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2014年 01月 31日 12:41 JST
斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表(2014年1月31日)
2012年11月14日の衆院解散予告を機にデフレ脱却への期待を膨らませた市場は蓄積してきたエネルギーを爆発させたが、それから1年余りを経て、アベノミクスに対する評価が様々になされている。
たとえば、内閣官房参与の浜田宏一イエール大学名誉教授が昨年11月に示した採点は、金融緩和はAプラス、財政政策はB、成長戦略はE評価の「ABE」である。一方、市場参加者の評価は、80%の日本株高と30%の円安(対ドル)などに沸いたことを考えると、将来の企業収益の改善や成長戦略の実現まで先取りし、金融政策を中心に「ABE」を大幅に超える過大点を与えた観は拭えない。
それではアベノミクス2年目は、引き続き円安・株高の支援材料として市場の「期待」に応えることができるだろうか。消費増税が行われる中で「飽きっぽい市場」の関心を引き留めるには、金融政策では追加緩和実施がA評価維持の必要条件となるだろう。
そして、浜田氏の採点でE評価にとどまった第三の矢(成長戦略)は、これまでは時間を要するとして十分に吟味されてこなかったが、今後その進ちょくが厳しく問われるのは必至だ。もちろん、F評価、つまり落第点になることなど許されるはずもないが、アベノミクスの新鮮度が落ちた分だけ採点は厳しく、そして市場へのインパクトは小さくなるだろう。
<アベノミクス効果の実態>
内閣府が発表した12月月例経済報告は、過去4年2カ月使い続けてきた「デフレ」の表現を削除した。消費者物価指数(変動が大きい食料・エネルギーを除く)が9月に前年比横ばい、10月には0.3%上昇と08年10月以来5年ぶりにプラスに転換したことなどを受けて、物価は底堅く推移していると判断された。輸入物価上昇による「悪いインフレ」の動きだと指摘する向きはあるものの、とりあえず一定目標に到達したと言えよう。
では、日本経済はデフレ体質を改善できたのか。そもそもデフレの原因については、日銀の金融政策の失敗、中国からの労働力を含む安いモノの流入、円高、そして生産年齢人口の減少による消費減退など様々に指摘されてきたが、複合的な要因というのが最も正解に近いのではないだろうか。
名目国内総生産(GDP)が470―480兆円程度で横ばいに推移する中で、需要と潜在的な供給力の差を示す需給ギャップ(GDPギャップ)は、内閣府の発表によれば、13年7―9月期でマイナス1.6%(名目年率8兆円程度の需要不足)と、09年1―3月期のマイナス8.1%(同40兆円程度)から大幅に改善しているが、需要不足による物価下落の圧力が依然根強いことを物語っている。このような需給ギャップは主に国債増発による公共事業により対処されてきたことから、国債と借入金などを合計した国の債務残高は90年代後半の400兆円台から膨れ上がり、14年3月末には1100兆円を超える見込みだ。
一方、内閣府の「国民生活に関する世論調査」(13年6月調査)によると、現在の生活に満足している人は前年の67.3%から71.0%へ上昇し、95年以来の70%越えとなった。また、14年の春季労使交渉が始まり、経団連は6年ぶりにベースアップを容認する見込みだ。これらの点はアベノミクス効果が国民生活へ浸透しつつある現れと高く評価する向きがある。
しかし、国税庁が実施している「民間給与実態統計調査」(12年分)によれば1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は408万円と、97年の467万円以来の減少傾向に大きな変化は見られない。さらに、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、11月の実質賃金指数は前年比マイナス1.4%と5カ月連続で低下している。消費者物価の上昇に対して、実質賃金そして家計は一段と圧迫されていることを示している。
このような家計における収入面悪化の背景には、国内市場の縮小に加えて、企業が生産拠点を海外へと移転したことがあるだろう。92年10月には1603万人もいた製造業の就業者数は12年12月には998万人に減り、51年ぶりに1000万人を割り込んだ。産業構造の変化を受け、製造業の雇用が、非正規労働の比率が相対的に高く賃金水準の低い非製造業にシフトした結果、賃金の下押し圧力は高まった。
もちろん、円安の効果は一部輸出産業の利益増大に、そして株高は高額商品の販売増加などに表れているが、その波及範囲は限定的である。したがって、給与が低迷する環境において、年間推定280兆円に及ぶ個人消費の心理は冷え込んだままだ。
それでなくとも、生産年齢人口(15―64歳)は95年の8716万人から13年には8000万人台を割り込み、そして25年には7064万人への漸減が見込まれている。稼ぎそして消費する現役世代が減少し、将来の不安から資産を退蔵する高齢者も増えている。消費の縮小傾向は定着する可能性が高く、今やデフレは日本経済の体質として根付いていると言えよう。このことは、日本にとって第一の矢(金融政策)や第二の矢(財政政策)よりも第三の矢(成長戦略)がいかに重要であるかを物語っている。
<ドル円相場の主役は米国に>
2年目を迎えたアベノミクスは当面、4月に迫った消費税増税というハードルのクリア、さらには15年10月に予定される10%への引き上げ判断が注目されることとなる。これまで述べてきたように、アベノミクス効果が一部企業および階層にとどまることや実質賃金が低下している状況を見れば、政府・日銀が描く成長シナリオが筋書き通りに実現されるかは疑問と言わざるを得ない。
もともと市場は「噂で買い、事実で売る」性格を有している。たとえアベノミクスがそれなりの成果を出したとしても、これまでのように世界の金融市場に対する牽引力が減少する可能性は否めない。円相場も他律的要因で動く可能性が高くなってくる。
その主な要因は米国の政治・経済の動向となるだろう。昨年9月以降、シリアへの軍事介入中止などにより市場はリスクオンの状態となり、新興国から先進国の株式市場へのマネー流入が活発化してきた。最高値圏で推移する米株式市場が覆い隠しているものの、米国はオバマ政権の求心力が低下する中で、地政学的問題や財政問題の再燃リスクを抱えている。
急上昇した米国そして日本の株式市場が大きな調整局面に遭遇することには注意が要だ。そして、そのとき、アベノミクスに救世主の役回りを求めることは難しいだろう。
*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。
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