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コラム:米国主導の世界景気回復は本物か=武田洋子氏
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPTYEA1C07420140213?sp=true
2014年 02月 13日 18:38 JST
武田洋子 三菱総合研究所 チーフエコノミスト(2014年2月13日)
2014年の世界経済は波乱の幕開けとなった。1月下旬に強まった新興国通貨下落は、米量的緩和(QE)縮小が始まる中、経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国(トルコ、南アフリカ、ブラジル、インドネシア、インド)への市場の目線が厳しくなったことが背景とみられる。
折しも今年はこれらの国で選挙も行われる。今後も米金融政策をめぐる観測や新興国の政治経済情勢に、市場が一喜一憂する展開は続くだろう。
とはいえ、今年の世界経済は緩やかながら回復は続ける見込みだ。筆者は国際通貨基金(IMF)の予想(3.7%)をやや下回る、3%台半ば程度の成長を予想する。牽引役は、2%台後半の成長が予想される米国経済だ。緩やかながらも成長率を高めると予想する理由は3つある。
1つ目は、リーマンショック後に米国が抱えていた「負の遺産」の処理が進み、特にバランスシート調整が進捗しつつあることだ。家計の総資産に占める負債の割合は、2000年代前半の水準にまで低下している。2つ目は、昨年、米国経済を下押ししていた「財政の重石」(増税と歳出削減)が和らぐことだ。
そして3つ目に、米国の新たな強みとなったシェール革命が挙げられる。シェール革命によるプラス効果は経済指標でも確認できる。たとえば、貿易統計を見ると、石油関連の赤字が確実に縮小している。対米直接投資も、特に製造業で増加している。
ただし、QE縮小過程での長期金利上昇の可能性、特にそれが住宅市場に与える影響には引き続き注意が必要だ。政治面では、秋の中間選挙を控え、大きな政府志向の民主党と、小さな政府志向の共和党とのイデオロギー対決が続くだろう。債務残高上限は引き上げの目途が立ったが、米国では経済政策に対する不確実性が高まると消費性向は下がる傾向にあり、今後も財政政策をめぐる政治の対立には注意が必要だ。
一方、ユーロ圏に目を向けると、根本的問題は依然解決されていないが、景気はひとまず最悪期を脱したとみられ、今年は1%以下ながらもプラス成長に転じるだろう。その理由として、輸出の回復や企業のマインド改善により、設備投資も持ち直しつつあることなどが挙げられる。
つまり、今年の米国とユーロ圏の成長率は、昨年よりも緩やかに高まる見込みだ。目下、新興国経済をめぐる不安が先走っているが、米欧向けの輸出が戻ってくれば、国によってばらつきはあるものの、中国やその他の主要新興国の輸出にもプラスに働くだろう。中国経済は、高成長から中成長への移行期にあるため減速は避けられないが、13年の7.7%から14年は7%台前半へと緩やかな成長率低下を予想する。
<「日本化」に近づく欧州>
では、世界経済の中長期的な見通しはどうだろうか。まず、先進国の潜在成長率は低下傾向にある。
短期的には景気拡大が見込まれる米国でも、潜在成長率は2000年代前半の3%近傍から近年は2%台前半へ低下しているとみられ、中長期的には2%近傍での推移を予想する。金融危機後に一段と拡大した所得格差や、労働市場の構造問題(労働者の職能低下と失業期間の長期化、職探しを諦めた人の増加による労働参加率低下など)も未解決のままだ。米連邦準備理事会(FRB)のイエレン新議長も、2月11日の議会証言において、こうした労働市場の状態に対し警戒感を示した。
欧州も、1%近傍と低い潜在成長率を予想するが、ユーロ圏統合の行方次第では、さらに低下しよう。銀行の単一監督制度(SSM)導入など、いわゆる「銀行同盟」には進展がみられるが、「財政同盟」への取り組みは鈍い。市場の落ち着きにより、域内各国首脳の危機意識は後退しているようにみえる。今年5月の欧州議会選挙で、反欧州連合(EU)を掲げる勢力が躍進すれば、統合深化へのモメンタムが一段と後退する可能性もあり、懸念材料と言えよう。
また、ユーロ圏が「デフレ」に陥るリスクも排除できない。足元の景気は最悪期を脱したとはいえ、潜在成長率を下回っており、GDPギャップも拡大している。ユーロ圏の消費者物価上昇率(食料・エネルギーを除く)は、12月に前年比プラス0.7%とユーロ導入以来で最低の伸びとなった。スペインはゼロ近傍のほか、ドイツでも低下傾向にある。南欧を中心に銀行の不良債権比率は高止まり、家計や企業のバランスシート調整も続いている。米国よりもユーロ圏の方が「日本化」に近づいていると思われる。
<潜在力を生かせないインド>
潜在成長率の低下に直面しているのは、先進国だけではない。前述したように中国もすでに高成長から中成長への移行期に入っており、2025―30年には4%台まで成長率が落ちてもおかしくない(ただし、「規模」の観点からは、その「率」でも25年頃に中国経済は米国経済に追いつくことになり、世界経済の勢力図は大きく変わる)。
昨年11月の「三中全会」(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)では、さまざまな構造改革の方針が打ち出されたが、問題は改革のスピードと、不動産バブルや所得格差の問題など経済社会の「ひずみ」拡大のスピードと、どちらが勝るかだろう。
シャドーバンキングへの対応も後手に回っている。1月には理財商品の焦げ付きが表面化。このときは第三者の出資により元本割れは回避されたが、今月13日には吉林省の金融会社が発行した理財商品の元利金返済が滞っていることが報じられている。仮に1月のように政府系とみられる第三者によって救済されるようならば、今後のモラルハザードを助長しかねない点も気がかりだ。ソフトランディング・シナリオが崩れるリスクを一番抱えているのは(そして世界経済にとって最も大きな不透明要因は)中国経済だろう。
一方、中国以外の新興国に目を向ければ、ポテンシャルはあっても実際の成長がついてきていない国があるのが実態だ。たとえば、インドの潜在的な成長率は7%台半ばといわれるが、今年の成長率も5%台にとどまる見込みだ。20年を迎える前に中国とインドの潜在成長率は逆転する見通しだが、最近のインドを見ていると、持っているポテンシャルを活かしきれていないようだ。
インドのほか、成長に「伸びしろ」があるのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)だろう。ASEAN諸国は人口構造にばらつきがあるが、インドネシア、フィリピンなどでは人口ボーナスが続く。また、15年のASEAN共同体創設により、原則、域内の関税撤廃が実現する。国境を越え最適なサプライチェーン網を構築することができれば、ASEANの優位性は一段と高まるだろう。
<アベノミクスは正念場>
翻って今年の日本経済はどうか。アベノミクスは正念場を迎えよう。世界経済に資する自律的回復をどう実現できるかが問われていくことになる。
昨年は消費が堅調に推移したことは前向きに評価できるが、公共投資がカンフル剤としてGDPを押し上げたことは否めない。いつまでも財政出動に頼ることはできず、自律的回復へとつなげる必要がある。
注目は、「設備投資」と「賃金」の行方だろう。13年度の企業業績は好調で、今後は設備投資の増加と賃金上昇につながっていくことが期待される。設備投資は、更新需要を中心に5%弱の伸びを予想する。リーマンショック後、企業は国内投資、特に更新投資を先送りしてきた。経済産業省が実施した「生産設備保有期間等に関するアンケート調査」によると、国内生産設備の経過年数が15年以上と答えた企業は40%以上にのぼる。設備の更新は、コストの低下や生産性向上に寄与しよう。
賃金にも改善の余地がある。一人当たりの賃金(所定内・所定外給与)は、パートや非正規雇用比率の上昇などから、近年、低下傾向をたどってきたが、賃金上昇に向けた環境は徐々に整いつつある。第1に、企業収益が改善している。企業の売上高営業利益率はリーマンショック前の水準に回復しつつある。第2に、12月の日銀短観によれば、景況感の回復が中堅・中小企業にも波及しつつある。従業員数や賃金総額で見ると中堅・中小企業のボリュームは大きい。第3に、賃金上昇がパートや非正規雇用に及び始めた兆しもある。13年半ば頃より小売や飲食などでパートの時給がわずかに上昇している。全体の失業率も3.7%まで改善しており、労働需給面から賃上げ圧力は徐々に高まっている。
企業の成長期待が上向き、投資回復と賃金上昇の流れが生まれれば、日本経済は4月の消費税増税後の落ち込みから、14年度後半には成長軌道に戻ると考える。さらに賃金上昇を背景に消費の裾野が一段と拡大すれば、「成長分野の明確化、成長期待のさらなる改善、新規設備投資とイノベーション促進」という好循環が生まれ、ひいては持続的な成長へつながろう。
*武田洋子氏は、三菱総合研究所のチーフエコノミスト。1994年日本銀行入行。海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。
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