03. 2014年1月22日 18:35:13
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http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51885131.html 円安で景気は悪くなる日経ヴェリタスの「円安でも伸びぬ輸出 常識覆した日本企業の変化」という記事に驚いた。その内容にではなく、まだそういう「常識」があったことにである。甘利経済再生相は「貿易立国がゆらいでいる」というが、ゆらいでいるどころか、日本はとっくに貿易立国ではないのだ。 上の図のように、日本は3年前から所得収支の黒字が貿易収支の赤字を埋める構造になっているが、昨年末からいよいよそれが埋められなくなった。その最大の原因は原発を止めて毎日100億円ドブに捨てているからだが、もっと構造的な問題は2012年までの円高局面で製造業が海外移転を進めたことだ。
電機製品は、すでに輸入超過である。液晶テレビの90%以上は輸入品だから、このように生産がグローバル化すると、円安でコストが上がり、1ドル=80円台で採算の取れるはずだった電機製品が採算割れになる。おまけに円資産が大きく減価したので、新たな海外投資がむずかしくなる。 毎日新聞の山田孝男編集委員は「経済学の教科書に従えば、貿易赤字はそれ自体が損や負けであることを意味しない」という。これは正しいが、その理由がお笑いだ。「貿易赤字の裏側には、それに見合う物品の獲得がある」からだというが、どんな債務にも(複式簿記で書けば)資産が対応している。だからいくら借金してもいいということにはならない。 問題は貿易収支ではなく、所得収支も含めた経常収支である。この赤字がネットの対外債務で、これもそれ自体がいい悪いということはないが、内需の不足を外需(輸出)で埋めていた日本経済にとっては悪いニュースだ。 あとはJBpressの記事を読んでもらおう。日経や毎日の記者がこんな認識だから、頭の悪い株式トレーダーは円安=株高と思い込んで、これまで日本株を買ってきたのだろう。あいにくユニクロや任天堂をみてもわかるように、1ドル=100円以上の円安は業績悪化要因なのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39693 JBpress>日本再生>日本経済の幻想と真実 [日本経済の幻想と真実] 日本は長期停滞のトップランナー 需要不足への対応は世界史的なチャレンジだ 2014年01月16日(Thu) 池田 信夫 日本が世界に自動車や家電製品を集中豪雨のように輸出して、恐れられた時代を覚えている人がいるだろうか。そのころ欧米諸国が日本からの輸入を制限したり「自主規制」を要求したり、「構造協議」で日本の輸入拡大を要求したりしたものだ。懐かしい時代だ。もうずいぶん遠い昔のように思える。 1月14日に発表された貿易統計(速報)では、日本の貿易赤字は1兆2543億円で、17カ月連続の赤字だ。経常収支も5928億円の赤字で、過去最大になった。まだ元気なのは自動車だけで、電機製品はすでに輸入超過である。 「貿易立国」を卒業した日本で需要不足が深刻化する 貿易赤字そのものは悪ではない。輸出するのは、その代金で輸入して消費するためだから、帳尻が常に合っている必要はない。しかし貿易赤字の3割以上は原発の停止による化石燃料の輸入増で、これは日本の富が中東に流出するだけだ。 さらに注目されるのは、所得収支(海外の投資収益)が9002億円と、下の図のように2兆円を超えた昨年のピーク時から大きく減少していることだ。この1つの原因は、急速なドル高で海外からのドル建ての配当や金利収入が増える「Jカーブ効果」が修正されたこともあるが、所得収支の黒字で貿易赤字を埋められなくなったことを意味する。 経常収支の推移 (出所:財務省) 拡大画像表示 昨年までの円高の中で製造業は海外シフトを強めたので、貿易赤字が所得収支の黒字で埋まるなら大きな問題ではない。しかし経常収支が赤字になる(貿易赤字を所得収支の黒字でカバーできない)ということは、対外債務が増えることを意味する。
経常黒字は、マクロ経済的には国内貯蓄に対応する。政府債務はすでに1000兆円を超えているが、これをファイナンスする国内貯蓄=経常収支が赤字になると、巨額の財政赤字がいつまで維持できるかは分からない。 さらに深刻な問題は、今まで慢性的に需要不足に悩んできた日本で、それを補う外需(輸出)が減ることだ。日本は戦後ずっと国内市場の不足を輸出で補って成長を続けてきた。このような「貿易立国」は発展途上国の経済システムで、いつまでも続けることはできない。 それを卒業したのはいいのだが、サービス業などの国内産業の効率が悪く、外需の不足を内需で補うことができないため、低成長や低金利が続いている。デフレはその結果であり、金融政策で結果をいじっても原因を直すことはできない。 需要不足が長期停滞をもたらす これは幸か不幸か、日本だけの問題ではない。ローレンス・サマーズ(ハーバード大学教授)は、昨年11月のIMF(国際通貨基金)年次総会で、世界経済は長期停滞に入ったのかもしれないと論じて話題を呼んだ。 日本が「失われた20年」に入ったのは、金融政策や不良債権処理の失敗だと思われていたが、今アメリカが直面している状況は15年前の日本と似ている。金利はゼロで実質金利(名目金利−物価上昇率)はマイナスになっているのに、投資は増えない。 日本の人口増加率は1990年代には0.3%程度だったが、アメリカの人口増加率も今後は年率0.2%程度になる。成熟した経済では、成長率は労働人口の増加率に比例するので、人口が飽和すると成長が減速することは避けられない。 こういう傾向は世界的に見られ、ヨーロッパでも金融危機のあとずっと成長率はマイナスで、実質金利もマイナスだ。これはユーロ危機の影響もあるが、一時的な現象ではないかもしれない。 このような長期停滞論は、経済学の歴史とともに古い。マルサスは食料生産が人口増加に追いつかないと考え、リカードは「収穫逓減」で成長が止まると予想した。マルクスは「利潤率の傾向的低下」で資本主義は行き詰まると主張し、ケインズもリスクを嫌う投資家の「流動性選好」で長期停滞が起こると考えていた。 しかしシュンペーターだけが「イノベーションで生産性を高めれば成長は維持できる」と考えた。結果的には彼の予想どおり戦後の世界経済は成長を続けたが、今は限界に近づいている。その原因は生産性ではない、とサマーズは言う。イノベーションで供給の効率は高まるが、需要不足はカバーできないのだ。 労働人口は正確に言うと生産年齢人口(15〜65歳)だが、これは労働生産性が高いだけでなく、消費意欲も旺盛な現役世代だ。高齢化で現役世代が減ると、生産だけでなく需要が減る。日本の生産年齢人口は毎年1%近いスピードで減っており、これを生産性の向上だけでカバーするのは難しい。 資本主義の限界か、グローバル化の不足か このような需要不足は、史上空前というわけではない。1610年代にイタリアの商業の中心だったジェノヴァでは1%台の長期金利が続き、それを最後にジェノヴァは衰退した。今の世界的な低金利は、資本主義が限界に達したことを示すのかもしれない。 世界的に見ると、需要不足は先進国だけでなく、新興国にも見られる。普通は成長初期には(日本の1950年代のように)貿易赤字になるものだが、中国は国内消費が不足し、大きな貿易黒字になっている。 人口減少はこれからアジアで、もっと急速に起こる。中国の生産年齢人口は、すでに減り始めた。日本の高齢化に「移民の受け入れでカバーできる」と言う人がいるが、中国は海外に移民するどころではなくなるだろう。 ただジョン・テイラー(スタンフォード大学教授)がサマーズを批判したように、世界全体で貯蓄が余り続けることは考えられない。資金が全体的に過剰なら金利が低下して調整されるはずだが、今でも途上国の金利は高い。他方、アメリカはいまだに大きな経常赤字(過剰消費)を抱えているが、マイナス金利だ。 問題はこうしたマクロ的不均衡が国際資本移動で調整できないことで、これは資本主義の限界というより、資本主義が十分グローバル化していないためかもしれない。 需要不足の対策として、サマーズは政府によるインフラ投資などの需要創出を提案するが、テイラーはこれに反対し、裁量的な財政・金融政策をやめて資本主義のグローバル化を促進すべきだと言う。 もう1つの対策は、需要不足の原因となる所得分配の不平等を減らすことだ。アメリカでは上位1%の超富裕層がGDP(国内総生産)の4分の1を得ているが、日本では60歳以上の生涯所得が20代より1億円も多く、個人金融資産の60%を60歳以上が保有している。これを是正すれば、貧困層の消費が増えるだろう。 いずれにせよ、高齢化する日本経済が長期停滞に入ることは避けられない。これにどう対応するかは、大きなチャレンジである。これを改革で乗り越えるのか、それとも400年前のジェノヴァのように衰退するのか――日本は世界に先駆けて壮大な実験をしているのだ。
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