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筆者は、日銀の史上空前の量的緩和に疑問を呈する(撮影:尾形 文繁)
1ドル120円超なら、日本経済はもたない 「円安国益論」の幻想
http://toyokeizai.net/articles/-/28920
2014年01月24日 中原 圭介 :エコノミスト 東洋経済
リーマンショック後の先進国では、経済状況があまり芳しくないなかで、各国の中央銀行は金融緩和によって自国通貨を割安に誘導し、輸出を拡大しようとしてきました。この点を考慮すると、日本銀行だけが金融緩和を渋るようなことがあれば、日本の企業は過度な円高に苦しまなければならなくなってしまいます。それを避けるためにも、日銀が各国の中央銀行との金融緩和競争にある程度付き合わざるをえないのは、仕方がないでしょう。
■国民に大事なのは、実質賃金が上がるかどうか
しかし、だからといって日銀が史上空前の大規模な量的緩和を行うことが、はたして正しいことだったといえるのでしょうか。少なくとも2013年のタイミングでは大規模な量的緩和をやってはいけなかったと私は考えています。量的緩和をやりすぎてしまうと、たとえ物価を上昇させることができたとしても、国民の所得はまったく上がらず、むしろ国民の生活はいままで以上に苦しくなってしまうからです。これは、歴史が証明しています。
国民にとって大事なのは、名目賃金が上がったかどうかではありません。物価変動の影響を加味した、実質賃金が上がるかどうかなのです。現実はどうでしょうか。厚生労働省の毎月勤労統計によると、名目の賃金指数を消費者物価指数で割って算出する実質賃金指数は、2013年11月分(速報値)で5カ月連続低下しています。名目賃金も低下傾向から抜け出せていないのに、これでは国民の生活は辛くなるばかりです。
円相場に目をやると、2014年の1月上旬は103円〜105円で推移していますが、これは2012年の円相場の平均値79円より、30%超も円安が進んでいる状況です。当然、大幅な円安は輸入インフレをもたらしています。
■結局は消費が落ち込み、企業収益も悪化へ
2013年11月の消費者物価指数は前年同月比で1.2%上昇し、6カ月連続のプラスとなりました。6月は0.4%、7月は0.7%、8月0.8%、9月0.7%、10月0.9%、11月1.2%と、プラス幅が徐々に拡大してきていますが、これは輸入物価のあまりの上昇に耐えられなくなった企業による価格転嫁が、少しずつ進んでいる証左です。
日銀の物価指数年報によると、2013年4月の輸入物価指数(2010年平均=100)は123.8となり、2012年平均の107.3と比べて16.5%も上昇しています。特にに上昇しているのが、石油・石炭・天然ガスの155.8と食料品・飼料の129.5で、これらの指数は2012年平均と比べるとそれぞれ23.0%、17.7%の上昇となっています。
心配なのは、エネルギー価格と食料品価格の上昇が著しく、アメリカ型のインフレになる兆候が出てきていることです。物価指数年報が示す2013年4月は円相場の平均値が97円前後であるのに対して、2014年の1月上旬は104円前後で動いているので、実際の輸入物価指数はもっと上がっているでしょう。
これまでの動向を踏まえて、日銀が目標に掲げる2.0%のインフレを達成するためには、円安がどのくらいまで進めばよいのかを計算すると、120円が1年間も定着するようなことがあれば、達成できる可能性が高まると私はみています。
企業のなかには、忍耐強く価格転嫁を控えているか、できるだけ価格転嫁を抑えてきているところが多いのですが、こうした企業は消費者にとってありがたい存在です。しかしさすがに120円まで円安が進むようなことがあれば、企業の多くが輸入インフレに降参し、ある程度の価格転嫁を行なわざるをえないのではないでしょうか。
所得が上がらないなかでの2%のインフレは、国民の過剰な買い控えを引き起こし、消費を大幅に落ち込ませることになります。その結果、企業の業績は悪化し、所得が引き下げられる悪循環に嵌り込むでしょう。
だから私は、いまの日本にとっては1ドル=120円が限界なのではないかと考えていますし、日銀はあまりにも無謀な量的緩和をやってはいけないと確信しています。極端な金融政策の修正や円相場の変動は、輸入インフレによる景気悪化を招くばかりでなく、財政危機や銀行危機へと拡大する恐れがあり、マイナス面のほうがはるかに大きいのです。
■円安は、国益ではない
インフレになるということは、長期金利が上がるということです。仮にインフレ率2%を達成するならば、長期金利も2%を超えてくるでしょう。2013年度の国の一般会計予算では、総額92.6兆円程度のうち約10兆円が国債の利払いにあてられました。長期金利が2%を超えても、国家財政をこれまでと同じように回していくことができるのでしょうか。否、消費税増税分はすべて利払い増に食われ、財政は厳しい状況に追い込まれるでしょう。
いまだに「円安国益論」を唱える経済学者には、首をかしげざるをえません。経済学者の多くは円安がもたらす「Jカーブ効果」という理論を支持しています。「Jカーブ効果」とは、円安により輸入価格が上昇し、一時的に貿易赤字が拡大するとしても、円安による輸出価格低下で輸出数量が徐々に増加し、最終的に貿易収支も改善するという理論のことをいいます。この理論は、経営や企業活動の現場を無視しています。
日本企業の経営者は多くの場合、円相場が大きく変動しても価格を引き下げたりなどしません。円高が進んだときも価格を引き上げずに耐えたのですから、円安のときだけ価格を引き下げるというのは考えにくい話でしょう。だから、「Jカーブ効果」で想定される円安による輸出価格の低下という理論自体が、少なくとも日本企業には当てはまらなくなってしまっているのです。
前回の記事でも述べてきたように、経済学者も、政治家も、マスコミも、これでもさらなる円安を望むというのでしょうか。私の新刊『インフレどころか世界はこれからデフレで蘇る』(PHP研究所)では、アベノミクスを支える学者たちが反論や反証できないくらい、インフレ推進策が如何に日本経済にとって有害であるかを立証しています。興味のある方は、ぜひご覧いただければ幸いです。
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