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アベノミクスは2014年も有効か?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140212-00010005-wedge-bus_all
WEDGE 2月12日(水)12時48分配信
図表1 各景気循環における実質GDPの推移
足元の日本の景気回復は顕著だが、過去の景気回復局面と比較しても今回の景気回復は際立っている。実質GDP(図表1)はもとより、鉱工業生産、住宅着工戸数などの伸びも従来と比べてかなり高い。
海外経済の成長は鈍く、輸出数量の拡大がないことを見ると、これは自律的な消費の持ち直しにくわえて、円安株高とアベノミクスの大胆な金融政策と機動的な財政政策が大きく効いていることを示している。また、消費や住宅着工戸数などでは、今年4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要もある。
リーマンショック後、日本経済は世界経済の落ち込みにくわえて、大震災や超円高で3回の腰折れがあった。米国の腰折れが1回だけだったことと比べると、あまりに厳しい局面が続いたということだが、ようやく新たな力強い景気拡大局面が訪れている。従来の景気循環の平均的期間から言えば、今回の景気回復は今後数年続く勢いを持っても何らおかしくない。
もっとも、2014年の日本経済は、消費税率引き上げとともにアベノミクスの影響を差し置いて見通すことはできない。そこで、14年もアベノミクスが有効かを見ることで、今年の日本経済を見通してみたい。
図表2 消費者物価上昇率(前年同期比)の予測
■継続する大胆な金融緩和策
まず、アベノミクス「第一の矢」の大胆な金融政策だが、消費者物価上昇率(除く食料)は、13年11月にプラス1.2%となり、消費者物価を構成する品目のうち6割あまりが上昇に転じている。
しかし、上昇の背景には円安とエネルギー価格上昇の影響が強い。エネルギー価格横這いとして今年末の消費者物価上昇率を試算すると、せいぜい1%台半ばまでの上昇で、日銀が目標とする2%には達しそうにない(図表2)。
図表3 設備投資と実質金利の推移
物価目標がクリアできないとなれば、日銀は今年も大胆な金融緩和政策を継続することとなる。そして、この金融緩和策は長期金利を相対的低位に止めるとともに円安を下支えするものともなる。
さらに、巨額の貿易赤字や米国の量的緩和政策縮小も円安を後押しする。足元の状況のように、米株価の動向などで一時的な円高局面はあっても、基調としての円安方向は揺るがず、14年も円安株高が持続することとなろう。
ちなみに、12年以降米ダウ平均株価と日経平均株価との間、そして日経平均株価と円ドル相場との間には相関がある。この関係を前提にし、米国の景気堅調とFRBの緩やかな緩和縮小を織り込んで今年末にかけての円ドル相場を推計すると、115円から120円程度となる。
一方、大胆な金融政策の効果として見逃せないのがマイナスに転じた実質金利だ。詳細は13年8月の拙稿(「デフレ脱却でアベノミクスは第二幕へ 〜米国の実質金利安政策は日本にとっても参考になる〜」)を見てもらいたいのだが、実質金利は設備投資、新設住宅着工戸数に強い影響を与えている。
そして、実質金利がマイナス1%になると設備投資は7.3%伸び(図表3)、実質金利のマイナス幅が1%拡大すると新設住宅着工戸数は7.6%伸びるとも試算される。14年の大胆な金融政策は、円安株高ばかりかマイナスの実質金利をも通じて、輸出、消費に加えて設備投資や住宅投資まで強力に後押しするものとなろう。
■財政政策は消費税率引き上げの 悪影響を相殺へ
図表4 値上げ1単位増加時の賃金・雇用増の割合
14年の日本経済を見るに当たって、最大の景気押し下げ要因は4月に予定される消費税率引き上げだ。その増税額は年度で5兆円ほどに上り、3月までの駆け込み需要の反動減とともに日本経済の成長率を1%以上引き下げる影響が見込まれる。
しかし、1997年時と異なり、今回の消費税率引き上げが景気に及ぼす影響は一過的だろう。理由の一つは、政府が実施する経済対策(「好循環実現のための経済対策」)=財政政策にある。その規模は真水ベースで5.5兆円に上り、消費税増税分が全額相殺される規模に当たる。
しかも、重点項目には企業減税があり、復興特別法人税0.8兆円の前倒し廃止だけをとっても企業の税引前当期純利益を2%近くかさ上げする規模だ。売り上げが増えている企業は雇用も賃金も増加しており(図表4)、企業減税は確実に企業活力を増し、景気に好影響を与える。
アベノミクスは、それ自体が経済を活性化させるものではなく、企業活力に火をつけるのが目的と言える。大胆な金融緩和策や円安株高に積極的財政政策と企業減税も加われば、14年度の日本経済は消費税率引き上げがあっても堅調な成長を続け、1%を超える成長率となる可能性は十分にある。
図表5 OECD諸国の一人当たり国民所得(2012年)
■アベノミクスの限界
もっとも、15年以降の日本経済もアベノミクスのお蔭で順風満帆と言い切ることはできない。アベノミクスがいつまでも続けられないからだ。とりわけ、第一の矢、第二の矢である大胆な金融政策と機動的な財政政策の余地が乏しくなっていく。
そもそも、120円に向けた円安の進展は輸入物価を上昇させ、長期金利に上昇圧力をかける。14年中はマイナスの実質金利が実現され、大きなプラス効果をもたらす可能性が強い。しかしその後は、金利上昇とともに日本最大の国債保有者である日銀が、現状以上の大胆な量的緩和策を実施するのが徐々に難しくなっていく。
同様に、財政政策においても国債金利の上昇は、一般会計の中での国債費の増加を招くことになり、財政健全化がますます優先課題となっていく。ちなみに、歳出を一定として計算すると、国債金利が1%上昇するだけで、一般会計歳出の中で国債元利払いを示す国債費は14年度予算の24.3%から最終的には32%まで上昇してしまう。
円安にしても、120円となれば、その後の一段の円安は副作用が強く目立つようになる。まず、円ドル相場が120円になると、日本の一人当たり国民所得はOECD平均よりも低くなってしまう(図表5)。
また、購買力平価ベースの円ドル相場をみると、一番円安で計算される消費者物価価格ベースでも127円あたりにあり(図表6)、120円を超えた円安進展は過去と比べても通貨安が行き過ぎるように見える。そうなれば、輸入物価がさらに上がって国民生活を圧迫するし、国際的に円安誘導の批判が高まっていくことにもなる。
図表6 円ドル相場(購買力平価ベース)の推移
■企業は自立を急ぐべき
いままで、欧米企業に比べると縮み志向が強かった日本企業にとって、14年度の経済環境は大いにプラスだ。しかし、アベノミクスの限界に鑑みると、いつまでも政府の景気下支えに期待するばかりでは遠からず景気は再び下向きになりかねず、このチャンスを逃しては現状ほどの好機再来は当面見込めないように見える。まさに、14年は民間部門が自立して経済を活性化させられるかが問われる年ということだ。
幸い、今年は第三の矢の成長戦略が目指すグローバル化もTPPなどで進む方向にある。TPPが成立すれば、関税率が下がって貿易が促進されるだけではない。原産地規則の累積も生じる。これは、貿易品がどこの国で生産されたかを決める原産地規則について、TPP域内国で生産された部品等の付加価値割合が累積され、一定割合を超えれば域内産となる仕組みだ。
こうなれば、日本の企業にとっては輸出しやすくなり、空洞化の歯止めにもなる。ちなみに、ドイツの優良中小企業は、差別化を旨としつつイノベーションで強い競争力を獲得し、グローバル化で世界を相手とした売り上げ増と高い市場シェアを実現している(RIETI世界の視点から「21世紀の隠れたチャンピオン」、2012年7月)。
経済環境が劇的に改善した今こそ、日本の企業はビジネスが向こうからやってくるとの「待ちの姿勢」ではなく、差別化とグローバル化を旨としたビジネス展開を積極的に進め、自立を急がなければならない。それが、アベノミクスの限界を乗り越え、日本経済の安定成長につながる唯一の道でもある。
中島厚志 (経済産業研究所理事長)
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