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企業融資、低迷脱せず
鹿野嘉昭 同志社大学教授
<ポイント>
○銀行貸し出しで伸び大きいのは住宅ローン
○大企業向け融資の伸び、電力・海外買収関連
○メガバンクは協調融資で手数料を稼ぐ構図
ここへきて銀行の融資に動意がみられる。日本銀行の「貸出・預金動向」によると、全国の銀行が供与した貸し出しの平均残高は昨年4月、ほぼ3年ぶりに前年比2%増の伸びを記録した後、伸び率を高め、12月には2.6%の増加となった。信用金庫の貸し出しも昨年7月に3年7カ月ぶりにプラスに転じ、12月には0.7%増えた。
そうした状況下、銀行の融資行動は変わったのか、あるいはこれから変わるのかが注目を集めている。安倍晋三政権の経済政策・アベノミクスの第1の矢である「大胆な金融政策」が日本経済を活性化させる方向で機能しているか否かを検証するためである。
最初に貸し出しの動きを確認しよう。図のとおり、銀行、信用金庫の貸し出しは2008年9月のリーマン・ショックを契機に一時的に大きく伸長した。しかし、景気の後退とともに低迷し、10年3月からは前年と比較してマイナス2%前後で推移していた。その後、11年3月以降、銀行の貸し出しは増加に転じるとともに次第に伸び率を高め、現在に至っている。東日本大震災以降、電力会社向けの貸し出しが増加したことが主な理由である。最近では海外企業の買収に関連した大企業向けや不動産業向けが増え、それらが貸し出しの増加を支えている。
この事実はまた、アベノミクスが貸し出しの伸びを高める方向で作用している可能性を示唆している。しかし、そうであると断言はできない。政府が近年実施した各種の制度改変が貸し出しの増大に少なからず寄与していると考えられるからである。
日銀の「貸出先別統計」によると13年9月末現在、国内銀行の貸出残高424兆円は法人企業向けの276兆円、個人向け123兆円、地方公共団体向け25兆円に区分される。このうち、ここ15年間で最も増えたのは個人向けであり、30兆円増加した。地方公共団体向けも16兆円増加した。これらの貸し出しは10年6月以降、法人企業向けに先駆けてプラスに転じるなど、近年における銀行貸し出し増加を下支えしているのである。
個人向け貸し出しは9割が住宅ローンであり、基本的には住宅投資の動きを反映して変動する。住宅ローンはここ数年、前年比2〜3%で増えるなど、相応の伸びを維持している。銀行が金利優遇措置の拡充などを通じて住宅ローンの伸長に積極的に取り組んでいることがその背景として指摘されることが多い。しかし、小泉内閣による政府系金融機関改革に伴い、旧住宅金融公庫が住宅ローン市場から撤退した影響も見逃せない。
住宅金融公庫は住宅ローンの主たる貸し手として、2000年代初めには住宅ローン残高の4割弱を占めていた。実際、個人が借りる際、最初に公庫から融資を受け、不足額を銀行などから借りるというのが一般的であった。しかし、07年に住宅金融公庫が住宅金融支援機構に改組され、直接融資から撤退した結果、銀行などは住宅ローンを全額供与できるようになった。これに伴い、銀行の個人向け貸し出しは安定的に増えるようになったのである。
次は、地方公共団体向け貸し出しである。この部門への貸出残高は1990年代末では9兆円、全体に占めるシェアは2%にとどまっていた。それが現在では25兆円、6%にも達するなど、大きく伸長したのである。
これは政府が07年に定めた「公的資金補償金免除繰上償還制度」が影響している。同制度に基づき、過去に借り入れた公的資金のうち5%以上という高金利の適用分については、徹底した行政改革・経営改革の実施などを条件として補償金を支払わずに繰り上げ償還できることが07年度から12年度までの6年間認められたからである。
補償金免除の対象となったのは旧大蔵省資金運用部、旧簡易生命保険および旧公営企業金融公庫からの借り入れであり、合計6.1兆円が銀行貸し出しに振り替わった。その結果、銀行の地方公共団体向け貸し出しは08年3月末に4.1%の増加となった後、伸び率を高め、現在では6%前後という高い伸びを維持している。
その一方で、法人企業向け貸し出しはここへきて動意がみられるものの、ここ15年でみると低迷基調を脱するまでには至っていない。確かに13年9月末の残高は276兆円と貸出金合計の65%を占める。しかし、98年末と比較すると7割の水準にとどまっているのである。
企業規模別にみると大企業向けは92兆円、法人向けの34%を占める。残りは中堅・中小企業向け貸し出しであり、そのうち中小企業向けは171兆円、同62%と最大のシェアを有する。
大企業向け貸し出しは10年末にボトムを打った後、増勢に転じ、最近の伸び率は5%を上回る。ただし、その過半は電力会社向けと海外企業の買収に関連した融資が占め、国内投資の増加を背景に力強く拡大するまでには至っていない。
また、メガバンクは近年、国内での協調融資(シンジケートローン)の組成にも積極的に取り組んでいる。組成額は05年度以降、年間25兆円規模で推移するとともに、残高も65兆円前後に達する。
しかし、メガバンクの貸出残高は170兆〜190兆円の間で変動するなど、組成額ほど拡大していない。これまでの貸し出しを協調融資に振り替えて貸し倒れリスクを分散させるとともに、協調融資組成に伴う手数料収入の拡大を図っているためと考えられる。実際、12年度のメガバンクの「その他の役務収益」は1100億円と10年前に比較してほぼ倍増している。
一方、地方銀行の貸出残高は04年10月以降、着実に増加し、12年8月以降は前年と比較した伸び率は3%を超えている。これらの事実を重ねあわすと、メガバンクが組成した協調融資の中で、実際の融資額のかなりの部分は地方銀行が引き取っていることが示唆される。
銀行の貸し出しが今後増加するか否かは、法人企業向けの62%を占める中小企業向けの動きが鍵を握っているといっても過言ではない。
09年12月から13年3月末まで時限的に施行された金融円滑化法は銀行などに対して、中小企業などからの元本返済の繰り延べ要請に前向きに対応することを求めた。同法施行とともに中小企業向け貸出残高の減少テンポは緩やかになることが期待された。しかし、現実に起こったのは急落であり、10年から減少率が縮小し、昨年9月にようやくプラスに転じた。
このように中小企業の資金需要は、総じてみるとなお弱い。中小企業の場合、過半の企業の売上高は15年前と比較して2〜3割減少している。そのため、経営者の多くは先行き慎重な見方を堅持し、これまでは設備投資にはなかなか積極的になれなかった。ただ、昨年12月の「日銀短観」では非製造業企業の景況感が約21年ぶりにプラスとなるなど、明るい材料もある。
業況の好転した企業を中心に設備投資もここへきて緩やかながらも拡大しつつある。信金中金地域・中小企業研究所が1月に公表した「中小企業景況レポート」によると、設備投資を実行した企業の割合も次第に上昇し、13年10〜12月期では21%とここ数年におけるピークとなっている。
この流れがさらに強固なものとなれば、中小企業の設備投資が活発化し、銀行からの借り入れも拡大することが見込まれる。そうした動きを確実にするため、安倍政権には成長戦略の着実な実行など、持続的な景気回復のサイクルを確実にする取り組みが求められているといえよう。
しかの・よしあき 54年生まれ。大阪大博士。日銀などを経て現職。専門は金融論
[日経新聞2月11日朝刊P.28]
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