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川内原発がある薩摩川内市を歩く馳氏。川内原発は1984年運転開始の1号機と1985年開始の2号機からなる。九州電力は3号機の増設に向けて用地整備などを行なっていたが、3・11で中断している
川内原発のある町を作家・馳星周が歩いた。原発と新幹線…夢の技術が地方を殺す!
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150109-00041709-playboyz-pol
週プレNEWS 1月9日(金)11時0分配信
2014年秋、原子力規制委員会の新規制基準を満たし、再稼働に向けて地元の同意が得られた鹿児島・川内(せんだい)原発。早ければ、この冬の間にも再び動きだす。
しかし、「免震重要棟」は完成していないし、事故の際の避難住民受け入れ態勢はほぼ手つかず。火山噴火のリスクもある。このような不備を承知で、なぜ住民は再稼働をよしとしたのか。
これまで各地の原発を取材し、原発立地自治体の選挙を題材にした小説『雪炎』を上梓(じょうし)した作家・馳星周(はせ・せいしゅう)氏が、川内原発がある薩摩川内(さつませんだい)市を歩いた。
***
違和感の正体に気づくのに、さほど時間はかからなかった。浜岡(静岡県)、敦賀(つるが)(福井県)、泊(とまり)(北海道)と原発のある自治体をいろいろ歩いてきたが、ここ薩摩川内市は他の自治体とはなにかが違う。風景に違和感がある。
道路だ。レンタカーを走らせていてすぐにわかった。分不相応な箱物と立派な道路。このふたつが原発の町には不可欠なのだが、この町の道路は酷い。原発に向かう道路でさえ、狭い上に路面が荒れている。
原発を誘致したときに落ちてきた金はなにに使われたのだろう?
疑問を胸に抱きながらドライブを続けていると、市の中心地に出た。新幹線の停車する川内駅前から真新しいアーケード街が延びている。しかし、ほとんどの店舗はシャッターを下ろしたままだ。
「あれ? 九州新幹線が開通したのって最近だよな? なのに、もうシャッター通りになってるのか、このアーケード街?」
また新たな疑問が湧いた。こうした地方の自治体にとっては念願の新幹線停車駅誘致、そして開通だったはずだ。
舗装の荒れた狭い道路を海へ向かい、やがて川内原発が視界に入ってくる。どの原発にもあるPR館を覗いてみたがやる気はゼロ。これまた他の原発の町とは大違いだ。3・11以降、どこの原発PR館も安全性を訴えるのに躍起になっているというのに、ここはのどかすぎる。
PR館を出て海を目指す。砂浜にテントが立っている。反原発を訴える市民団体のメンバーが交代でそのテントで暮らしているのだ。首都圏からやって来た活動家が、原発の安全性に怯(おび)えながら暮らしているのだが、どうやって反原発運動を盛り上げていけばいいかわからないという地元の人たちと、焚き火を囲みながら議論を交わしている。
ここで、駅前のアーケード街が新幹線の開通間もないのにシャッター街と化している理由が判明した。
「みんな、ここは素通りして鹿児島に行っちゃうんですよ。原発で働いてる人たちも地元の人間も、買い物したり飲みに出るのは鹿児島。だって、新幹線に乗れば、ものの15分で着いちゃうんだもの。こんな寂れた町で飲むよりいいでしょう」
地元の人間がそう言った。それだけではない。原発に勤める人間たちも、新幹線ができたことで薩摩川内市から続々と脱出しているという。
「やっぱり、あの人たちも家族を原発のそばに住まわせるのいやなんだわな。熊本辺りに引っ越して、新幹線で通ってる人も多いですよ」
救世主になるはずだった新幹線が、瀕死の薩摩川内市の首をさらに絞めている。なんたる皮肉か。冬が近づいた海辺に、重苦しい雲がのしかかっている。
「昔はね、原発っていうのは未来を輝かせる科学技術の最先端だったと思うんですよ。安価で安全なエネルギー。それが雇用を生み、周辺の自治体も発展していく……でもね、もう安全なエネルギーじゃないことはだれの目にも明らかになったじゃないですか。それに自治体だって……原発ができる前、この辺りは人口が12万だったんです。それが、平成の大合併で周辺の市町村と一緒になったのに、現在の人口は9万ですよ。全部嘘っぱちだったんだ。それなのに、どうして動かそうなんて思うんですかね」
この真っ当な問いかけに、政府や電力会社はどう答えるというのだろう。いや、答える必要はない。連中は無視するだけなのだ。
道路のことを訊いてみた。他の原発の町は立派な道路を整備しているのに、なぜこの町は違うのか?
「道路? 他の原発の町のことは知らないから、なんとも……」
なら、原発の金はどこへ消えたのか?
「土建屋の懐じゃないですかね」
訊いた相手は吐き捨てるように答えた。
夜、寂れた繁華街を歩いた。どこもかしこも閑古鳥が鳴いている。辛うじて客の姿が見えるのは安い居酒屋のチェーン店だけだ。
梯子(はしご)酒をしながら、原発再稼働に賛成だという市民の声にも耳を傾けてみた。
「原発? 再稼働した方がいいに決まってるだろう」
建築業界で働いているという40代のおじさんが吠えるように言った。
「動かさなくても原子炉は残る。廃炉には何十年もかかる。だったら動かした方がいいでしょう。動けば、この町の経済も潤(うるお)うんだから」
原発が稼働していた間も、この町の経済は下降線を辿(たど)る一方だった。なのに、原発が動けば金が回るとまだ信じている。
「福島はさ、結局、地震じゃなくて津波のせいでああなったわけでしょ。ここは地盤もしっかりしているし、動かしてもだいじょうぶ」
赤ら顔でそう訴えたのは60代の男性だ。しかし、わたしが聞いた話では、実情は違う。この辺りは特殊な火山帯に属しており、御嶽山(おんたけさん)のように山頂付近で噴火が起こるのではなく、もし噴火するとしたら山ごと吹き飛ぶような超巨大噴火が起きる可能性が高いということだった。直径20キロ、30キロという規模のクレーターが生じ、雨が降れば、地上5階建ての高さの土石流が流れ込んでくる。
だれかの言葉が耳によみがえったーー桜島の火山灰はいいよ。掃除すればいいんだから。でも原発になにかあったら……放射線は掃除できないからね。
「とにかくね、原発で働いてるやつらがこの町で金を落とさないのがけしからんよ」。商店を営んでいるというおじさんが言う。「この町はコンビニのひとり勝ちさ。原発労働者はコンビニで弁当とビール買って寮やホテルで食べて飲むだけ。お偉いさんは新幹線で鹿児島に行って飲んじゃう。それじゃ、原発を誘致した意味がないでしょう」
ここでもまた新幹線の話が出てくる。化けの皮が剥がれた救世主。いや、そもそものはじめから新幹線は救世主などではなく死神だったのだ。じっくり考えていれば簡単にわかったはずなのに、人はどこまで愚かにできているのだろう。
翌日、鹿児島1区で民主党から衆院選に立候補した川内博史(かわうち・ひろし)氏の選挙戦を遠くから眺めた。
川内氏は鹿児島における反原発運動の担い手だった。だが、2012年の選挙で落選。今回、復活を目指している。
「正々堂々」
そう書かれた幟(のぼり)を立てた自転車を漕いで、川内氏は遊説に出かけていく。しかし、原発再稼働反対という言葉はほとんど聞かれない。演説は安倍政権とアベノミクスへの批判に終始していた。
反原発を前面に押し立てても票には繋がらない。原発のある鹿児島3区でも再稼働反対を訴えたのは共産党の候補だけだ。それはなにも鹿児島に限ったことではない。日本全国ほとんどの地域で、原発再稼働や福島の復興に関する論議はなおざりにされているではないか。
あの未曾有のいまだに続いている大惨事を、日本人はみな忘れてしまったかのようだ。金、金、金、金。だだ漏れが続いている放射線、いまだに苦しみ続けている被災者へ思いを馳(は)せることすらなく、いかにして金を手にするかに目を血走らせる人々がそこにいる。
薩摩川内市の新幹線駅前に安倍晋三がやって来て、演説をぶった。ここでも、原発再稼働に関する話題は一切でなかった。
「金を稼ぎたかったら自民党に投票しなさい」
安倍の演説を要約すればそういうことになる。アベノミクスの失敗は明らかなのに、なんという厚顔無恥ぶりだろう。そして、それでも自民党に投票する日本人の絶望の深さはいかほどか。
結局、川内氏は落選し、鹿児島3区でも原発再稼働を公約に掲げた議員が当選した。
原発の町を訪れるたびにわたしを襲う憂鬱がまたやって来た。
虚しい。虚しすぎて切なくなる。
わたしは溜息をひとつ漏らし、鹿児島を後にした。
(取材・文/馳星周 取材協力・撮影/小峯隆生)
●馳星周(はせ・せいしゅう)
1965年生まれ、北海道出身。横浜市立大学卒業。出版社勤務、書評家などを経て、96年、『不夜城』で作家としてデビュー、同作品で第18回吉川英治文学新人賞、第15回日本冒険小説協会大賞を受賞。98年、『鎮魂歌 不夜城U』で第51回日本推理作家協会賞を、99年、『漂流街』で第1回大籔春彦賞を受賞
■馳星周の新作長編小説『雪炎』好評発売中!
1800円+税 集英社刊
今回、川内原発のある鹿児島3区で再稼働反対を訴えた候補は共産党のみ。得票はたったの6%だった。これまで、原発立地自治体で原発反対を訴える候補が勝利したことはない。今後も状況は変わらないだろう。
馳星周の新刊『雪炎』の舞台は、3基の原発がある北海道の町。これまで無風だった市長選挙へ、人権派弁護士が「廃炉」を公約に立候補、町中に不穏な空気が流れるところから物語は始まる。
町の人は何を考え、どのようなしがらみの中で原発と接しているのか。やくざや警察との暗闘、そして陰惨な事件の果てにどのような途が彼らに残されているのかーー。
ハードボイルドの第一人者が、各地の原発を取材してきた経験を基に描く。
【http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-780746-2&mode=1】
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