03. 2014年2月03日 21:40:07
: niiL5nr8dQ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140127/258837/?ST=print 倉都康行の世界金融時評 復活する米国証券化商品 市場経済活性化かクレジット・バブル前兆か 2014年2月3日(月) 倉都 康行 新興国に関する不安については昨年10月にこのコラムで詳説した通りだが、年が明けてからも中国経済の鈍化予想やアルゼンチン・ペソの急落を契機に、改めてそのリスクが浮き彫りになっている。各国の株式市場では昨年来の超楽観ムードが修正され始めているが、そうした上下動は低成長時代には付き物の現象と言って良いだろう。 脆弱さが顕著になってきた新興国に比べ、先進国はまずまずの成長ペースが期待されている。特に米国経済は今年3%以上の成長率を遂げる、との見方が強まっている。筆者はまだそこまで強気ではないが、昨年末の米国内でのガソリン消費量や化学業界の石油消費量を見ていると、確かに今回の強気説は過去数年間に浮かんでは消えた「期待先行」のムードとは違うかもしれない、とも感じている。 雇用状況や物価上昇圧力という点では、本来の米国経済の姿からは未だに程遠い。サマーズ氏が語ったような低成長の長期化が予想される中で、大企業が現金を溜め込んで設備投資に向かわない状況が大きく変化することはないだろう。だが住宅市況と自動車販売という二本柱には確かな力強さが備わっている。 特に昨年の自動車販売は前年比7.6%増の1560万台と2007年の1610万台に次ぐ水準まで回復し、大底となった2009年からほぼ5割戻しとなっている。2000万台を超えた中国には及ばないが、ガソリン価格の安定という順風にも助けられて今年も1600万台を突破する勢いが継続する、との見方が大勢だ。 急速に伸びた「サブプライムローン」販売額 そんな自動車販売を金融面で支えるのが、証券化市場である。証券化商品(ABS)といえば、「サブプライムローン」という悪印象が残ったままであり、また悪夢の再来か、といぶかる人も多いかもしれない。実際に、昨今の自動車ローン証券化の発行には「サブプライムローン」を担保としたものが増えており、そんな「低信用力ローン」を組み込んだ証券化商品は、高利回りを求める投資家の熱い視線を浴びている。 いかに物忘れの早い金融市場でも、数年前まではさすがに「サブプライムローン」を受け入れる機関投資家は少数であった。だが2012年末頃から徐々に変化が起き始めた。自動車ローンでは、住宅ローンと違って延滞率が低いし中古自動車の価値も安定している。 そんな「サブプライムローン」を束ねて組成された証券化商品の販売は2013年に急速に伸び、発行額は前年比20%増の215億ドルとなった。市場では今年の発行額は250億ドル以上とも予想されている。 一部には「サブプライム問題の再現」といったニュアンスで報じられることもあるが、担保価値が不安定な住宅ローン市場と単純比較することは出来ない。自動車ローン証券化商品全体に占める「サブプライムローン」商品のシェアは昨年24%まで上昇しているが、利回りに飢えた投資家の需要は旺盛であり、今年はさらに拡大しそうな気配である。 2012年半ばから回復に転じた米国の住宅市況は、プライベート・エクイティ・ファンドなどの新規参入組によって強引に演出された印象が強く、住宅ローン金利上昇による影響も受けやすい。一方で自動車販売は、こうしたファイナンス・ルートの回復がかなり寄与しており、証券化市場の復活で安定的な推移が予想されているようだ。 ただし、いくら自動車という担保価値が安定しているとはいえ、サブプライムローン自体の回収実績に不安が付きまとうのは当然だ。ローンの債務不履行率が上昇し始めれば、昨今のような低スプレッドでのABS投資は正当化できなくなる。 同市場の規模は小さいのでシステミック・リスクは高くないが、この自動車ローン証券化商品やジャンク債などを含めた米国クレジット市場全般に見られる過熱感が、中国など新興国経済への懸念と同様に、世界的な株価調整を引き起こす前兆となる可能性が無いとは言えない。 怪しげな資産と投資家の「甘い考え」 一般的には、証券化商品の復活はいわば「金融取引の復興」であり、民間資金の流れの円滑化を促進する、と期待されている。理屈ではその通りだ。だが同市場が、2007〜8年の惨事を招いた事実を十分に反省し安全性を高めたかどうかは不明なところもある。昨年発行された商業用不動産を担保とする証券化商品(CMBS)の中には、担保資産の中に不稼働資産がヒッソリと盛り込まれたケースも散見されている。 英フィナンシャルタイムズ(FT)紙によれば、昨年米国で組成された案件の中に、マンハッタン地域で「ホームレス・シェルター」と揶揄される商業用不動産を担保としたものがあった、という。文字通り、失業者らがたむろするような「居住地」である。 こうした怪しげな資産が原資産全体のわずかなシェアに限定されているとしても、あるいは公的部門による安定的賃料支払いの保証があったとしても、健全な証券化商品には程遠い。米国では、強気の経済成長予想が増す中で商業用不動産の証券化に関してバラ色のキャッシュフロー予想を添えた組成案件が徐々に増えている、とも言われている。危険な兆候である。 一方で、金利環境としてはFRBの量的緩和縮小が始まったが、利上げはまだ遠い先の話だ。景気が回復途上にある中で低金利が当面継続する見通しとなれば、機関投資家は多少のリスクを取ってでもより高い金利を求める行動に出やすい。サブプライムの自動車ローンや、怪しげな商業用不動産を組み入れた証券化商品は、そんな投資家ニーズにうまく照準を合わせている。いつか来た道が霞んで見える。 投資家の中には、問題が起きればサブプライム問題の時と同様に訴訟を起こして金融機関に負担させればよい、といった甘い考えがあるかもしれないが、そんなに都合よく柳の下に泥鰌(ドジョウ)を見つけることは出来ないだろう。 機関投資家だけでなく、米銀自身もまた証券投資というリスク・テイクに向かい始めていることも、こうした市場の過熱感を加速させかねない材料として注目される。 先月発表された大手米銀の第4四半期(昨年10-12月期)決算は、まずまずの結果として捉えられているが、総じて言えるのは債券売買部門の低迷が明確となったこと、そして住宅ローン部門の収益力が低下してきたこと、の二点である。それは一時的事象というよりも2013年を通じての構造変化であり、今年もその傾向は続きそうだ。 金融危機後の低成長局面を切り抜けてきた債券売買と住宅ローンの二本柱の不調を埋めるには、レバレッジ再拡大や高利回り資産の購入といったリスク・テイクしかないだろう。だがレバレッジ利用には規制強化という大きな制約が掛けられてしまった。となれば、収益力増強のための施策として高利回り債券投資へと舵を切らねばなるまい。 米銀行は利ざや拡大のため「リスク資産」へ 米銀は、金融危機以降積み上げてきた米国債や住宅ローン担保証券(MBS)をより高い債券に入れ替えて利ざや拡大を図る作業を既に開始している。米連邦準備理事会(FRB)の統計によれば、昨年末時点の米銀における国債と政府保証モーゲージ債の総保有額は1.81兆ドルと同年初の1.87兆ドルから3.2%減少し、「その他債券」の保有総額が9159億ドルと年初比5.4%増加している。米銀は明らかに「リスク資産」へと保有債券構造を変化させ始めているように見える。 そこには、バーゼル委員会による「レバレッジ・レシオ」導入を意識した判断もあるだろう。同じ資本を要求されるなら高い利回りの資産を持つべき、という発想である。そして同時に、金融経営者の間に「収益機会の先細り」という焦りが生まれつつあるのは確実だ。 そんな不安を象徴的に示しているのが、預貸率(預金残高に対する貸出残高の割合)の低さである。危機以降、米銀には依然として預金が流入し続けているが、貸出が伸びないのでカネが余っているのだ。その意味では、米銀は邦銀と似たような軌跡をたどっている。 最大手のJPモルガンでは、2004年には88%であった預貸率の水準が2013年には前年の61%からさらに下がって何と57%にまで落ち込んでいる。ただし同行が特殊な状況にある訳ではない。全米レベルで見れば、1990年代半ばから先の金融危機までほぼ95〜105%の範囲で推移していた預貸率は、現在75%程度と約30年ぶりの低水準となっている。 その理由に挙げられるのは、企業の設備投資資金需要の低迷や手元流動性の厚さ、規制強化対応としての銀行の保守的姿勢、利ざや縮小による貸出意欲の後退、そしてFRBへの準備預金増加といった要因である。 その中で、最も影響しているのはFRBへの超過準備だ、という指摘がある。昨年9月末時点での全米銀行における預金量と貸出量の差額は約2.4兆ドルであるが、銀行がFRBに預けている超過準備の総額もまた約2.4兆ドルとなっているからだ。偶然の一致かもしれないが、銀行がリスクフリーで25ベーシスポイントの利息を受け取れる準備預金に、ゼロコストで調達した預金を寝かせていると推測しても、あながち的外れではなさそうだ。 だがFRBが量的緩和の縮小開始と併せて、この超過準備への付利を撤廃するといった見方も出ている。そうなれば、米銀はこの「余った預金」を何とか利息を生む資産に投資せねばならない。通常の景気循環であれば、企業の資金ニーズが高まるのだが、現在は大手企業が空前の現金ポジションを積み上げている状況であり、簡単に融資が増える環境にはない。米銀も、結局は証券化商品投資やLBO(借り入れで資金量を増やした買収)ファイナンスなどを積極化させるしか手が無いのである。 視線を他の資本市場に向けてみよう。現在高値水準にある米国株市場には、幾つか調整局面入りを示唆する数字も出始めているが、問題は株価よりも景気回復と金融緩和の継続という都合の良いシナリオの下で、リスク感覚が麻痺しつつある社債や融資などの「クレジット市場」にありそうだ。 具体例を挙げてみよう。クレジット市場の過熱感を測定するには、ジャンク債の対国債スプレッドやレバレッジド・ローンの対LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)比スプレッド、あるいはコベナンツ(制限条項)の緩い「Cov-Lite Loan」と呼ばれる融資の組成額などを見るのが通例だが、これに加えて、最近では利息を現金ではなく新たな負債で支払うPIK(ペイメント・イン・カインド)と呼ばれる債券発行額が増えていることも注目されている。 この債券は日本ではあまり馴染みがないが、米国ではプライベート・エクイティ・ファンドなどに買収された企業が、現金配当の代わりに発行するケースが少なくない。Dealogicの統計によれば、2007年には全世界で37件、合計178億ドルが発行され、金融危機後の2010年にはわずかに2件、発行額も約3.7億ドルに止まることとなったが、それが昨年には39件と2007年を上回り、発行額も153億ドルと前年の3倍以上に増加して過去最高の水準に迫ってきた、という。 「より愚かな者に依存する市場」に 市場環境の改善を考えれば、今年は昨年の実績を凌駕することになりそうだ。欧州市場でも昨年の発行額が前年の10倍以上に増えるなど、さすがに過熱感も感じられるようになってきた。 現時点では比較的財務状況が安定的な企業に発行が限定されているようだが、市場の常として、こうしたブームはより信用力の低い企業の発行を誘うことになる。PIK債は時間の経過とともに負債が増える構造になっており、財務状況が悪化すれば格下げペースが通常の場合よりも加速する可能性が高い。この特殊な社債も自動車のサブプライムローン証券化商品も大規模な市場ではないが、「悪魔は細部に宿る」とも言われることを考えれば、油断は禁物だろう。 シティグループは、様々な状況分析を通じてこうした米国クレジット市場の資産価値は「すべてが割高だ」との判断を示している。だがなぜそんな状況が継続するのだろうか。同社はその現状を「より愚かな者に依存する市場になっている」と描写している。英語でいう「Greater Fool's Theory」である。 つまり、割高だとは思うが「より愚かな買い手」が自分の買値より高く買ってくれるだろう、との期待感によってその割高な投資が正当化される、という状況だ。過去の日本や米国の不動産バブルも同じ構造であった。 「本源的価値」が見失われ、臨場感だけで相場が形成される、いつものバブルの物語のようにも聞こえるが、過去のバブル・シナリオと異なるのは「いつでもレスキューに出動するFRB」が背後に構えていることである。だから同社も決して「弱気」だとは言わない。何か事が起きれば、量的緩和縮小へと舵を切ったFRBも方針転換してくれるだろう、という甘えの構造はしっかり米国市場に根を下ろしている。 だがそんな「より愚かな者に依存する市場」は、米国だけに限定されたものでもあるまい。シャドーバンキングの破綻が近いと噂される中国市場や、通貨危機の最悪期は過ぎたとの安心感が漂うユーロ圏市場、そしてアベノミクスの余韻に浸る日本市場も、本格的な経済成長への期待というより結局は誰かがより高い価格で買ってくれるだろうという甘い期待に包まれているだけのような気もする。 それが安倍晋三首相や黒田東彦日銀総裁の言う「期待に賭ける政策」の効果ならば、2013年の大成功が2014年も続くと見るのは、やや「危険な賭け」のように思えてくる。 このコラムについて 倉都康行の世界金融時評 日本、そして世界の金融を読み解くコラム。筆者はいわゆる金融商品の先駆けであるデリバティブズの日本導入と、世界での市場作りにいどんだ最初の世代の日本人。2008年7月に出版した『投資銀行バブルの終焉 サブプライム問題のメカニズム』で、サブプライムローン問題を予言した。理屈だけでない、現場を見た筆者ならではの金融時評。 6日のECB理事会はデフレリスク焦点、対応打ち出す可能性も 2014年 02月 3日 14:39 JST [フランクフルト 2日 ロイター] -欧州中央銀行(ECB)が今週6日に開催する政策理事会では、ユーロ圏で意識されつつあるデフレのリスクが焦点になる見通しだ。脆弱な景気回復を支援するため、新たな措置を打ち出す可能性も否定できない。 1月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)速報値は、前年同月比で0.7%の上昇となり、ECBが目標としている「2%弱」を大幅に下回った。一部のアナリストの間では6日は利下げと予想する声もある。 理事会では、新興市場の混乱も議題になると見られる。新興市場の混乱でユーロが上昇すれば、物価に一段の下押し圧力がかかるからだ。 ECBは先月の理事会では、主要政策金利を0.25%に据え置く一方、デフレのリスクや短期金利の上昇が景気回復を脅かす事態を回避するため、利用可能なあらゆる手段を講じる姿勢を強力に打ち出した。 RBSのエコノミスト、リチャード・バーウェル氏は「ECBは下方リスクを認識している。大胆な行動をとるのではないか」と述べた。 同氏は昨年11月の利下げを予想した少数のエコノミストの1人。6日理事会では、リファイナンス金利を0.25%から0.10%に引き下げ、下限金利の中銀預金金利はゼロに据え置く、と予想している。 ドイツ銀行のエコノミスト、マーク・ウォール氏とギレス・モエク氏はリサーチノートで、ここ1カ月に発表された経済統計を踏まえると、ECBが6日理事会で政策を緩和するのは妥当との見方を示した。 両氏は「問題は時期。2月でないなら、3月だろう。3月には、ECBスタッフのインフレ見通しも下方修正される見込み」としている。 <6日は金利据え置き予想が大勢> ECBのドラギ総裁は1月理事会後の記者会見で、新たな政策措置につながる2つのシナリオを示した。ひとつは中期的なインフレ見通し悪化、もうひとつは短期金融市場の「正当化されない」引き締まりだ。 クーレECB専務理事は、1月31日の講演で、政策金利がゼロの場合でも、中銀には行動する能力があると強調。「中期的な物価安定に下方リスクが生じた場合には、名目金利にゼロの下限という制約があったとしても、利用できる金融政策手段はある」との認識を示している。 デフレリスクを撃退するための政策手段としては、政策金利の引き下げ以外にも、長期流動性供給オペ(LTRO)の再開や資産買い入れなどが考えられる。さらに、ECBが国債買い入れによって市場に注入した資金を吸収するために実施している不胎化オペの停止も選択肢だ。 ただ多くのアナリストは、まだ行動の必要はないと考えている。ロイターが先週、76人のエコノミストに実施した調査では、市場金利やユーロの上昇がない限り、金利は変更されないとの予想が優勢だった。 ベレンベルグ銀行のエコノミスト、クリスチャン・シュルツ氏は、6日に「行動がとられるとは考えにくい。信頼感改善と失業率低下は、少なくともECBの予想通りの景気回復を示唆している」と指摘した。 ユーロ圏製造業PMI改定値、1月は11年5月以来の高水準 2014年 02月 3日 19:09 JST [ロンドン/ベルリン/パリ/ローマ/マドリード 3日 ロイター] - マークイットが発表した1月のユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値は54.0で、速報値の53.9から上方修正された。
12月の52.7から上昇し、2011年5月以来の高水準となった。新規受注が好調で雇用も2年ぶりに水準に上昇した。 特にドイツと周辺国が堅調だったが、フランスは足を引っ張った。 構成指数の生産指数は56.7と12月の54.9から上昇、2011年4月以来の高水準となった。 PMIは50が景況の改善・悪化の節目となる。 マークイットの首席エコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏は「ドイツ、フランスそしてユーロ圏の改定値は速報値を上回った。重要なのは周辺国の製造業が一段と改善していることだ」と述べた。 ドイツは2年8カ月ぶり水準に上昇。フランスは1年11カ月ぶりの高水準に上昇したが50は下回った。 新規受注は3年ぶり水準となり新規雇用につなげた。雇用指数は49.9から51.0に上昇(速報値は50.7)、2年ぶりに50を上回った。 英国は56.7と前月の57.2(改定値)から小幅低下、予想の57.0も下回った。しかし長期平均の51.3は大幅に上回っており「調査を行っている過去22年で最も高水準の局面」(マークイット)となっている。新規輸出受注は54.4から57.5に上昇し、2011年2月以来の高水準となった。北米、欧州、アジア、ブラジル、中東からの需要が改善したという。 焦点:豪中銀、豪ドル安に伴うインフレ表面化でスタンス変更も 2014年 02月 3日 16:59 JST [シドニー 3日 ロイター] -オーストラリアでは経済成長の減速にもかかわらず、高額の教育費と医療費がインフレ圧力を高めている。
空前の資源ブームが衰えを見せるなか、政策金利を過去最低水準に据え置きたいオーストラリア準備銀行(中央銀行、RBA)にとって、根強いインフレは最も望ましくないものだ。 豪中銀は4日の金融政策決定会合で政策金利を据え置く公算が大きいが、その際に追加利下げへの道を閉ざさざるを得ない可能性がある。中銀はさらに、輸入品の値上がりが国内のインフレを加速させるリスクを考慮し、豪ドル相場の下落が望ましいとの姿勢をトーンダウンする必要に迫られる可能性がある。 バークレイズ(シドニー)のエコノミスト、キーラン・デービス氏は「短期的なインフレ率上昇と為替リスクは、豪中銀が弱い緩和バイアスを維持することを困難にし、中銀は中立(バイアス)にシフトする可能性が高い」と指摘。「中銀は今年いっぱいは政策金利を据え置き、またそれまでに経済が上向くことを前提として、2015年第1・四半期に利上げを開始するとわれわれは予想している」と述べた。 豪中銀は昨年8月に政策金利を過去最低の2.5%に引き下げて以来、金利を据え置いているが、インフレ率が低いことを前提に、必要な場合には追加利下げの余地があると表明してきた。 このため、基調インフレ率に相当する中銀のトリム平均値消費者物価指数(CPI)の昨年第4・四半期の上昇率が約2年ぶり高水準となったことは、中銀にとって不意打ちだった。先月発表された昨年第4・四半期トリム平均値CPIは前期比0.9%上昇。前年比では2.6%上昇となり、中銀の長期目標である2─3%の範囲内には収まったものの、今年の半ばに2.5%に達するとの中銀の想定よりもはるかに速くインフレが進んでいることが示された。 昨年第3・四半期と第4・四半期の数字を合計し年率換算したインフレ率はすでに3%を超える。中銀が今週7日に公表する四半期金融政策報告でインフレ見通しの引き上げを迫られることはほぼ確実とみられる。 <潜在成長率が低下した可能性> 問題の大半は国内要因に由来する。賃金の伸びが低迷し、単位労働コストが下落しているにもかかわらず、サービス業の多くでインフレが非常に「根強い」とされている。昨年までは豪ドル高が輸入品価格を引き下げ、国内のインフレ状況は実態よりも良く見えていたが、豪ドルの下落を受けて問題が表面化した。 問題の原因には、教育費の上昇など消費動向の長期的な変化が含まれる。たとえば、こどもを私立学校に13年間通わせる場合の学費は優に25万豪ドル(21万8000米ドル)かかるが、裕福になりつつある教育熱心な中間層ではそうすることが一般的となりつつある。オーストラリアの学生の少なくとも3分の1が私立学校に通っている。 もう1つの構造的な物価圧力は医療費で、これは高齢化と高度医療のコスト上昇に関連している。特に歯科治療はかなり高額なため、半額の費用で済むタイやマレーシアに治療に出向く医療ツーリズムが盛んだ。 この結果、教育費の年間上昇率は2008年以降5%以上で推移し、現在5.6%。医療費の年間上昇率は4.4%に近い。 コモンウェルス銀行(CBA)のチーフエコノミスト、マイケル・ブライス氏はこれらの要因について「CPIの構成項目の中で、景気サイクルや豪中銀の動向に反応しない項目に影響している」と指摘する。 一方、国内インフレの長期化は、過度のインフレ圧力を生むことなく経済がどれだけ早く成長できるかを表す「経済成長率の制限速度」の低下を示唆している可能性がある。 これまで、成長率の制限速度は3.5%程度と考えられてきたが、生産性の低迷とインフラへの投資不足が数年続いたことで引き下げられた可能性がある。 HSBC(シドニー)の豪経済担当チーフエコノミスト、ポール・ブロクスハム氏は、経済成長率の制限速度は現時点で2.6─2.8%に低下した可能性があると指摘。「潜在成長率の低下は、インフレ加速につながりかねない需要の増大に豪経済が適応できる余地が狭まっていることを意味する」と述べた。 同氏はまた、潜在成長率の低下は、自然失業率が従来よりも上昇している可能性も示唆しているとの見方を示し、「豪中銀が需要の下支えに動ける余地はこれまでよりも小さい可能性がある」と指摘した。 (Wayne Cole記者 翻訳:高橋恵梨子 編集:山川薫) ユーロが対ドルで10週ぶり安値付近、ECB追加緩和観測で 2月3日(ブルームバーグ):午前の東京外国為替市場では、ユーロが対ドルで約10週間ぶり安値付近で推移している。域内のインフレ鈍化を受け、欧州中央銀行(ECB)による追加緩和観測が浮上していることがユーロの重しとなっている。 一方、円は早朝に対ユーロで約2カ月ぶり高値を付けた後、反落し、対ドルでも1ドル=101円台後半から102円台前半へ値を切り下げている。新興国通貨不安がくすぶる半面、今週は米国で雇用統計など主要な経済指標の発表があり、量的緩和縮小ペースを占う上で鍵となる米景気動向を見極めたいとの雰囲気が強い。 午前10時15分現在のユーロ・ドル相場は1ユーロ=1.3485ドル前後。一時1.3480ドルを付けるなど、前週末に付けた昨年11月22日以来のユーロ安・ドル高水準(1.3479ドル)付近での取引が続いている。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは、ECB会合について「われわれのメーンシナリオは、今回は利下げは見送る」としながらも、米国が順調に金融緩和からの出口戦略を進める一方で、ユーロ圏で「ディスインフレが続けば、場合によっては追加金融緩和の可能性もある」と指摘。ユーロ・ドルは「戻り売りだと思う」と語る。 ユーロ・円相場は早朝に一時1ユーロ=137円42銭を付け、前週末に付けた昨年12月5日以来の円高値を更新。その後は円売りが強まり、同時刻現在は137円90銭前後となっている。ドル・円相場も早朝に101円90銭を付けた後、102円台を回復し、足元では102円27銭前後で取引されている。 植野氏は、新興国不安については「個別の国の問題として見ればそう簡単にほぐれるものではないが、世界経済全体を腰折れさせるような伝染病に発展するかというとたぶん、そこまでは行かない」と予想する。その上で、「日銀に関しては現行ペースで物価目標を達成するまで金融緩和を続けていく方針は変わらないし、日本の貿易赤字も意外なほど減らない状況になっているので、中長期的な流れは円安・ドル高で変わらない」と指摘。ドル・円の「基本戦略は押し目買い」だとしている。 追加緩和観測 欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)が先週末発表した1月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)は前年同月比0.7%上昇と、昨年12月の同0.8%上昇から伸びが鈍化し、エコノミスト調査の中央値(同0.9%上昇)を下回った。 ECBのドラギ総裁は昨年11月、インフレ率が0.7%に低下したことを受け、政策金利を過去最低の0.25%に引き下げた。このため、市場ではECBが6日の政策決定会合で追加緩和に動くとの観測が浮上している。 ECBのクーレ理事は31日の講演で、「名目金利がゼロの下限による制約を受けても、中期的な物価安定に下振れリスクが生じた場合は、利用できる金融政策手段がある」と述べた。 米経済指標 ブルームバーグがまとめたエコノミスト調査によると、3日発表の1月の米供給管理協会(ISM)製造業景況指数は56と昨年12月の56.5から低下するとみられている。 上田ハーロー外貨保証金事業部の山内俊哉氏は、先週末発表されたシカゴ製造業景況指数などを見る限り、ISM指数については「それほど心配する結果にはならなさそう」だとし、ドル・円が101円を割り込んで円高が進むことはないと予想。もっとも、新興国不安がくすぶる中、目先はクロス円(ドル以外の通貨の対円相場)で円が強含みで推移する可能性が高く、「ドル・円の戻りは鈍い状態」が続くとみている。 国際通貨基金(IMF)は31日、一部の途上国は「ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)を改善する」措置を講じる必要があるとの見解を示した。先週末はチリ・ペソとハンガリー・フォリントが対ドルで1%以上下落したほか、ポーランド・ズロチが1%近く値下がりした。新興国不安から31日の米国債相場 は上昇、米国株 は反落した。 中国国家統計局と中国物流購買連合会が2日発表した中国の1月の非製造業購買部担当者指数(PMI)は53.4と先月の54.6から低下した。これに先立ち1日に発表された1月の製造業PMIは50.5と半年ぶり低水準となった。 更新日時: 2014/02/03 10:16 JST
債券は上昇、米債高・株安や日銀買いオペ受け−先物は2カ月ぶり高値 2月3日(ブルームバーグ):債券相場は上昇。前週末の米国債相場が上昇したことや国内株安を受けて買いが優勢となっている。日本銀行が長期国債買い入れオペを実施したことも支えとなり、先物は2カ月ぶり高値を付けた。 東京先物市場で中心限月の3月物は前週末比10銭高の144円84銭で取引を開始。その後、国内株安が加速すると水準を切り上げ、一時は144円90銭と中心限月の日中取引ベースで昨年12月4日以来の高値を付けた。午前終値は14銭高の144円88銭だった。 現物債市場で長期金利 の指標となる新発10年物国債の332回債利回りは同0.5ベーシスポイント(bp)低い0.615%で開始した。午前10時すぎには0.61%と1月27日、30日に付けた今年の最低水準に並んだ。20年物の147回債利回りは1.5bp低い1.44%と、新発20年債としては昨年10月24日以来の低水準。30年物の41回債利回りは2.5bp低い1.61%。 JPモルガン証券の山下悠也債券ストラテジストは、海外市場の株安や債券高を受けて、朝方は先物市場を中心に買いがやや優勢だと指摘。「10年債利回りは0.6%台前半で推移して、7日の米雇用統計発表を待つ展開だ」と話した。 前週末1月31日の米国債相場は上昇。米10年国債利回り は前日比5bp低下の2.64%程度と、昨年11月8日以来の低水準を付けた。一方、同日の米株相場は下落。きょう3日の東京株式相場は大幅続落。TOPIX は一時、前週末比1.8%下落した。 日銀はきょう午前の金融調節で長期国債買い入れオペを実施した。残存期間「1年以下」と「10年超」で、買い入れ総額は3100億円程度。 財務省はあす4日に10年利付国債(2月発行)の価格競争入札を実施する。発行額は前回債と同額の2兆4000億円程度。表面利率(クーポン)は前回債と同じ0.6%が見込まれている。 更新日時: 2014/02/03 11:16 JST
コラム:新興国不安は「世界的退潮」の前触れ 2014年 02月 3日 11:14 JST [ロンドン 31日 ロイターBreakingviews] - By Ian Campbell
新興国の政策立案者たちは今、嘆きの声を上げている。それは無理のないことだが、魔法のような金融政策の国際協調は期待できない。米国の緩和縮小は世界的なバブルを抑えるために不可欠だ。新興国市場は最初の犠牲者であり、最後というわけではない。 新興国からの不満の声は大きい。インド準備銀行(中央銀行)のラジャン総裁は「国際的な金融協調が崩壊した」と批判。ブラジル中央銀行のトンビニ総裁は、先進国での金利上昇について、新興国経済を混乱に巻き込む「掃除機」と例えた。 これは、ブラジルが「通貨戦争」を警告した2010年からは完全な逆転だ。当時は米緩和マネーが海外に流れ込み、新興国通貨が上昇した。今、マネーは米国に還流しつつある。ブラジル、インド、トルコなどの主要新興国は、資金流出や通貨安、インフレ高進を抑制するため利上げの必要に迫られている。 しかし、嘆き悲しんでも役に立たない。バブルは膨らめば膨らむほど、危険も大きくなる。米連邦準備理事会(FRB)は、金融政策の引き締めは、すでに手遅れの感がある。米量的緩和は多くの資産価格を不健全な水準まで押し上げた。一方、債券や商品などは既に価格が下落しつつある。 「バブル状態に見える国が非常に多い」。世界の不動産価格についてこう語るのは、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー氏だ。 さらに、ブラジルやインド、トルコなどの多くの新興国経済は、失策や不十分な改革で自らの弱点を深刻化させている。資金流出はそうした問題を露呈させているのだ。自国通貨安や先進国経済の加速は輸出の支援材料とはなるだろうが、新興国経済の再生には、数カ月ではなく数年を要するだろう。 中国の経済成長が続くなら、新興国の混乱は世界経済の成長に大きな影響を与えるほど深刻ではない。とはいえ、この問題は先進国市場にとって警鐘を鳴らすものだ。米国や欧州の経済は改善しつつあるが、2013年に緩和マネーで急上昇した株式市場は1月に大きく調整した。今年、世界の株式がさらなる下落を回避するのは難しいだろう。米量的緩和が終わりを迎える2014年を嘆き悲しむのは、新興国市場だけではないだろう。
コラム:アベノミクスに必要な「シュレーダー改革」=丸山俊氏 2014年 02月 3日 17:40 JST 丸山俊 BNPパリバ証券 日本株チーフストラテジスト(2014年2月3日)
積極財政や異次元金融緩和で長引く景気低迷・物価下落にひとまずピリオドを打った日本経済だが、今後は個人消費や住宅投資、民間企業の投資・イノベーションによって自律的な景気回復に移行していくことが求められていく。安倍政権の2年目は文字通り「正念場」である。 インフレ(期待)によって消費・投資を活発化するという黒田日銀総裁流のトランスミッション・メカニズムも良いが、中長期的な(実質)成長期待から家計や企業が積極的に消費や投資を行うようになった方が、自律的で持続的な景気回復をもたらすことは明らかである。そもそも大規模な量的緩和(QE)によって株価が史上最高値を更新した米国ですら、企業は内部留保の使い途としていまだに投資よりも自社株買いを選んでいる。 アベノミクスだからといって、グローバルに活動している輸出企業が今回だけ特別に投資を行うだろうか。内需企業が近い将来に消費税率が10%に引き上げられるかもしれないのに、財政支出や株高に伴う目先の消費活況を当てにして今回だけ特別に投資を行うだろうか。残念ながら家計や企業は、政治家が思っているほど、近視眼的ではない。 それよりも個人や企業の行動をがんじがらめにしてきた規制を緩和・撤廃したり、日本経済が活力を失う要因になっている雇用制度や社会保障制度の改革などによって、中長期的な成長期待を高めていくことが安倍政権に求められている。 その意味で、東西ドイツ統一後の景気低迷により「欧州の病人(Sick Man of Europe)」と揶揄され瀕死の状態だったドイツを、構造改革によって蘇らせる礎(いしずえ)を築いたシュレーダー元首相から学べることは多いのではないだろうか。以下では、近年、再評価の気運が高まっているシュレーダー改革の要諦と日本への教訓を示したい。 <世界一高いと言われたドイツの労働コスト> シュレーダー氏の下、ドイツ社会民主党(SPD)が連邦議会選挙を経てコール保守政権から16年ぶりに政権を奪回したのは今から15年ほど前の1998年秋のことである。英労働党のブレア首相(当時)の「第3の道」に対応する「新たな中道」をスローガンとして左派のイデオロギーに囚われない現実路線を唱え、支持基盤の労組だけでなく中間層も取り込んだことが勝因となった。 ドイツ経済は当時、東西ドイツ統合に伴う財政負担や社会保障負担の増大、硬直的な労働市場がもたらす労働コストの上昇とそれに伴う競争力の低下によって低成長と10%を超える失業率に喘いでいた。そこで、シュレーダー政権が実行した政策が、戦後労働市場政策の基本姿勢に大幅な変更を迫る労働市場・社会保障改革だった。 フォルクスワーゲン(VW)(VOWG_p.DE)の労務担当役員だったハルツ氏を委員長とするハルツ委員会報告書で提言された労働市場の柔軟化(人材派遣の活用、低賃金労働の拡大、解雇制限緩和)、失業給付と社会扶助の一本化、失業手当・失業扶助の期間短縮といった施策は、ドイツの労働政策が失業対策から雇用創出へ大きく舵を切る転換点となった。具体的には、雇用主が期限付きの臨時雇用契約を結びやすくしたり、経営上の理由による解雇の場合に補償金解決制度を導入したり、あるいは中小の雇用主に解雇制限法の適用除外を認めるなどして労働市場の柔軟性を高めた。 また、失業給付はそれまで32カ月間にわたって失業前給与の67%、その後も57%まで無期限で支払われていたが、ハルツ改革により55歳未満は12カ月、55歳以上は18カ月に給付期間が短縮された。 さらに、それまでは再就職すると失業給付や社会扶助は大幅に削減されるため、再就職するインセンティブはあまりなかったが、ハルツ改革により失業給付期間を超える長期失業者には以前の給与と失業給付の関連は断ち切られ、資産調査の上、低い額の定額支給に切り替わるようになった。加えて、失業給付の請求者はいかなる適切な求人も受けることが義務付けられ、拒否すると失業給付がさらに減額された。こうした労働市場改革によって、世界一高いと言われたドイツの労働コストは抑制され、産業の国内回帰や他の欧州連合(EU)諸国などに対する競争力回復に寄与した。 <持ち合い解消でコーポレート・ガバナンス改善> 労働市場改革と並んで税制改革も進められ、所得税率の最高税率は51%から05年には42%へ、地方税などを合わせた法人実効税率も52%から39%に引き下げられ、当時、国際比較で日米仏を下回る水準となった。この過程で法人税については、内部留保(40%)と配当利益(30%)への異なる課税率が一本化されて25%となった。一連の社会保障負担軽減や法人税減税は、企業負担の軽減を通してドイツ企業の国際競争力を強化すると同時に財政赤字の削減を図る「一石二鳥」の狙いがあったと言えるだろう。 もっとも、こうしたマクロ経済政策が効果を発揮する条件として、供給サイド、つまりミクロの企業制度改革が必要不可欠である。特にアングロサクソン型資本主義に対してライン型資本主義を標ぼうしてきたドイツは、日本と同様に間接金融が中心で、株主だけでなく従業員、取引先、顧客などステークホルダー全体を重視し、終身雇用・年功序列を採用するといった特徴を有していた。 伝統的にドイツ銀行(DBKGn.DE)やアリアンツ(ALVG.DE)といった巨大金融機関が大企業の大株主であることが多く、株主としてより債権者として君臨する金融機関の影響力が大きいこともあり、コーポレート・ガバナンスの欠如が資本の収益性を損なっていた。そこで、シュレーダー政権は02年から企業が持ち株を売却した場合の利益を非課税とした。それまで法人(金融機関)はキャピタルゲインに課せられる法人実効税率が50%台と高かったため、やむを得なく保有していたこともあったが、これにより金融機関による持ち合い解消が進んだ。塩漬けになっていた非効率な保有株式の売却により、株主であった金融機関の資本効率が向上するだけでなく、企業側も物言わぬ株主として株式持ち合いに甘えてはいられなくなるため、コーポレート・ガバナンスを改善せざるを得なくなる。 持ち合いを通じた資本関係が崩れる中で産業再編が進み、外国人株主が増加して株式市場も活性化するなど、ドイツ型経営・ライン型資本主義そのものが劇的に変化した。ドイツポストDHL(DPWGn.DE)、ドイツテレコム(DTEGn.DE)、シーメンス(SIEGn.DE)、フォルクスワーゲン、ダイムラー(DAIGn.DE)、メトロ(MEOG.DE)(小売り企業)など我々にも馴染みある主要上場企業で構成されるDAX30はグローバルで活躍する企業が多い。日本でも金融機関による株式持ち合い解消は不良債権処理や自己資本増強などに迫られる過程で8合目まで進ちょくしつつあるが、労働市場改革や社会保障改革などの遅れによって日本型経営が変わったとの声はあまり聞かれない。 その意味で安倍政権が取り組む公的年金基金の運用見直しが、大株主として存在する年金基金の投資行動を通じて、コーポレート・ガバナンス改善に寄与する余地は大きいだろう。今後は、運用見直しの対象になっている各基金が2月の財政検証結果、そして15年10月の厚生年金一元化に備えて厚生労働省で行われている「積立金基本方針に関する検討会」の3月最終報告を受けて、新しい運用計画を発表する見込みである。安倍政権は6月に発表する成長戦略第2弾に公的年金基金改革の具体化を盛り込む方向性であり、その内容が注目される。 <構造改革は株高の即効薬ではないが特効薬> ところで、ドイツ経済の成長率は92年から05年までほぼ一貫して先進国経済(G7)を下回り、特に労働市場改革が断行されたシュレーダー政権2期目の02年から05年はG7に対して成長率が大きく落ち込んだ。しかし、06年からは改革が功を奏したこともあり、G7を大きく上回る成長率を実現している。 これらの単純な観察結果は、構造改革が短期の成長にはマイナスの影響を与えるものの、中長期の成長にはプラスの影響を与えることを示唆している。80年代の英国や90年代のドイツの歴史は、サッチャー首相やシュレーダー首相といった強い政治のリーダーシップが痛みを伴う構造改革を断行したことで、低迷から脱け出せないと思われていても経済が復活することはあるということを、我々に教えてくれる。 成熟した資本主義国が陥りやすい先進国病、すなわち出生率低下による高齢化、社会保障費の増大、産業の空洞化による失業率上昇などの問題に対しては、労働市場の柔軟化、社会保障制度改革、国内の規制緩和を断行することが強い経済を取り戻す唯一無二の秘訣なのかもしれない。 シュレーダー氏も最初から改革者だったわけではない。1期目はどちらかと言えば労働者寄りの姿勢が強かったが、それが明確に変わったきっかけは2期目に入って労働市場改革を中心とする社会保障制度改革を抜本的に行うという構造改革方針(アジェンダ2010)を発表したことである。 ドイツ連邦議会ではもともと構造改革を主張していた保守政党・キリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟(CDU/CSU)の協力で法案はスムーズに可決していった。しかし、失業率が20%台と高かった旧東ドイツ地域で抗議デモが盛んに行われ、SPDでは左派の伝統的理念が失われたと考えるグループの離反を招き、地方(州議会)選挙で同党は議席を失った。皮肉なことに、ドイツ国民の支持はより大胆な構造改革を主張していた保守のCDUに向かい、05年の連邦議会選挙でシュレーダー陣営はCDU(党首はメルケル現首相)に僅差で比較第一党の地位を奪われ、ドイツ経済が改革の恩恵を享受し始めるのを首相として見ることなく退陣を余儀なくされた。 翻って現在の日本経済の基礎体力に鑑みれば、これ以上の株高は高望みであることを、多くの人は薄々と気付いていよう。それよりも、子や孫の将来のために、現役世代にとっては痛みを伴う構造改革を進めてでも、将来の経済的繁栄を取り戻したい――。そう思い始めている人が多いと信じたい。そして、実は構造改革こそさらなる株高をもたらす「即効薬」ではないが「特効薬」であることを歴史は示している。 *丸山俊氏は、BNPパリバ証券の日本株チーフストラテジスト。早稲田大学政治経済学部卒業後、三和総合研究所に入社し、クレディ・スイス証券を経て2011年より現職。
[12削除理由]:長文はコメではなく新スレを |