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声に出して言いにくい「日本の大問題」第2回 藻谷浩介×湯浅誠 人口減少社会 日本人が「絶滅危惧種」になる日 地方が消滅し、都会は認知症の老人ばかり
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38439
2014年02月21日(金) 週刊現代 現代ビジネス
毎年20万人以上が消える「人口減少社会」となった日本。このまま人は減り続け、地方は消滅してしまうのか。「絶滅」を避けるためにすべきこととは。地域振興と貧困問題の専門家が激論を交わした。
■介護離職が激増する
藻谷 団塊の世代が生まれた直後の'50年には、日本には0~4歳の乳幼児が1120万人もいました。団塊ジュニアが生まれたばかりの'75年には、1000万人です。それが、2010年には530万人。生まれる子供の数は半分になってしまった。今の日本はまさしく「人口減少社会」だと言えますね。
例えばトキの雛の数が半分になったら、これは絶滅危惧種として保護しようという話になる。それなのに日本では、子供の数が半減しても、誰も自分たちが「絶滅するかもしれない」とは言わない。
湯浅 危機感が足りない。
藻谷 子供が生まれなくなったのに伴って、15~64歳の生産年齢人口もどんどん減っています。今、日本には就業している人が2人に1人しかいないんです。正規でも非正規でも、パート、アルバイトでも、1週間に1時間でも働いておカネをもらっている人は、日本人の半分弱しかいない。高齢者が増えて、若い人が減っているからです。
湯浅 人口減少によって、社会はどんどん疲弊している。それはこれからもっと深刻になります。その大きな要因の一つが「介護離職」です。今、40代後半から50代の人たちが親の介護のためにどんどん仕事を辞めている。'12年のデータでは約15万人に上りました。
藻谷 まだ働けるのに、仕事を辞めざるを得ない。
湯浅 ええ。もし要介護となっても、介護保険だけでは足りないので、子供が離職して親の面倒を見るしかない。ところが、戦後続いた人口減少で核家族化が進み、今では日本のほとんどの高齢者は子供が1人か2人しかいません。つまり、「親なんて知らない」と言えなければ、仕事を辞めざるを得ない。
しかも介護は、終わりがいつ来るかわからない。ようやく介護が終わって復職しようにも、年齢が足かせになって仕事が見つからない。介護中から親の年金に頼るようになって、亡くなっても仕事がないから、死亡届を出せなくなる。そうして起きたのが、年金不正受給事件でした。
藻谷 '10~'15年の足元5年間には、団塊世代が退職していくため、就業者が220万人減ると推計されます。そして、75歳以上の人口は230万人も増えるので、介護の担い手は到底足りない。介護離職も、5年間で80万人にはなるでしょう。220万人と合わせれば、300万人も働く人がいなくなることになる。
湯浅 それだけではありません。中高年の独身の問題も広がっているんです。'05年の国勢調査で40~50代の独身者で親と同居している、いわゆるパラサイトシングルが200万人を超えたんですが、彼らは概ね'60年頃までに生まれた人です。比較的、ちゃんと就職して、結婚して、子供を作ることが幸せだと考える、「自立」が善だという価値観で育っている。でも、実際にはそうできなかった人が200万人もいる。'05年の調査から10年たって、パラサイトシングルはもっと増えたと言われています。
さらに、その後にはフリーターとか、非正規雇用が広がった団塊ジュニア以降の世代が控えている。経済的な理由から、子供を作るなんて考えられない人が激増しているんです。
藻谷 東京五輪が開催される2020年頃には、その人たちが45歳以上のパラサイトシングルとなって、社会問題として顕在化するでしょう。そして働いている人たちも、その時期から親の介護が始まる。働けるのに、介護でやむなく働けなくなる人が増えていく。
■みんな見て見ぬふりだけど
湯浅 街に認知症の老人が溢れて、その介護のために現役世代が働けなくなるわけです。経済が滞り、年金保険料の負担は増え、支給は減額。介護の虐待事件がいたるところで起こって、町が暗くなってしまう。
経済も社会も不安だし、支える制度もないから若者は子供を作ろうと考えない。この負のスパイラルが少子高齢化、人口減少を加速させていく。そうなることは、みんなわかっているはずです。これだけ統計的なデータが示されているのですからね。わかっていながら、見て見ぬふりをしている。
藻谷 私は今の「経済成長が何よりも大事」という風潮自体が問題だと思っています。日本のGDP(国内総生産)は戦後ずっと成長しっぱなしでした。不景気だったはずのここ20年を見ても、総じて横ばいで減っているわけではない。貿易額に至ってはバブル期の1・5倍に増えている。その一方で子供の数は半減しています。カネを基準にすれば成長はしていても、人を基準にすれば衰退です。これが幸せと呼べますか。それなのに今の安倍政権は、まだGDPを押し上げる政策ばかりを旗印にしている。
湯浅 株価が上がっても、人口は増えない。
藻谷 アベノミクスで「円安だ、株高だ」と言っていますが、その円安のせいで日本の経常収支は昨年後半から、ついに赤字基調になった。日本からどんどんカネが出て行っているのに、「これから内需回復だ」と言っている。円安で輸入している燃料や原材料も値上がりし、国民の生活コストは上がっている。しかしほとんどの人の賃金は上がっていない。ですが、家計から支払われるコストが増えるとGDPは上がるんです。おかしいでしょう?
湯浅 介護や子育てのコストも、上がるとGDPが上がる。子供が増えない社会を進めたほうが、成長していることになる。
藻谷 欧州では子供に対して日本の4~5倍の予算をかけ、少子化を食い止めています。一方、日本では、輸出大企業を優遇して経済成長というのが最優先のまま。
これはアメリカの銃規制問題の議論に似ていると思いませんか。オバマ大統領が「銃規制をしよう」といくら叫んでも、共和党保守派は反発していますよね。日本人なら銃規制して、町に銃がなくなるほうが、銃犯罪は減ると思うでしょう。でもアメリカでは「銃犯罪を減らすために銃を増やして自分を守るんだ」という理屈がまかり通る。これと同じで、日本では、いくら経済成長しても子供の減少は止まらないという現実に目を背けて、GDPが上がれば何でも解決するという理屈がまかり通っている。
■精神論では解決しない
湯浅 日本にはもの凄く強い「勤労イデオロギー」があるからでしょう。「働かざるもの食うべからず」の精神です。現役世代が多い時代はそれで良かったかもしれませんが、今の日本には働ける人が2人に1人しかいない。
高齢者や障害者に対してはいたわりの精神があり、介護離職者にもそれなりの理解があるけど、そうではない現役世代で仕事がない人間や妻子を養えていない人には「人間失格」という烙印を押してしまう。こういう考えの人は年配の富裕層に多くて「私たちは戦後の酷い状態でも子供を生んで子育てをした」という自負心がある。
藻谷 だから頑張りなさいと。しかし彼らもこれから必然的に年金も減るし、介護も受けられないという問題に直面する。現実を目の当たりにすれば、勤労イデオロギーが通じないことは、わかってくれるんじゃないでしょうか?
湯浅 いや、それは難しいと思いますね。なぜなら、彼らは必死に働いて、戦後の貧しい時代を生きぬいてきた。勤労イデオロギーを否定することは、自分の人生を否定することになるからです。今後10年間で団塊の世代が後期高齢者になって、要介護者が激増し、そのために介護保険や年金が崩壊しても、彼らはそのリスクを受け入れる覚悟はあると考えている。
藻谷 そこで出てくるのが、自己責任論ですね。
湯浅 はい。自己責任論は、働けないということも含め、うまくいかないのはすべてその人個人の責任だという考え方。日本人の根っこには勤労イデオロギーがあって、それが近年の経済第一の競争社会の中で強まってしまった。働けない奴は振り落としてしまえと。仕事がないのも子供が作れないのも、介護が受けられるだけのカネがないのも、「結局その人の頑張りが足らなかったからでしょう?」という風潮になった。
藻谷 自己責任論を唱える人たちは、結局は介護離職や子育て、人口減少という問題を解決できるとは思っていない。ただ、若者に頑張れと精神論を振りかざし、マイナスを押し付けているだけ。こんな状況で、若者が子供を作りますか?
湯浅 自己責任論が蔓延する社会になって、成果主義がエスカレートし、ブラック企業がはびこって、うつ病になる人が激増したのに、対策は取られなかった。「できないやつが悪いんだ」「若者がたるんでいる」と言って押し切られる。
藻谷 地方の若者も、まじめな人ほど勤労イデオロギーに染まって、未だに東京に出てくる。
湯浅 ええ。「地方消滅」と言われるのも、本来地方が支え、地方を支えるべき若者が、アテもなく東京に出て行っているという側面がある。地方の若者が東京に来るのは、「地方の疲弊」という言われ方で、東京の生活のほうがいいんだという価値観を植え付けられているのでしょう。
仕事を求めて地方から出てくる若者は、「地元は針のむしろだった」と言うんですね。30代で定職につけなくて、結婚をする見通しも立たない。この段階で「人間失格」と烙印を押されて、引きこもりになるか、アテもなしに東京に出てくる。でも東京は家賃も高ければ、物価も高い。それなのに得られる仕事はアルバイトなどの低賃金。それでどうにもならなくなって、生活困窮者になる人が多い。
藻谷 しかし、「地方の疲弊」と言っている人たちは何を見て疲弊したと言っているのですかね。東京のマスコミが地方のシャッター通りを映して、地方の疲弊と言いますが、じゃあ東京にはシャッター通りはないんですか。ちょっと駅から離れたところは軒並みシャッター街になってますよ。
確かに、地方消滅は危ぶまれます。でも、東京だって状況は厳しい。ブラック企業を除けば、仕事がないのも似たようなものです。地方の疲弊を言う人は「東京は地方よりましなんだ」と信じたい東京の人間と、「地方の疲弊を言うことで東京からカネが来る」と思っている地方の人なのでは。
湯浅 本当は地方で生活するほうが家賃も安いし、物価も安い。
実は2~3年前までは、僕は地方経済が良くなり、人口減少に歯止めがかかる芽が生まれ始めてきたと楽観していたんです。地方を見て回ると、闇雲に経済成長を目指して箱物を作っても今後はやっていけないと、人々が気づき始めていた。藻谷さんが提唱する「里山資本主義」のように、地域の循環型経済を目指す機運が高まってきていた。
藻谷 しかし、アベノミクスでまた逆戻りしてしまった感がありますね。陳情に行けば、また公共事業で食えるんじゃないか。そう思う人が再び増えてきた。
湯浅 全然、地方は儲かってないのですけどね。地方の事業のカネが東京に戻るようなカラクリになっていて、地域での循環経済にならない。日本はまた、暗礁に乗り上げてしまった。
藻谷 「里山資本主義」には大きな反響がありました。自然豊かな地方で、例えば製材工場から出る木くずでできたペレットを燃料に使えば、乱高下する原油価格に悩まされなくてもすむ。地域独自の少量の農産品をブランド化する。小さな企業も年々増加し、都会から移り住む若者も増えている。東京より賃金は安くても、食べ物も近所の人たちで融通しあったりして生活しやすい環境がある。人口減少社会を乗り切るのにふさわしい、低コストで楽しい生活が実現できるのです。
そもそも、東京は出生率が1・1しかない。それに対し、地方の出生率は1・5前後です。地方が活性化すればもっと子供が増える。
■「消費者」がいなくなる
湯浅 それに地域の元気なおじいちゃんおばあちゃんが子育てや介護に参加してくれる仕組みができれば、介護離職、子育て離職も減らせ経済も活性化する。そのためには核となるコミュニティが必要です。
例えば、東北の被災地ではコミュニティ作りのためにいろいろな試みが行われています。こんな例があります。学生が中心となって、仮設住宅のベンチや棚を作る日曜大工を請け負うという活動があったんです。そしたら、力仕事だから、おじさんたちも参加してくれて、それでおばあちゃんたちが感謝して。日曜大工のチームを作るということになった。役割って与えられるだけではダメで、その仕事で感謝されることが大事なんですよね。でもその活動は、結局は自治体から勝手にモノを作るな、とストップがかかってしまったそうです。
藻谷 それは残念ですね。しかし、こういうことはやっぱり地方のほうがやりやすい。東京は人を集めるだけで施設の利用料などでカネがかかってしまう。
湯浅 何か地域でやろうとすると、いろいろな抵抗勢力がいる。さらに、目先の経済成長がすべてだという価値観では、結局カネにならないことは何もしないほうがいいということになる。この価値観を払拭しないと。
藻谷 そうですね。私たちは何も経済成長そのものを否定しているのではありません。しかし経済成長だけを求め続けると人口減少に拍車がかかり、消費する人がいなくなって、結局は経済成長の足かせになる。このパラドクスに日本人は気付いていない。
でも日本にも稀有な例はあるんです。長野県の下條村では20年前から生産年齢人口が減っていません。そして子供の数も増えています。一定の数の子供がいるから、保育所や小学校の数も増やしたり減らしたりしなくいい。下條村では30年も前から村を上げて子育て支援をやっています。我々も今からでも遅くはない。社会全体で子育てしたり、介護したりする仕組みを考えるべきです。
湯浅 同感です。途上国型の成長ビジョンから、成熟型の成長ビジョンへの転換が必要です。自己責任論で誰かを排除するのではなく、みんなで支えあう包摂社会を目指したいですね。
もたに・こうすけ/'64年生まれ。日本総合研究所調査部主席研究員、日本政策投資銀行特任顧問。地域振興の各分野で研究、講演を行っている。著書に『デフレの正体』『里山資本主義』など
ゆあさ・まこと/'69年生まれ。社会活動家。'08年末「年越し派遣村」村長として一躍その名を知られる。日本の貧困の現実を記した『反貧困』で大佛次郎賞受賞。'14年度より法政大学教授就任予定
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