製品を世に送り出してきた。その革新性に魅せられたユーザーにとって、ソニーは憧れの存在だった。そのブランドイメージが崩壊しつつある。
今回、本誌は複数の元幹部に接触した。彼らの口からは、「私たちの知っているソニーが死んでいく」と悲愴感溢れる言葉が漏れる。
たとえば、全世界にソニーの名を知らしめたウォークマンの産みの親で、後に副社長を務めた大曽根幸三氏はこう言う。
「今の平井社長はエンタテインメント部門出身で、これからのエレクトロニクスの世界がどうなっていくか、先読みできるセンスがあるとは思えない。ハワード・ストリンガー前社長にいたっては、米国の映画やテレビ界の裏をよく知っているというだけで、社長に引っ張ってきた人ですよ。
それにしても、ソニーは変わってしまった。われわれの世代が築いた技術屋の魂は受け継がれていない。人事部や営業部出身で、技術の先読みができない文系の人間が出世している。もうソニー精神のかけらも残っていないでしょう」
ソニーというブランドは、世界中の起業家を惹きつける魅力を持っていた。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も、アップルを創ったスティーブ・ジョブズ氏も憧れた。大曽根氏とは別の副社長経験者は言う。
「ジョブズもソニーによく遊びに来ていたし、その前にはビル・ゲイツも重要な用事がなくても気にせずにやってきたと(元社長の)大賀典雄さんから聞いています。それくらい、創業者の井深大さんや盛田昭夫さん、そして大賀さんに憧れていたんです。それはなぜかというと、ソニーが世界にないものを創って、米国に紹介していたからです」
それが今や立場は逆転、ソニーはアップル向けに部品を供給する立場になった。最近もアップルの新型iPhoneにカメラ部品を大量供給する交渉に入ったと報じられたばかり。亡きジョブズが憧れたソニーは、アップルの「下請け」になり下がったのである。
'06年にソニーを退職し、グーグル日本法人社長などを歴任した辻野晃一郎氏はこう振り返る。
「私はソニーをやめる直前まで、アップルに対抗するためのビジネスを構築しようと必死になっていました。ところが、ある役員から『そんなことはやめてアップルに頭を下げてこい』と言われたんです。そのとき思わず、『あなたにはプライドはないのか』と聞き返しました。戻ってきた言葉は『プライドで会社が儲かるのか』。当時からすでにアップルの軍門に下るシナリオが進行していたということです」
ソニーの凋落を示す象徴的な話だが、いったい何がソニーを変えてしまったのだろうか。元幹部たちの話を総合すると、その原因は以下の3点に要約される。
●経営陣の劣化
●米国型経営の導入
●モチベーションの低下
■社内から人材も消えた
まずは失策を続けてきた経営陣の問題だ。元幹部たちが口を揃えるのが、'95年に出井伸之氏が社長に就任して以降、社内の雰囲気が一変したということだ。
前出の伊庭氏が言う。
「先見性をもった経営者が大賀典雄さん以降、出てこなかったのも問題です。出井さんは社長としてはよかったのかもしれないけど、技術のことを知らなすぎた。エンジニアが今のソニーはおかしいと言っても、自分の意見を押し通す。その後の社長も何も決断できなかった」
出井氏の経営方針に元幹部たちは一様に違和感を持ったが、出井氏が後継会長に据え、その後に社長の座も託したストリンガー氏によって、ソニーの凋落は決定的なものになった。
テレビ事業などを手がけてきた元幹部が言う。
「なぜあんなにエレクトロニクスがわからない人をトップにしたのか。ストリンガー氏は工場勤務や製品生産の経験がありません。だから、『モノづくり』は古いと言い出して工場をどんどん閉鎖してしまった。その結果、技術力が格段に落ちていってしまったのです」
出井氏とストリンガー氏、2代にわたる経営トップの暴走が許されたのはなぜか。そこには「社外取締役」という歪な構造がある。現在、ソニーの取締役は総勢13名。そのうちの実に10名が外部からの選任なのだ。
その取締役を選ぶ委員会のメンバーは取締役会で選定される。したがって現行の経営体制に批判的な人間が社外取締役に選ばれる可能性は極めて低い。
前出の元幹部が続ける。
「トップを代える権限を持っているのは取締役会です。そこが動かなくてはならないのに、当事者意識の薄い社外取締役ばかりなので、何も動かない。社外取締役たちを仲間にしてしまえば、トップの座は安泰なのです」
その結果、出井-ストリンガー体制は長期政権となり、将来有望なエレクトロニクスの芽が摘み取られていったのだという。
出井社長以前のソニーは、周囲の反対を押し切っても「夢」を実現しようとするパワーに溢れていた。
ソニーに13年間在職し、その後、AOLジャパンや会計ソフト会社『弥生』などで社長を歴任した平松庚三氏はこう言う。
「盛田・井深時代は役員から平社員まで、自分がソニーを支えていると思って仕事をしていた。クセのある人も多く、わがままなヤツばかりでしたが、お互いが切磋琢磨していた。それを盛田さん、井深さんは面白がっていた。その代表格がPSを開発した久夛良木健氏でしょう。彼はいつも自分の好きなことをやっていて、上司の言うことを聞かないことで有名だったが、経営陣は優秀さを買い、あえて放し飼いにしていた。その結果、彼は何千億円という売り上げをもたらすPSを開発した。ところが、近年の経営陣にそうした懐の深さはない」
■米国流経営の失敗
そして、出井氏が社長時代に導入したのが、EVA(経済的付加価値)と独立採算制だ。EVAとは、投資した資本に対して一定期間にどれくらいのリターンを生み出したかを把握するための指標。この成果主義の導入は当初、ソニーが日本型経営から脱却し、名実ともにグローバル企業になるための施策ともてはやされた。しかし、この頃からソニーの活力が損なわれていったと、元上席常務の天外伺朗氏は語る。
「ソニーは出井社長時代から米国型のマネージメントに切り替え、コンサルタントを重用して成果主義を全面導入し、さらにEVAによって各事業を厳密に評価するようになりました。その結果、短期的な利益ばかりを求めるようになり、ソニーらしい商品が生まれなくなったのです」
かつてソニーには、社員たちが自由闊達に議論し、熱中してモノづくりに取り組むという伝統があった。その大切な財産が、米国型の合理主義経営によって破壊されてしまったのだ。
その一例が、天外氏が開発した犬型ロボット「AIBO」だろう。ソニーらしい、未来を想像させる輝きを放っていたにもかかわらず、ストリンガー氏の「決断」で採算が合わないと切り捨てられた。
「たしかにロボットはすぐにおカネを生むわけではありません。でも、世の中のためには重要なチャレンジであり、あれを手がけたことでソニーには世界中から優秀な技術者が集まっていたんです。だからこそ研究開発を続けなければならなかった。今になってグーグルが、世界中のロボットベンチャーを買収しています。一方でソニーは、先に始めていたにもかかわらず、先見性を理解して継続させる経営者がいなかった」(前出・辻野氏)
本来、5年から10年先を見越して行われる研究開発も、独立採算制が足かせとなって、十分には行われていないという。ソニー・コンピュータエンタテインメントの元幹部は、かつてのソニーに思いを馳せる。
「昔のソニーはとにかくワクワクするところでした。ドラえもんの道具みたいな技術がずらりと並んでいて、個々のチームが研究に取り組む。キャッシュアウトのことなんて考えていないし、他のチームとの垣根もなかった。当時のソニーは一つの有機体だったんです。目標は『世界一』ですらなかった。世界一は所詮、競争相手に勝つだけの話です。私たちは『世界で初めて』のものをつくろうとしていた。『世界初』を目指さない今のソニーに何の存在価値があるのでしょうか」
だが、平井社長も、かつてのソニーの精神に立ち返るつもりはなさそうだ。今回のリストラではテレビ事業を分社化し、やはり独立採算を求めるという。
「たしかにテレビ事業は韓国や中国、台湾と技術的な差がほとんどなくなった今、継続していくのは難しいでしょう。一方で平井社長は黒字化を目指すと言う。しかし、分社化することで何かが変わるのでしょうか。かえって資金が細り、人材が乏しくなるため、大胆なことはできなくなる。このままでは最終的に売却するしかなくなるはずです」(前出・テレビ部門の元幹部)
魚は頭から腐る。その腐敗は全体を蝕む。ソニーという世界的ブランドとて例外ではない。経営者の無策とリストラが続けば、社員たちのモチベーションが下がるのは必然だ。
「ソニーは'12年に国内外で1万人の大リストラを行いましたが、このとき優秀な技術者は中国や韓国などのライバルメーカーに転職しています。今回のリストラでは国内外で5000人が削減される予定ですが、以前のような海外からの引き合いはもうありません。技術者は飽和状態で、ソニーを退職しても行き場がない状態なのです」(50代の間接部門社員)
■ソニーに別れを告げる日
リストラの波は、すでに子会社に及んでいる。テレビやパソコンなどの製品組み立てを一手に担うソニーEMCSに勤務する社員のもとに、昨年12月、早期退職を勧めるメールが突然届いたという。
「要するに早期退職に応じれば再就職の便宜を図ってあげますよということですが、同様のメールが1月6日にも届きました。仕事始めの日ですよ。これにはさすがに参りましたね。
『バイオ』は安曇野にある長野テクノロジーサイトで開発製造され、同所は『バイオの里』の愛称で親しまれていた。そこが丸ごと売却されることになります。ソニーに残れるのか、別会社に移るといっても、先行きはわからない。住宅ローンを抱え、家族のいる社員は頭を抱えています。仕事どころじゃありません」(同社の40代社員)
本社の幹部社員も、今や安泰ではない。今年度からソニーが再導入した「役職定年制」によって、部課長クラスは60歳未満で役職からはずされるようになった。これでは責任ある仕事に誰も就きたがらなくなるのも当然だ。経営トップが方向性を示さず、闇雲にリストラをし、社員がやる気をなくしていく。一度狂い始めた歯車を戻すのは、容易なことではない。前出の辻野氏が、こう締めくくる。
「ソニーの使命は終わったと思いますね。創業後70年近くになります。これが人間なら、もう老人。もっと頑張れとは言わないでしょう。ソニーが全盛期を迎えていた時代には、グーグルもインターネットもなかった。時代が変わったんです。ソニーはこれまで世界に計り知れない貢献をしてきました。画期的な商品を生みだし、ハッピーサプライズを与えてきた。素晴しい会社だった。でも、もういい。静かに老後を迎えさせてあげてもいいんじゃないか。私はそう思います」
僕らがソニーに別れを告げる日は、すぐそこに近づいているのかもしれない。
「週刊現代」2014年3月1日号より
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