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[十字路]円安が奪う家計の実質所得
円安が経済に及ぼす効果の代表的な経路としては、円安の差損益と輸出入数量の増減がある。前者は円安の進行に伴ってすぐに表れてくる一方、後者が実現するまでには多少時間がかかるとされている。しかし急激かつ大幅な円安が進行して1年以上が経過した今も、期待された輸出数量の増加という効果はまだ観測されていない。見えているのはもっぱら差損益のみだ。
わが国の貿易収支は年率で11兆円を上回る赤字だ。差益と差損の収支は明らかにマイナスであり、その額だけ実質所得が海外に流出している筋合いだ。もちろん外貨建て資産からの収益は円安で膨らむが、手元の試算では民間部門についてはそれを考慮しても実質所得は失われている。
しかし全産業ベースの企業収益は円安の下で増益を実現している。なぜか。答えは簡単だ。輸入サイドで生じる差損の何割かが家計に転嫁される一方、輸出サイドの差益はほぼそのまま企業収益を押し上げているのである。企業収益だけに注目すれば円安効果はプラスだが、それは家計の負担の上に成り立つ増益というべきだ。消費者物価の上昇で家計の実質購買力は確実に奪われているのである。
円安を主因に輸入デフレーターは前年比で14%強上昇している。内需に占める輸入の比率は19%弱だから、輸入価格の上昇がすべて転嫁されれば国内価格に2.7%程度の上昇圧力がかかることになる。今の消費者物価上昇の原動力だが、今後、転嫁がさらに進んだとして、それがいったい誰の利益になるのだろうか。
インフレ率は経済の体温のようなものであり、経済活動が活発化してこそ正常な水準に上昇していくものだ。決してその逆ではあるまい。インフレ率自体を政策目標にしてしまうと、「物価上昇のせいで実質賃金が減少する」今のような事態が進行しても、結果オーライになってしまう。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査本部長 五十嵐敬喜)
[日経新聞2月2日夕刊P.5]
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