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クロマグロ、完全養殖成功の衝撃〜広がる関連ビジネス、低価格化や和食の世界進出に貢献も
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140122-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 1月22日(水)3時47分配信
サシの入り方が美しいことでも知られるクロマグロ。口に含むととろけるような脂の甘みが特徴であり、超希少種としても知られ、大トロの寿司ともなると2貫で最低でも2000円以上はする最高級魚だ。
そんなクロマグロの完全養殖を成功させたのが、近畿大学水産研究所のひとつ、和歌山県串本にある大島実験場だ。近畿大学の名前を取り「近大マグロ」と呼ばれる完全養殖クロマグロは、ほぼすべての魚の完全養殖が成功している中、果たせぬ夢として世界中の研究者が狙っていた“最後の大物”だった。誰もが不可能に近いと思われていたクロマグロの完全養殖化への道のりは困難を極め、近畿大学は成功させるまでに実に32年もの年月を要した。
近畿大学水産研究所が「完全養殖」の研究を開始したのは1970年。海で泳ぐ天然マグロの稚魚や幼魚を捕獲し、養殖する「蓄養マグロ」に対し、「完全養殖」とは、最初から人工孵化で育てた親魚が産んだ卵を孵化させたものを指す。完全養殖は、希少なマグロの天然資源を保護し、産卵コントロール技術により不安定供給問題を解消し、生産効率を上げる画期的手法だ。
近畿大学が研究に着手するきっかけとなったのが、水産庁が複数研究機関による3カ年のマグロ養殖プロジェクトを開始したことだ。
クロマグロの天然稚魚や幼魚はイケスへの活け込み後の生存率が極端に低く、手でつかんだだけでも死んでしまうほどに皮膚が弱い。非常に繊細で、船のエンジン音や水の濁りですらパニックを起こし、イケスの網に衝突しては死んでいく稚魚も後を絶たない。完全養殖の研究は、実際相当な問題が山積していたという。その結果、プロジェクト終了後、他研究機関はいずれも養殖技術開発から撤退。研究続行を決めたのは近畿大学のみとなった。
近畿大学はもともと生物の適応性に関する実験を得意としており、さまざまな魚の完全養殖産業化を成功させ、現在の養殖手法のベースとなった技術と経験を有していた。あらゆる問題点を根気よくクリアし、待望の完全養殖によるクロマグロの孵化に成功。この快挙は、文科省認定の世界最高水準研究教育拠点づくりを推進する「グローバルCOEプログラム」に選定された。
そもそもなぜ水産庁がプロジェクトを打ち出したかというと、世界一のマグロ消費国である日本がマグロを乱獲し、天然資源を減少させたことに端を発する。10年、カタールのドーハで開催されたワシントン条約締約国会議で、大西洋、地中海産クロマグロの国際商業取引を原則的に禁止するモナコ提案が協議されるに至ったほど、世界的にマグロの資源減少は問題視されている。
このため、クロマグロの完全養殖は、マグロの天然資源を保護し、産卵コントロール技術により不安定供給問題を解消、生産効率を上げる画期的手法として世界中から注目を集めている。
●産業化への試みも
近畿大学が評価されている理由の一つに、完全養殖化の産業化にも真剣に取り組んでいることが挙げられる。他の魚と同様、完全養殖化だけでは意味がないのだ。
現在、国内のクロマグロ出荷量のうち、4分の1以上を近大マグロで賄っている。今日に至るまでにさまざまな効率化および供給安定化に取り組んできた近大マグロは、今後も改善を施す余地があるとはいえ、現段階においても安定して数万匹の供給を可能としていることから、産業化の水準を満たしているといわれている。実際に近畿大学は近大マグロについて各業界の大手企業ともビジネスベースでの連携を進めている。
例えば豊田通商は、近畿大学からクロマグロの完全養殖に関する技術協力を得て、稚魚の養殖事業を展開。完全養殖クロマグロの年間出荷量を16年までに7万5000尾まで増やすとしている。こうした動きが今後広まれば、安定的に供給されることで価格面においても期待が持たれている。
また、近大マグロを実際に味わえるお店も登場している。昨年12月、完全養殖クロマグロの専門料理店「近畿大学水産研究所」が東京・銀座にオープンした。先にオープンしていたグランフロント大阪内の店舗に続く2店舗目であり、東京初進出店となる。例えばランチメニューの「近大マグロとわかしらすの紀州丼」(小鉢・味噌汁付き)は一人前1600円と、クロマグロ料理としては比較的安価に本格的な味を楽しめるため、ランチタイムには連日行列ができ、夜は1カ月以上先まで予約で埋まっているほどの人気を呼んでいる。
専門店での展開の狙いは、さらなる産業化だ。「安全で美味しい」を売りとする完全養殖クロマグロを一躍ビジネスベースに乗せるべく、その味を知ってもらうために専門店を通じて一般に広くアピールすることを目的としている。店舗が評価を得ることは、完全養殖クロマグロが市場に認められることに等しく、企業との協働も進めやすくなる。
世界的にも和食人気が高まる中、ゆくゆくは世界展開を視野に入れることも可能だ。日本初の新たなブランドとなるべく、日夜研究が続けられている近畿大学の完全養殖クロマグロ。日本の食文化を担う今後の展開に、引き続き大きな期待が寄せられている。
田中佐江子/株式会社デファクトコミュニケーションズ
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