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なぜインフレの本質を誤解してしまうのか?「円安→物価上昇→生活苦」は、一面的な見方
http://toyokeizai.net/articles/-/30222
2014年02月10日 村上 尚己 :マネックス証券 チーフ・エコノミスト 東洋経済
2013年のアベノミクス発動で、日本経済は1990年代半ばから続いた20年弱に及ぶデフレから抜け出す第一歩を踏み出した、と筆者は考えている。すなわち、アベノミクスの第一の矢である金融政策(日本銀行がほかの多くの国と同様にインフレ目標〈2%〉を掲げ、その実現のために金融緩和を強化したこと)が、「歴史的な経済政策の大転換となった」と認識しているからだ。
■ それでも根強い「インフレ転換懐疑論」
実際に、2012年11月を大底に、日本経済は個人消費を中心に回復。失業率や有効求人倍率も改善、日本経済全体に景気回復が及んでいる。行き過ぎた円高も解消され、企業業績も2014年3月期で見れば、前年度から約30%以上もの増益になる見込みだ。景気回復とともに、デフレ懸念が和らぎ、インフレ率もほぼ15年ぶりに水面下から浮上しつつある。
日本経済を映す鏡である金融市場も景色が一変した。年初から世界的同時株安で日本株も下落してはいるが、2013年の日経平均株価は、堂々、戦後4番目となる上昇率。アベノミクス発動前までは、主要先進国の中で、リーマンショック後に唯一下落基調をたどっていた日本の株式市場は、先行する米欧市場と肩を並べる程度まで上昇した。経済政策として脱デフレを掲げたことで、「日本経済は今後も一方的に衰弱が続く」のではという、市場参加者の強い悲観論が和らいだ。アベノミクスで、金融政策の大転換が実現しなかったらと思うと今でもゾッとする。
アベノミクス2年目の2014年を迎え、ほぼ1カ月半が経過した。当初は懐疑的だったかもしれないが、「アベノミクスが目指す脱デフレが進むと、同時に経済復活も成し遂げられる」という期待を持つ人が増えたのではないか。ただ、「アベノミクス2年目」を迎えたからか、過去1年の劇的な変化という現実を受け止められないのか、あるいは想定外だからだろうか、なおも約20年ぶりの「インフレへの転換」に懐疑的な見方は根強い。
■ 2014年は実質賃金が目減りするかもしれないが…
たとえば、「インフレ」が進むと、日本人の多くが貧乏になると訴える人がいる。その根拠は、簡単にいえば、「インフレ」になれば、買い物をするときの負担が増える。その際、賃金が増えていない、あるいは増えたとしても微々たるものなので、実質賃金(名目賃金から物価上昇率を差し引いたもの)が下がり、家計の生活が苦しくなる、ということだ。
確かに、2014年は消費増税もあって、家計の実質賃金は低下する可能性が高い。「インフレを目指すアベノミクス政策は、人々の生活は貧しくなるので持続可能ではない」と言いたいのは、心情的には理解できる。ただし、この考えは、「インフレという経済現象」に対する根本的な誤解に基づいている。
以前のコラムでも述べたが、インフレとは、モノだけではなく、サービスを含めた消費活動全般の価格上昇である。外食、旅行、フィットネスクラブなどの、従業員の人件費が直結するサービスを含め、安定的に価格上昇が実現するのが、インフレという現象である。インフレ率をプラスで安定させることが、日本銀行を含め、世界中の中央銀行が目指していることである。 「インフレ=貧しくなる」、という思い込みをする方々は、アベノミクスの発動で大幅な円安(円高修正にすぎないのだが)が起きたことの負の面だけしか見ていないので、なかなか理解できないのではないか。確かに、円安による「輸入インフレ」で、ガソリンなどの必需品の価格上昇はいち早く起きる。これも実は一部の品目の価格上昇なのだが、これを「インフレ」、あるいはもう少し厳しい言い方で「コストプッシュ型インフレ」と称し、「コスト増加」の側面のみを強調する。円安で「インフレ」が起きているだけなので、「円安が大きく進まないと2%のインフレが実現しない」という予想すら聞かれる。
■ グローバル化で、賃金は本当に上がらないのか?
実際には、アベノミクスで起きた円高修正は、インフレをもたらす要因のひとつにすぎない。行き過ぎた円高が修正される過程で、冒頭で説明したとおり、幅広く景気の回復が起こり、モノやサービス、労働市場における供給超過(需要余剰)が和らぐ。アベノミクス発動をきっかけに始まった、そうした経済全体の変化が脱デフレの根幹にある。脱デフレと経済活動の活発化は、同時に起こる。インフレとは、経済全般の視点でみなければいけない。
にもかかわらず、「賃金が上がらない」「円安で必需品の価格が上昇する」という、ミクロの視点で経済事象を説明すると、当初は多くの生活者の感覚に合致することもあり、わかりやすいということなのかもしれない。残念ながら、もし、そうであるならば、今、日本で起きている「歴史的な変化の重要性」が、いつまでも理解できないだろう。
サービスを含めた物価全般(一般物価)が上昇すると、名目賃金もそれと連動して上昇するのだ。というのも、消費や設備投資が増えて、経済の需給が引き締まる経済状態になるから、インフレ率が上昇する。そうした経済状況が続けば、労働市場では人手不足になる。モノやサービス同様に、労働市場において、「需要>供給」となれば、賃金にも上昇圧力がかかる。
インフレになっても貧乏になると考えてしまう方は、モノやサービスなどの価格全般が上昇しても、「グローバル化」などを理由に、賃金が上がらない状態が永続すると思い込んでいるのかもしれない。
実際に起きることは以下のことだ。つまり、身の回りのモノの値段のほうが素早く上昇する一方で、賃金が動くペースはさほど早くない(遅効性がある)。個々の市場によって、インフレが定着するまでに時間の差があるので、景気回復の初期段階とも言える、2014年くらいまでは、そうした状況が続くのかもしれないのだ。
ただ、こうした状況は永続しない。インフレが定着し、経済成長率が高まることで、労働市場の需給も改善する。そうすると、労働市場で余っていた人が雇用され、失業率が低下し、人手不足になる。実際に、名目賃金は景気変動の変化による物価上昇に見合う格好で、上昇していく。上の図をみれば、1990年代半ばからデフレが始まり(消費価格指数が低下)、それと同じタイミングで賃金も下がっていることがわかる。
逆に言えば、インフレが起きているときは、同時に経済成長が高く、名目賃金も上昇している。そしてこのときは、実質賃金も上昇している。今後、脱デフレに伴い日本経済が復活し、賃金は、名目ベースでも実質ベースでも増え始めるだろう。そのプロセスが、アベノミクスでようやく始まったのである。
経済全般の客観的なデータを踏まえず、「インフレの本質」を誤解したまま、「輸入インフレ」などの側面だけを見ているとすれば、今起きている時代の大きな変化についていけない。
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