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第1部 覆面調査で丸わかり 「痒いところに手が届く高級ホーム」と「痛くても放置される悪質ホーム」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38281
2014年02月06日(木) 週刊現代
老人ホームは「格差社会」食事も介護もまるで別物です
核家族化が進み、「おひとりさま」世帯も増えるなか、「終の棲家」として老人ホームを選ぶ人も多い。ときにマイホームに匹敵する大きな買い物にもなる施設選び。その先に待つのは天国か地獄か。
■「全てに満足です」
「取材の方?いいこと、たくさん書いてね」と入居者の女性が明るい声で話しかけてきた。
JR武蔵野線市川大野駅から1q弱の、1万9561m2という広大な敷地。ここに鉄筋コンクリート造3棟の、高級マンションのような建物が威容を誇る。居室数352戸、取材時の入居者数429人。国内有数の巨大有料老人ホーム、松戸ニッセイエデンの園だ。
敷地内には、介護付き有料老人ホームであるニッセイエデンの園以外にも、クリニック、在宅介護支援のヘルパーステーション、フィットネスクラブなどがある。フィットネスクラブ内には25mプールにジャグジー、スタジオ、ジムがあり、入居者の利用は無料だ。
本館入り口から入ると吹き抜けの広いロビーラウンジが視界に入る。中央にはグランドピアノが鎮座し、プロのピアニストを招いての音楽会も開かれるという。
落ち着いた内装、毛足のしっかりした絨毯は高級感に満ちている。陽光が降り注ぐ大食堂では、この日の昼食時、麺と肉、2種類の定食が準備されていた。ためしにそのうちのひとつ、鶏肉の香草焼きを注文してみる。味付けは薄めながらも、いわゆる老人食の味気なさはなく、盛り付けも美しい。ご飯、味噌汁、主菜、漬物、デザートで、入居者には630円の価格設定だ。総園長の彦坂浩史氏はこう話す。
「食堂は予約制で配膳はセルフサービスです。入居者の方にはお手間ですが、これらは意図的なもので、たとえば、予約があったのに来ない方には、『どうなさいました』と確認をします。
入居者の方々は、なるべく最後まで自分自身で生活を管理したいと考えている。なかには施設のサービスを一切利用しない方もいます。それでもなるべくコミュニケーションの機会を作り、生活支援を充実させるよう努めているのです。同価格帯ではホテルのように至れりつくせりのサービスを提供するところもありますが、ここではこうしたコミュニケーションに基づく生活支援を大切にしています」
別棟にある付設のクリニックは、19床の有床診療所だ。入居者の日常の健康管理や診察から急病時の治療まで対応している。24時間365日、夜間にも医師と看護師が常駐し、入居者が体調を崩しても安心だ。前出の彦坂総園長は言う。
「私どもの施設では、入居時にはお元気で自立して生活できることが入居条件になりますが、その後、介護状態になられた場合も、希望があれば最初に入居された一般居室で、できる限りサポートさせていただきます。全入居者中、介護認定者は125名。うち85名は一般居室で暮らされているのです。介護居室に移られた場合でも追加の費用はいただいておりません」
入居率は常に高く、空室が出てもすぐに埋まってしまう。取材当日には、たまたまリフォームされたばかりで空いていた一部屋に案内してもらった。
晴天時には富士山も望めるという8階の角部屋は58・51m2。室内は新築然としていた。入居者が変わるたび壁紙をはがし、全ての設備(洗面、トイレ、風呂、キッチン、クローゼットなど)を取り外して完全リフォームしているのだ。
バリアフリーで床暖房も完備。洗面台やキッチンの高さ、トイレや風呂の仕様は、車椅子の利用者にも対応するようになっている。
肝心の費用だが、この部屋に一人で入居した場合、入居一時金が4830万円。これに介護金294万円と健康管理金588万円を加え、入居時に支払う金額は5712万円となる。これでも15以上ある居室種別のうち専有面積は中ほどだ。
さらに月々の費用は、管理費6万7725円や3食30日分の食費、光熱水費などがあり、目安として月16万円ほどかかるという。
ちなみに夫婦二人で入居すると入居時の費用に1172万円が加算され、月々の費用の目安は27万円だ。
入居3ヵ月という70代の女性は、「全てに満足です。たくさんのサークルがあるからお友達もできました」と話す。まさに裕福な人々の、老後のユートピアだ。
だが、このホームのような優良老人ホームに出会い、高額な費用を用意できるのは、ごくひと握りの入居者や家族に過ぎない。
千葉県在住の永沢良男さん(61歳・仮名)はこう話す。
「ある日、親父が持病の悪化で入院していた病院から電話があって、早く引き取ってほしいと言われたのです。慌てましたね。当時、私は地元の群馬を離れてタクシー運転手をしており、帰郷して同居したり介護する余裕はありませんでした」
■後悔先に立たず
町の福祉課に相談に行くと、費用の安い公的な特別養護老人ホームは数百人待ちと言われた。紹介された地域包括支援センターでいろいろな施設の資料を見たが、「よさそうなところは最低300万円必要だった」。
建設現場で長年、型枠工として働いてきた父親だが、持ち家も預貯金もない。永沢さん自身には借金もあり、資金に余裕はなかった。
「最終的に、入居一時金がなく、月額11万円で面倒を見てもらえる無認可のケアハウスを選びました」
郊外の畑と住宅が混在する地域にあるこの施設は、築四十数年の2階建て木造アパートを家主が改装したもの。トイレ付きの2~3人部屋が基本だが、低価格が売りの無認可施設とあって、ナースコールなどの設備も特にない。味噌汁とご飯の簡素な3回の食事時以外、職員の定時巡回はない。夜間の緊急時は入居者同士が助け合って、大家の家に電話するしかなかった。
「親父の部屋は、8畳ほどの空間にベッドが3つ並んでいました。私物などは小さなロッカーに入る分だけ。お袋の位牌と写真のアルバムを持っていきました」
居室では、永沢さんの父親のように認知機能に問題のない人も、認知症の進んだ人も混在していた。
「同室に夜間徘徊する方がいて、親父は眠れないと訴えた。すると、薄い間仕切りで仕切られただけの、狭い『個室』に移されました。
親父が死んだのは、2年後の一昨年3月。施設から『風邪をこじらせたので入院させた』と事後報告がありました。病院へ行くと、体中から肉がそぎ落とされたように痩せた親父が寝ていました。意識は朦朧としていて、私を見て笑うのですが会話もできず……。
でも、私は施設が悪いと言う気にはなれないんです。他に行くところはなかった。年老いた親父と路頭に迷うのかと不安におびえているより、やっぱり幾分か助かった。悪いと言うなら、カネの余裕もなく、親の顔もなかなか見に行けなかった私が悪いんですよ……」
老人福祉施設の入居者や家族の相談を受け、施設の覆面実態調査なども行っている、NPO二十四の瞳の山崎宏理事長はこう話す。
「一時期よりかなり減少はしましたが、精神的・金銭的に追い込まれた利用者や家族を食い物にする悪質業者もまだまだあります。
たとえば、業界では『寝かせきり高齢者専用アパート』などと称される施設。『住宅型』を謳って行政の監督をすり抜け、入居者のリハビリなどは一切行わず、狭い部屋に重篤な人を囲う。口から食事を摂れない『経管栄養』の要介護者を集めたりします。
こうした運営会社と提携医療機関は、介護・診療報酬をフル計上する上、医師に発行させた『特別訪問看護指示書』を根拠に、診療報酬に二十数万円をプラスする。すべて国民の税金、保険料から支払われるのです。家賃収入もあわせ、入居者1人につき100万円を荒稼ぎするケースもある」
それでも、経済的に困窮していたり、突然の事態に途方に暮れ慌てて契約した家族などは、「他に行き場所はなかった。受け入れてもらえるだけでありがたかった」という心理に陥ってしまうのだという。
こうした「老人ホーム格差」に泣かされるのは、金銭的に余裕のない人とは限らない。もちろん、求めれば高級な施設、サービスの充実度合いにはきりがない。だが施設自体は適当な値段で相応のサービスを提供していても、選び方ひとつで取り返しのつかない失敗をする可能性が誰にでもある。
とくに、入居時は心身ともに健康だった人でも、年月が経って不調が出てくると、入居当初は十分と思えた生活のサポートが不足し、いつの間にか生活の質が劇的に低下してしまう恐れもある。入居前の確認不足、施設の選択ミスという小さな「傷」が、年齢を重ねるほど広がり、やがては満足度に激しい「格差」が生じるのだ。神奈川県でマンション型サポート付き高齢者住宅に住む鈴木隆さん(78歳・仮名)はこう話す。
「入居時には『まだ元気だし、いいか』と介護保険サービスをつけなかった。ところが、体調の悪い日に管理人さんに『ゴミ出しと買い物を手伝ってもらえないか』と電話したら、『介護保険の家事援助を申し込まれていないので、できません』。これでは特別なサポートも受けられず、ただの一人暮らしと同じですが、後悔先に立たずですよ」
では実際、満足度の高い施設はどう選べばよいか。次章で詳しく見てみよう。
「週刊現代」2014年2月8日号より
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