06. 2014年1月23日 17:50:29
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http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702303572904579333662450287246.html?dsk=y 2014年 1月 21日 13:45 JST 【寄稿】世界の貧困に関する3つの誤解―ビル&メリンダ・ゲイツ夫妻 By BILL AND MELINDA GATES ほぼどんな基準に照らしても、世界の人々の暮らしぶりはかつてないほど良くなっている。過去25年間で極度の貧困は半減し、乳幼児死亡率は大きく低下。長く外国の援助に依存してきた多くの国々は今や自立している。 それでも、状況が悪化していると考えている人はかなり多いようだ。その理由の大部分は、あまりにも多くの人々が世界の貧困と発展に関する3つの誤った通念にとらわれているからである。そうしたものにだまされてはいけない。 誤った通念その1:貧しい国々はそうあり続ける運命にある 実際にはそんなことはない。所得や全般的な福祉の水準は、アフリカを含むほぼすべての地域で向上している。 ビル・ゲイツ氏とメリンダ夫人が見た発展途上国の現状 スライドショー を見る [SB10001424052702303802904579331482168783124] たとえばメキシコシティーについて考えてみよう。1987年に私たちが最初にそこを訪れたとき、大半の世帯には水道が引かれておらず、水瓶を持った人々が徒歩で水を汲みに行くのをよく見かけた。それはアフリカの田舎のような光景だった。マイクロソフトのメキシコシティー支社の責任者は、健康診断のために自分の子供たちをよく米国に帰国させた。スモッグによる健康被害がないか確かめるためだった。 今日のメキシコシティーはショッキングなほど当時と異なっている。高層ビルがそびえ、空気は澄み、新しい道路や現代的な橋が建設されている。貧困もまだ一部に残っているが、「すごい、ほとんどの人々が中流層になっている。なんという奇跡だろうか」と思ってしまう。同じような変貌ぶりはナイロビ、ニューデリー、上海をはじめとする世界中の多くの都市でも見られる。 私たちが生まれてからのわずかな期間で、世界の貧困地図は完全に塗り変えられた。トルコやチリの1人当たり所得は、1960年の米国と同じ水準に達した。マレーシアやガボンもそれに近づいている。1960年以来、中国の1人当たり実質所得は8倍に拡大している。インドは4倍、ブラジルは5倍近く、そして鉱物資源をうまく管理した小国ボツワナは30倍にもなった。50年前にはほとんど存在していなかった新たな中所得諸国には、世界の人口の半分以上が暮らしている。 関連記事 貧困から抜け出せぬ南アの黒人や若者―マンデラ後は改革が停滞 米国民の3人に1人が貧困を経験=国勢局の調査 アメリカンドリームは消えたのか?―貧乏世帯からの立身出世は困難 しかも、これはアフリカにも当てはまる。アフリカの1人当たり所得は、1998年以降、3分の2ほど増加している。当時は1300ドル強だった所得が、現在では2200ドル近くになっている。過去5年間の経済成長率では、上位10カ国のうち7カ国がアフリカ諸国である。 私たちは次のように予測している。2035年には、世界に貧困国はほとんど残っていないだろう。確かに、戦争、政治情勢(北朝鮮など)、地理的条件(中央アフリカ地域の内陸諸国など)によって開発が進まない不幸な国もいくつかあるだろう。それでも、南米、アジア、中米(ハイチは除くべきかもしれない)のすべての国々、アフリカの沿岸諸国のほぼすべてが中所得国になるだろう。70%以上の国々の1人当たり所得は、今日の中国を上回るはずだ。 誤った通念その2:対外援助は大きな無駄である 実際は素晴らしい投資である。海外からの援助は人々の命を救うばかりか、長期にわたって継続する経済発展の下地も作る。 多くの人々は富裕国の予算に占める対外援助の割合を大きいと考えている。世論調査会社が米国民に予算のどれぐらいが援助に割かれているかと質問すると、「25%」が最も一般的な回答だという。ところが、実際には1%にも満たない(世界で最も気前の良い国、ノルウェーでさえ3%未満である)。米国政府は海外への医療支援予算の倍額以上を農業助成金に費やしている。防衛費にはその60倍以上を注ぎ込んでいる。 対外援助に関するよくある不満の1つに、その一部が汚職のせいで無駄になるという議論がある。もちろんそうだろう。ところが、われわれがよく耳にするひどい話――援助は独裁者が新しい宮殿を建てる資金の足しになるだけ――のほとんどは、人々の生活を改善するための援助ではなく、冷戦時代に同盟関係を築くために行われた援助に関するものだ。 今日、そうした問題はかなり小さくなっている。政府高官が出張費を水増し請求するといった小規模な腐敗は援助に課される非効率な税金なのだ。それを減らす努力はすべきだが、それを完全になくすことはできない。すべての政府プログラム、さらに言えばすべての企業から無駄をなくせないのと同じである。仮に1人の命を救うのに、小規模な腐敗の税金が2%かかるとしよう。われわれはその税金を撤廃しようとすべきだが、撤廃できないからといって救命活動をあきらめるべきだろうか。 1ドルでも腐敗が見つかると、多くの人々が援助プログラムの停止を声高に求めてきた。だが、それは理にかなっていない。過去7人のイリノイ州知事のうち4人が汚職で有罪になったが、イリノイ州の学校や幹線道路の閉鎖を要求する人などいないではないか。 対外援助を受ける国々は外国の好意に依存し続けてしまうという不満を口にする人々もいる。しかしこれは、今も自立できずに苦しんでいる最も困難な国々のみに当てはまる主張だ。ブラジル、メキシコ、チリ、コスタリカ、ペルー、タイ、モーリシャス、ボツワナ、モロッコ、シンガポール、マレーシアなどはかつて巨額の援助を受けていたが、その後に急成長を遂げ、今ではほとんど援助を必要としていない。 対外援助は長期的な成長と強い相関関係がある医療、農業、インフラの改善も促進する。1960年に生まれた赤ん坊が5歳の誕生日までに死ぬ確率は18%だった。今日ではその確率が5%未満になっている。2035年には1.6%になるだろう。対外援助が無駄だというのはとんでもない話である。 誤った通念その3:命を救うことは人口過剰につながる 人々は少なくともトーマス・マルサスが『人口論』を著した1798年から、食糧供給が人口増加に追いつかなくなるという世界滅亡のシナリオを心配してきた。こうした考え方は世界に多大な迷惑をもたらした。世界の人口規模に関する心配には、それを構成する人間に対する心配よりもはるかに大きなものになるという危険な傾向がある。 あとで飢えることがないように、子供たちを今死なしてしまえという考え方は冷酷なだけではない。ありがたいことに、そううまくはいかない。 これは直観に反することかもしれないが、世界で最も多くの人が死ぬ国は、人口が最も急速に増加する国の1つでもある。そうした国の女性たちは最も多くの子供を生む傾向があるからだ。 より多くの子供が生き残れば、両親は多くの子供を産もうとはしない。タイはその好例である。同国の乳幼児死亡率が低下し始めたのは1960年ごろだった。政府が家族計画政策を強力に推進した後の1970年前後、出生率が低下し始めた。その後わずか20年の間に、タイ女性の1人当たりの出産率は6人から2人に低下した。今日、タイの乳幼児死亡率は米国のそれに近い低さで、タイ女性1人当たりの出産率は1.6人となっている。死亡率の低下に続いて出生率の低下が起こるというこのパターンは、世界の大多数の国にも当てはまる。 命を救うことは人口過剰につながらない。むしろその逆である。持続可能な世界を実現するには、人々が基本的な健康、それなりの豊かさ、基本的平等、避妊具へのアクセスを享受する社会を作り上げるしかない。 より多くの人々、特に政治リーダーらがこうした誤った通念の背後にある思い違いについて認識する必要がある。この問題を個人として見ても、政府として見ても、国際的に健康や開発を促進させるための貢献が驚くべきリターンをもたらすのは事実である。極度の貧困が普通ではなく例外である世界を作るチャンスはわれわれ全員が手にしている。 (本稿は近く発表されるビル&メリンダ・ゲイツ財団の年次レターから抜粋した。ビル・ゲイツ氏はマイクロソフトの会長)
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