05. 2014年1月30日 09:56:42
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危機後の世界を待ち受ける試練2014年01月30日(Thu) Financial Times (2014年1月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 世界経済についての大方の見方は以前より楽観的になっている。それにはもっともな理由がある。高所得国の景気がようやく離陸しそうに見えるのだ。米国と英国は特にそうだ。ただ、その行く手には大きな試練が待ち構えている。特にユーロ圏についてはそう言える。 新興国にしてみれば、高所得国の経済成長率が高まることは利益だけでなくコストももたらす。もし、非現実的な幸福感が安定を脅かす要因の1つに数えられるのであれば、2014年にはあまり楽しい気分になれないだろう。 先日ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会のムードを決めたのは国際通貨基金(IMF)だった。IMFは昨年10月の世界経済見通し(WEO)を改訂し、2014年の世界成長率予想を3.7%に上方修正した。引き上げ幅はわずか0.1ポイントだったが、英国の成長率予想の引き上げ幅は0.6ポイントに上った。日本とスペインのそれは0.4ポイントで、ドイツと米国のそれは0.2ポイントだった。 まだ鈍い高所得国の成長、ユーロ圏には特に大きなリスク もっとも、高所得国の経済成長率予想の水準はまだまだ低い。米国は2.8%で、英国は2.4%、日本は1.7%で、ユーロ圏は1%にとどまっているのだ。もしこの予想が正しければ、これらの国々では、金融危機前の成長トレンドと実際の国内総生産(GDP)との開きを縮小できないことになる。 ユーロ圏では現在、実際のGDPが危機前のトレンドをざっと13%下回っており、米国でも15%、英国では18%も下回っている。高所得国は極めて異例な金融緩和政策を講じてきたにもかかわらず、破壊的な不況からの回復は今のところ小幅なものにとどまっている。気が滅入る話だが、これが本当のところなのだ。 このIMFの予想を上回る成長が成し遂げられる可能性はあるのだろうか? 答えはイエスだ。最も有望なのは米国だろう。エネルギーコストは低くなっており、緊縮財政のペースも緩められた。金融セクターの状態は良好で、少なくとも以前に比べればそうだと言える。家計の債務負担はピーク時よりも大幅に軽くなっており、住宅価格は上昇している。 ハーバード大学のカーメン・ラインハート氏とケネス・ロゴフ氏の研究では、大規模な金融危機からの回復には7年を要すると示唆されている。もしその通りなら、米国の経済成長は加速する頃合いなのかもしれない。 ユーロ圏の成長率予想は芳しいものではない。仮に2014年に1%成長するとしても、これは2012年の0.7%、2013年の0.4%という2年連続のマイナス成長に続くものになるからだ。また、スペインとイタリアの今年の成長率はわずか0.6%と見込まれている。 景況感が力強く盛り返せば、ユーロ圏は予想以上の景気回復を成し遂げるかもしれないが、残念なことに、この地域は明らかな下振れリスクにも直面している。まず、期待インフレ率が非常に低い水準に低下する、あるいは明らかなデフレに陥るリスクがある。多額の債務を抱えた国で物価が下落すれば、債務の負担は増大し、さらなる債務危機が発生する可能性も高くなる。 また、これから実施される欧州の銀行の資産査定で大幅な自己資本不足が明るみに出るというリスクもある。仮に、この不足が債権者にも負担を求める「ベイルイン」によって埋められることになったら、銀行の資金調達にさらに支障が生じることもあり得る。経済が比較的脆弱な国では特にそうだ。 新興国全体の2014年の経済成長率は、引き続き5.1%と予想されている。2013年の4.7%より高まるとの見立てだ。これを牽引するのは、例によってアジアの途上国とサハラ以南のアフリカだと見られている。中国の2014年の成長率は7.5%と予想されている。 一口に新興国や途上国と言っても、その中身は実に多種多様だ。しかし、世界規模の大きな変化はこれらの国々すべてに影響を及ぼす。たとえその内容が異なるとしても、だ。 昨年の初夏に、米国が金融緩和の段階的縮小に近々踏み切ると示唆した時には、「テーパリング癇癪」が引き起こされた。米連邦準備理事会(FRB)による資産買い入れの段階的縮小が現在進行中である今、我々が目にしているのはこの癇癪の再来だ。 このような市場の変動は、金融危機という災難の前兆ではない。確かにアルゼンチンの状況は悪いが、真剣に驚いている向きはほとんどいない。大幅な経常赤字と多額の対外債務を抱えた国は、やはり脆弱なのだ。 債務が膨れ上がった企業も一部にはある。しかし、危機というものはその国固有の弱点に関係しているはずだ。問題がパンデミックに発展する公算は小さい。 新興国を苦しめる外部環境の変化 とはいえ、たとえ危機を伴わなかったとしても、より困難な外部環境と国内の弱さの組み合わせは多くの経済国で成長率を低下させる可能性がある。IMFの朱民副専務理事は最近のブログ投稿で、新興国経済にとっての4つの悪い変化をリストアップしている。世界的な金融環境のタイト化、中国の成長率の低下、コモディティー(商品)価格の下落、そして国際貿易の弱さだ。 筆者なら、ここにユーロ圏の調整を付け加える。この調整は経常収支の黒字方向への大幅な振れを通じて生じており、ユーロ圏以外の国々の反対方向の振れと対になっている。こうした変化とその結果起きる資本の純流入は、新興国経済を資本流入の「急停止」に対して脆くする。 朱氏は、過去50年間、新興国の1人当たり所得の伸びは平均して高所得国より速かったわけではないとも指摘した。むしろ、新興国の1人当たり所得の伸びは確かに1960年代、1970年代には高所得国より速かったが、1980年代、1990年代にはそれが事実ではなくなり、2000年代に再び本当になったという。 気が滅入ることに、中南米の1人当たりの平均実質所得は現在、1960年代前半より少なく、その歴史は50年間の収斂失敗の物語となっている。比較的弱いパフォーマンスが長引く時期がこれから再開しかねないと恐れる向きもある。収斂を維持するのは難しいのだ。 恐らく、最大の疑問は中国に何が起きるかということだ。2008年以降、中国の成長は急増する信用にますます依存するようになった。これは持続可能ではあり得ないし、過去のペースの4分の3程度で成長している経済国でGDPの半分を投資することも意味をなさない。 中国政府は1つの選択を迫られるかもしれない。抜本的な改革を実施し、ゆえに今、計画よりも大きな減速を受け入れるか、改革を先送りし、後にずっと大きな成長への障害に見舞われるか、どちらかだ。 回復を育み、改革を促すために では、何をすべきなのか? 回復を育み、改革を促す、というのがその答えだ。米国では、これは債務上限の引き上げを巡る議論での愚行を避けることを意味する。ユーロ圏では、需要を拡大し、インフレ率を最低でも2%の目標まで引き上げるための断固たる行動を意味する。 日本では、これはユーロ圏と同じことを意味するが、日本の中央銀行は自ら合意した目標を達成する決意が固いように見える。新興国では、さらなる抜本改革を意味する。中国、ブラジル、インドでは特にそうだ。そして何より、これは中国と日本の紛争のような地政学的惨事を避けることを意味する。協力とコミュニケーションが重要事項であるべきだ。 危機の時代から脱却するチャンスは確かに以前より大きいように見える。そのチャンスはつかむべきである。 By Martin Wolf http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20140129_130057.html 資産インフレ傾向は今後も続く!?(田口美一) 金融政策を見通す上で見ておくべき統計は「当座預金残高」 今後の金融政策を見通す上で見ておくべき統計は、当座預金残高の数字です。日銀は銀行が保有している債券をどんどん買い進めています。基本的に、銀行のバランスシートは負債である預金に対してどんな資産を持っているかというと、半分が国債、半分が貸し出しです。その国債の部分を日銀がどんどん買ってしまっているのです。その銀行の持つ国債が減った分が、グラフにある日銀の預金に変わっています。銀行は莫大な国債を日銀に売り、それにより得たお金を預金として置いているだけなのです。 ただし、これには0.1%の金利が付いています。それをECBは0%にしてしまっていて、それをさらにマイナスにしようという議論が進んでいます。中央銀行に預けておけばペナルティを取るという政策をドラギ総裁は検討しているわけなのです。日本の金利はすでに低く、0.1%でもあまり変わらないので、銀行はあわてて使うことはないのです。
しかし、このお金はずっと置いておくわけにはいかないので、何かに使わなくてはなりません。黒田総裁も、ポートフォリオリバランス効果とか、リスクプレミアムの調整などという難しい言葉を使っていますが、簡単に言えば、これが今後使われるお金になるということを言っているのです。その場合の選択肢は、もう一度国債を買い直すか、株式や外債を買うか、国内貸出を増やす、海外貸出を増やす、または海外投資を積極化する、これだけしかないのです。これが起きるかどうかを見ていきましょうということなのです。 今すでに起きていることもあります。地方銀行は5月、6月、金利が上がった時に国債を買っていました。しかしメガバンクはまだ売っています。株式、外債についてはBISの規制がきつく、それほどポジションを取ることはできません。国内貸出は増やしたいものの、企業は投資するものがなく資金を返したいと言うほどです。残りは二つ、海外への貸出増加と投資積極化です。そこで、東京三菱銀行が約5000億円でタイのアユタヤ銀行を買いました。損保ジャパングループもヨーロッパの保険会社を1000億円で買っています。 結局、欧米やアジア向けなど、海外への貸出しか手段がないのです。国内の銀行では、土地開発にからんだ不動産融資か、シルバー向けの介護施設関連の二つしか貸出先がないそうです。バブルの時もそうでしたが、日本の銀行は非常に慎重で、大口の融資を思い切って進めることはなかなかしません。オリンピックを前に不動産会社に直接融資という動きも時間がかかってしまう性質を持っています。やはり頼みの綱は海外貸出や海外投資で、円高の時にもっとやっておけばよかったのですが、今後もここがまだまだ伸びると思います。 こうした海外への資金の動きが、為替の面ではさらに円安に繋がります。為替市場では現在、日々天文学的な大きさの数字が動きますが、中でも売ったら買い戻すヘッジファンドより、資金が出て行ったきりになる投資の動きは為替相場にも大きな影響を与えるので、海外投資が円安要因となるのです。 世界の中央銀行、首相らが最も気にしている数字、失業率 失業率は世界の中央銀行、首相らが最も気にしている数字です。各国の状況を見ると、フランスやスペインは悪化していますが、ドイツ、イギリス、日本、アメリカなどは全て改善してきています。しかし、実際にどこまでよくなってきているかは不透明です。つまり、労働参加率、失業した人のうち、就業を諦めた人がどのくらいいるのかが分からないというところが、この数字のミソです。そう考えると、アメリカについては7%という水準ですが、もっと下げなければならないという可能性も出てきます。 景気が回復しつつある中、中央銀行も楽観的になり政策を引き締めに戻すという話が出てきていますが、アメリカは失業率の目標を6.5%から5.5%に変更するのではと思っています。イエレン次期FRB総裁の示すデータなどを見ても、まだまだ緩和を転換できるような状況ではありません。一方、ECBについてはマイナス金利や、3回目のLTRO、つまり銀行が中央銀行からの借り入れで自国の国債を購入するという資金供給を行うと見ています。
今後はフォワードガイダンスがさらに使われることになるでしょう。ゼロ金利、量的緩和などで期待に変化が与えられなければ、先々まで簡単には金融緩和を止めないというガイダンスを示すという方法です。黒田総裁も市場とのコミュニケーションを重視した発言をしています。その内容からも、日銀は相当な決意でこれからも緩和を続けると見ています。 今後も続く!? 資産インフレ傾向 今後も、いわゆる資産インフレ傾向は確実に続くと思います。それしか今の経済状況を改善させる方法がないからです。今回も財政政策として公共工事などいろいろ施策があるとは言え、結局借金が増えるだけに過ぎません。今、欧米の先進国が考えているのは、期待に働きかけて資産をある程度膨らませることにより、懐状態が温まり、個人消費が増えるという経路であり、それ以外の方法は難しいと言えます。結局、緩和継続、株高継続、不動産価格の上昇などが予想されます。(しかし緩和縮小は続いている) こうしたアベノミクスによって引き起こされたバブル現象はまだまだ序盤戦と言えます。現在起きている現象は、富裕層の拡大、東京都市圏の一極集中、少子高齢化による相続対策の動き、台湾、中国、オーストラリアなど、世界のバブルの日本上陸、東京オリンピックなどが上げられます。 さらに富の偏在、つまり二極化現象と賃金デフレが平行して起こる中、バブル現象が続き、その資産効果を通して国内消費が活発になっていくというパターンが見られています。私も仕事で日本全国を回る中、年末に札幌で知人から景気の状況を聞く機会がありましたが、札幌はとてもよい状況だと話していました。なぜなら公共工事が盛んな上に、観光業も好調、小売り売り上げも伸びているとのことでした。私が宿泊したホテルも満室で、1時間待たないと朝食が取れないほどだったことからも、明らかに札幌の景気が良いことが伺えました。ただ全部の業種に広がるかというと難しいとは思いますが、これだけ構造変化が起こっている中、地方でここまで明らかに回復がみられるというのはこれまでなかったことで、今後大変なインパクトになるだろうと思います。 講師紹介 ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座 講師 金融経済アナリスト 前クレディ・スイス証券副会長 田口 美一 1月19日に撮影したコンテンツの一部をご紹介します。 詳しくはこちら その他の記事を読む 2014年 外国人投資家15兆円の買越(福永博之) |