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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140116-00010007-bjournal-bus_all
Business Journal 1月16日(木)20時17分配信
「危機的な状況であることをいま一度認識し、新年を再生に向けた実行の年にしよう」
昨年、列車事故やレール検査データ改ざんなどの不祥事が相次いだJR北海道の野島誠社長は1月6日、年頭の挨拶で、社員に一層の奮起を促した。その直後の10日、野島氏は体調を崩して入院したが、昨年10月にも持病が悪化して10日間入院している。同社は1月16日に予定されていた今年最初の社長定例記者会見で、昨年11月に発覚したレール検査データ改ざんに関する社内調査結果を発表する予定だったが、野島氏の入院を理由に20日以降に延期した。毎月1回開かれている定例会見を社長の入院を理由に延期するのは、極めて異例だ。
JR北海道は「函館保線管理室で改ざんが行われている」との情報を得て、昨年10月から社内調査を開始。12月2日から新たな特別チームをつくり、800人の全保線担当職員に聞き取り調査を行ったが、大沼保線管理室などの3人が、9月19日に函館線大沼駅で起きた貨物列車脱線事故の直後に、現場周辺のレールのデータを改ざんしていたことを認めた。「より重大で、他の事例とは違う」(野島氏)行為である。
さらに、保線業務を行う子会社、北海道軌道施設工業の幹部が発注先から利益供与を受けていた疑惑も浮上。同社は保線業務を請け負うグループ会社の1社であり、保線業務をグループ外の企業に下請けさせる際に裏金の提供を受けていたという疑いだ。
●元社長の自殺
このように相次ぐ不祥事で揺れる中、1月15日午前8時20分ごろ、JR北海道元社長で現相談役の坂本真一氏が、北海道余市町の余市港内で遺体で発見された。11年9月、当時の中島尚俊社長が入水自殺しており、経営トップ経験者の自殺は2人目になる。
昨年11月、坂本氏ら旧経営陣が取締役会に出席していたことについて、「社長が思うように発言できない。旧経営陣に振り回されている」とJR北海道は国会で厳しい指摘を受けた。亡くなった坂本氏は「同じ技術畑の野島社長を後押しして社長に就けた」(JR北海道役員OB)といわれており、現在でもJR北海道の実力者だった。
同OBは亡くなった坂本氏について、次のように語る。
「坂本相談役には2つの夢があった。ひとつは吉永小百合主演の映画を北海道で撮ることで、これは05年の『北の零年』(東映)に出資して実現した。もうひとつは北海道新幹線の誘致だった」
坂本氏は16年に開通する「新青森-新函館」間の北海道新幹線の推進役であり、35年をめどに新函館から札幌まで新幹線を延伸する計画もある。一連の不祥事について坂本氏は「私の責任でもあるが、北海道新幹線の開業だけは守らなければならない」と全国紙の取材に答えていたが、「最近、周囲に『死にたい』と漏らしていた」という情報も聞こえてくる。JR北海道の社員は「言葉もない。これから北海道新幹線を引っ張っていく人なのに」と言葉少なに語る。
●異例の業務改善命令、刑事告発へ
JR北海道に対して無期限の特別保安監査を行っている国土交通省は、社内調査の結果を踏まえ、JR会社法と鉄道事業法に基づく業務改善命令を出す。
JR会社法は1987年の国鉄民営化に伴い、JRグループ7社を国が監督する法律として制定された。2001年の同法改正で、完全民営化されたJR東日本、東海、西日本は対象から外れた。経営環境が厳しいJR北海道、四国、九州、貨物の4社は今も国が事業計画や代表取締役選任などについて許認可権を持ち、監督上必要な命令を出すことができる。同法による業務改善命令が出るとすると、JRの発足以来初めてのことになる。
また、鉄道事業法に基づく業務改善命令は、原因究明の徹底、安全確保の体制づくりや安全意識の徹底などを命じるもの。半年間に2度の正面衝突事故を起こした京福電鉄が、01年に初めて命令を受けた。
国交省はJR北海道のレール検査データ改ざんに関与した社員数人を、鉄道事業法違反(検査妨害)容疑で刑事告発する。刑事告発は保線部署の社員が昨年9月の貨物列車脱線事故直後に、現場のレール検査データに手を加え、異常値を少なく見せようとした行為などが対象となる。
脱線の原因究明を進めている運輸安全委員会も、事故調査の妨害を禁じた同委設置法違反に当たるとして国交省と同時期に北海道警に刑事告発する。道警は刑事事件として捜査に乗り出す方針で、検査データ事件で逮捕者が出ることになる。
JR会社法に基づき代表取締役の選任権を持つ国交省は、数々の不祥事を防げなかった経営責任は重いと判断し、野島氏と小池明夫会長を更迭する方針だ。今回、自殺した坂本氏、前会長の柿沼博彦特別顧問も退任させる意向だった。外部から経営トップを起用して、新体制で4月の新年度から再生のスタートを切りたい考えだった。しかし、坂本氏の自殺で、人事の刷新が先延ばしになる懸念が強まっている。国交省には「今の状況で社長が替わっても、混乱を助長するだけ」との見方が出ている。
16年3月末に、新青森-新函館間の北海道新幹線の開業を控えている。「新幹線をJR北海道で運営できるのか」との危機感から国交省が前面に出て、抜本的な経営改革に取り組むことになったわけだ。
●経営混乱の宿痾、労働組合問題
「脱線火災事故を反省し、全力をあげて企業風土の改善などに取り組んでいる時に、真っ先に戦線を離脱することをお詫びします。お客さまの安全を最優先にすることを常に考える社員になっていただきたいと思います」
11年9月に、北海道・小樽市沖で行方不明だったJR北海道社長の中島尚俊氏(当時)の遺体が発見されたが、その後公開された社員に宛てた遺書には、こう綴られていた。
11年5月に石勝線で特急列車がトンネル内で脱線・炎上し、乗客79人が負傷する事故か起きた。中島氏は再発防止に向け最前線に立ったが、労働組合は社員に休日出勤や時間外労働を押し付けたのは労使協定違反だと経営陣を責め立てた。労使交渉に疲れ果てた中島氏は自宅から忽然と姿を消し、入水自殺した。
JR北海道の宿痾は労働組合だと、長らく指摘されてきた。
1987年の国鉄民営化の際、JR北海道労組は民営化に賛成し、他の3組合は反対したが、反対した組合員がJRへの採用で差別された「不採用問題」が影を落としている。JR北海道労組は経営への関与を強め、労使のなれ合いが生じた。
衆院国土交通委員会は昨年11月22日、野島氏を参考人として呼んで集中審議を行ったが、労働組合問題に質問が集中した。組合への遠慮が安全対策のネックになっているとの指摘があったほか、労組間の対立が社内の連携を妨げているのではないかとの懸念も示された。
相次ぐ不祥事や改善の見通しがつかない業績悪化が続くJR北海道に対し、「日本航空同様に、一度破たんさせなければ再生は不可能」との見方も強まる中、同社は文字通り今年、正念場を迎えている。
編集部
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