http://www.asyura2.com/14/hasan85/msg/556.html
Tweet |
日本のクルマがこれからも勝ち続けるにはどうすればいいのか(2013年11月のモーターショーで、撮影:尾形 文繁)
トヨタ自動車が狙う、「脱AV家電化」とは?クルマが示す、「技術で世界に勝つ」ための条件
http://toyokeizai.net/articles/-/30115
2014年02月10日 諏訪 暁彦 :ナインシグマ・ジャパン社長
「日本のお家芸」だったはずのエレクトロニクス産業が、グローバル競争で「連戦連敗」をするようになって久しい。
では日本の製造業が、世界で勝つための条件とは何だろうか。
「オープン・イノベーション」を合い言葉に、仲介者として「世界の技術を結びつける」ことに奔走しているナインシグマ・ジャパンの諏訪暁彦社長が、今回から3回にわたり連載。トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなどをモデルケースに、日本の製造業が技術で勝ち続けるための条件や、課題などについて明らかにする。
「そろそろ技術力で勝ち抜けるビジネスモデルを見出したい」。メーカーの技術者なら、常にそう思うはずだ。だが半導体や液晶テレビの技術はすでに海外の企業に追いつかれ、コスト競争にもさらされる。
たとえばお掃除ロボットやタブレット端末など、すでにある技術の後追いをしたところで、「技術で勝ち抜く」ことは難しい。かといって、新興国市場でのコスト競争に勝つために、自分たちの生活コストを下げる覚悟もない。しかし、そもそも資源国ではない日本は、付加価値をつけることで今の地位を築いてきたはずだ。では技術で付加価値を付け、世界で勝ち続ける方法とはなんだろうか? 自動車のケースで明らかにしていきたい。
■ カーエレクトロニクスの未来はバラ色か?
最近のクルマで人気なのは、スバル(富士重工業)の「アイサイト」のような、自動停止まで行う「プリクラッシュセーフティシステム」(PCS)や、日産自動車の「アラウンドビューモニター」のような駐車支援機能だ。これらはまさに、エレクトロニクスとIT技術の結晶のような技術である。従来からあるカーナビやPCSのようなエレクトロニクス部品は、ハイブリッド車の場合、実にコストの5割近くを占めるというのだから、まさに「カーエレクトロニクス」だ。
車に欠かせないカーエレクトロニクスは、エレクトロニクスと自動車に強い日本にとって、産業を再興させるチャンスのようにも見える。しかし、このチャンスが「いつまで続くか」が、実は問題なのだ。
今では標準装備が当たり前となった音声案内型のカーナビは、1992年8月にアイシン・エィ・ダブリューが開発し、「トヨタ自動車」のセルシオに初めて採用された。当初は、「ドライバーの負担を大きく減らすことができる」のがウリで、クルマ自体の差別化にもつながった。当時のクルマが550万円だったのに対し、カーナビの価格が90万円ほどもしたのというのだから、その価値は一目瞭然だ。
しかし、カーナビ発売から数カ月後には、松下通信工業(現パナソニックAIS社)とトヨタが共同モデルを販売。カーナビは瞬く間に市場に広がったのである。現在、カカクコムでの売れ筋は平均価格5万円以下だ。発売当初から比べれば実に20分の1にまで価格が下落している。
これとよく似た動きが、すでにPCSにも見られる。前出の「アイサイト」がまさにそうだ。スバルはアイサイトでPCSの市場を席巻した。そして今、衝突回避速度を時速30キロメートルから50キロメートルまで引き上げた次世代モデルで他社との差別化を図ろうとしている。だが、トヨタの時速40〜60キロメートルまでカバーできるPCSを発表。他社の追随は必至だ。PCS自体の性能に差がなくなってきた今、スバルの逃げ切りは難しいだろう。
もちろん、PCSの普及が今後さらに進めばユーザーにとってはありがたい。だが、メーカーにとっては、価格に転嫁できなければ、利益を圧迫していくばかり。まさに、PCSも、カーナビと同じ道をたどってはいないだろうか。
■ ニッポンの自動車メーカーが生き残る「秘策」
技術で先行しても、短期間で追いつかれ、コスト競争に持ち込まれて経営が困窮する… まるでどこかで聞いたような話である。そう、これはまさに日本のAV家電メーカーがこれまでさんざん苦しんできた事業構造そのものだ。いや、実際には、カーナビの価格下落率の方が液晶テレビより著しいのだから、それ以上かもしれない。カーナビをはじめPCSなどのカーエレクトロニクスが、まさにAV家電のように一般化することでシェアを拡大していけば、クルマ自体もまた、新興国に苦戦を強いられることになってしまう。
だが実は、明るい兆しも見えている。PCSなどの熾烈な競争の裏で、将来のクルマの性能を左右し、かつ、新興国が追いつきにくい技術の開発が、トヨタをはじめとした自動車メーカー各社で着実に進んでいるからだ。
走行性能に大きく関わる電池、エネルギー効率を上げ快適な車内環境を作ってくれる熱伝導材料、そして排ガス浄化システム・・。これらがまさにそうした例で、技術レベルも高い。
なぜ技術が高い、といえるのか。21世紀以降に出願された、上記すべてに必要となる無機材料の特許数を見れば、一目瞭然だ(トヨタで約1000件、日産とホンダが各600件に対し、米ゼネラルモーターズでは100件、現代自動車は30件、フォルクスワーゲンにいたっては一ケタなのである)。
この数字が物語るように、ニッポンの自動車メーカーの技術力は、実は海外勢を圧倒しているだけでなく、以前から電池材料の開発に取り組んでいるパナソニックや東芝などの国内企業と比べても、そん色ないレベルにまで達しているのだ。
■ 新興勢力に屈しない『無限に伸ばせる技術』
しかし気になるのは、他国によるキャッチアップという点だろう。かつての電気メーカーがそうであったように、技術が頭打ちになれば、あとはコスト競争があるだけだ。
では、自動車はどうなのか。電気自動車を支える電池や熱伝導材料は、ガソリン車と同じような「走行距離」や「快適さ」をかなえるにはまだほど遠い。また、技術的にも伸びしろがある。私は、この「伸びしろ」こそが、大きなチャンスだと見ている。
数多くのニッチ市場でトップシェアを持ち高い収益率を誇る、日東電工でCTO(最高技術責任者)の表利彦氏も、企業が生き残るために必要なスキルとは、「顧客価値を絶対的に高める、圧倒的に優れた『無限規格品』ともいえる材料を開発すること」と語っている。このように、開発でリードすればするほど価値が高まる強い技術があれば、日本の自動車メーカーが世界で勝ち抜くことは、決して不可能ではない。
それでも、「新興国企業も同じことをすれば、結局は追いつけるのでは? 」という疑問が上がるだろう。だが、実は「無限規格」の材料開発は、技術的にも資金的にもそう簡単なものではない。それは、炭素繊維の事業構造を見れば実にわかりやすい。
炭素繊維は東レ・帝人・三菱レイヨンの3社が世界シェアの7割を占める。地道な改良を重ね、現在はナノ(10億分の1)レベルでも欠陥のないモノが安定的に製造できるまでになっていて、開発当初と比べ強度も3倍にも向上している。しかも生産技術は完全にブラックボックス化されているため、新興国は手も足も出せず、参入しようとする動きすら見られないのだ。
■ 差別化こそ、生き残りの鍵
自動車メーカーでは、新卒採用はもちろん中途採用においても、材料分野の技術者や研究者が欠かせないという。強化するのは人材登用だけではなく、外部技術の登用も同様だ。たとえば、2013年のトヨタの研究公募でも、材料分野は重要なテーマを占めている。
こうした、先端的な研究技術を取り込むことで開発期間を短縮する「オープン・イノベーション」と呼ばれる手法は非常に有効なのだが、これを成功させるには、「外部の技術の優劣を見極める目利き力」と「共同開発を進めるうえでの、研究者の力量」が不可欠だ。自動車メーカー各社の特許件数の差が示すように、これまで社内に材料開発の能力を蓄積してきた日本のメーカーの方が、外部の良い技術を発掘し、育てる力を持っているのは明白だ。
もし圧倒的な差別化が、将来のクルマの走行性能や快適性を左右する、電池や熱伝導材料の分野にも再現できたら? AV家電メーカーがたどった道とは異なる未来が開けているように、私は思う。
しかし、「無限規格」の材料での差別化が難しい製品の場合はどうすればよいだろう? 次回のコラムでは、「すりあわせ力」を活かした、別の勝ち方について見ていきたい。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。