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散歩する山口光孝さん(左)と次男丈葉さん。原発事故前、よく遊んだ公園は、いまだに除染作業中だった=福島県いわき市で2014年12月、竹内幹撮影
NPO仲間「福島のコメ買って」で一変、福島第1原発事故:放射線と食、亀裂招く(1/4 毎日新聞)
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Sunday, January 04, 2015 東京江戸川放射線
「広野町のコメを10キロでいいから買ってあげてくれない?」。2011年3月の東京電力福島第1原発事故から数カ月後、福島県いわき市の主婦、山口光孝(みつこう)さん(51)は友人からの電話に身をこわ張らせた。同県広野町は当時、放射性物質の拡散で全町に避難指示を出していたが、コメは事故前に収穫され、倉庫で保管してあったという。「ごめんなさい」。やっとそう口にした。
山口さんの次男、丈葉(ともは)さん(18)は心臓疾患などを伴う先天性の難病「ウィリアムズ症候群」を抱える。どんなに微量の摂取でも放射性物質が影響を与えるのでは、と思うと怖かった。
一方、電話をしてきた同市の福祉施設職員、福田亜由子さん(58)は、数年前から個人契約をして減農薬のコメを買っていた同町の農家を助けたかった。県内の酪農家が「原発さえなければ」と書き残して命を絶ったニュースも頭をよぎる。「買わないと農家がどうなると思うの」
一緒に障害児への理解を進めるNPOを運営してきた2人の間に、亀裂が走った。
2人は十数年前、雑誌編集の仕事で出会った。ウィリアムズ症候群の人は、知的な遅れはあるがリズム感や聴覚に優れる。「障害にも種類がある。特徴を生かした自立ができるはず」という山口さんの話を聞いた福田さんの提案で09年、NPOを設立した。
2人でいるとアイデアが次々と浮かんだ。養護学校で母親向けのワークショップを月1回開催。歌や踊りを習っても健常児に交ざると遠慮してしまうと聞き、障害児だけの発表会を企画し、準備を重ねた。原発事故が起きたのは、そんな時だ。2人とも家族と県外へ避難したが、4月に学校が再開すると、ともにいわきへ戻った。
その後、広野町のコメを巡って2人の電話で起きた争いは、福島では珍しくない。政府は事故直後、チェルノブイリ原発事故時より甘い食品の暫定規制値を決定。「ただちに影響はない」と繰り返すだけの政府の説明に不信感が募り、食品の安全性に対する住民の考えは揺れた。自分を支えてほしい身近な相手であるほど、意見の対立は先鋭化した。
2人の道は離れていく。丈葉さんの体調が不安定で、山口さんは6月に母子だけで再び避難した。9月に戻ってからは、西日本から野菜を取り寄せ、丈葉さんの外遊びを制限した。一方、4月以降とどまった福田さんの自宅は沿岸部にある。隣の地区では100人以上が東日本大震災の津波の犠牲になった。「津波と比べれば原発の被害は小さく感じた」という。
発表会は12年2月、どうにか開催にこぎつけた。だが、避難が長かった山口さんの分まで仕事が集中した福田さんは「私一人に押しつけないで」といら立ちをぶつけた。発表会を最後にNPOは解散した。2人が連絡を取ることは、ほとんど無くなった。
◇
「多くの友達を原発事故で失った」。14年暮れ、取材で訪ねた山口さんは小さな声で言った。私は「友達」の紹介を頼んだ。山口さんは深呼吸を3回して受話器を取った。福田さんの声を聞くのは約1年ぶりだった。
数日後、福田さんの自宅を訪ねた山口さんは緊張していた。また争いになったら−−。だが、迎えたのは屈託のない笑顔だった。
1年間の身の上を語り合って気持ちが和むと、避けてきた食品の話になった。「根拠無く危険とか安全とか言う専門家がいて、誰も信じられなかった」。そう振り返った福田さんも、事故直後は県産品を買うことに迷いがあったという。話してみれば、考えが正反対というわけではないと分かった。
「子供の年齢などによって被ばくへの感じ方は違うのだから、意見を押しつけ合うのはよくない。悪いのは原発事故」。2人はうなずき合った。
翌日すぐ、山口さんに福田さんから電話がかかった。「用というほどではないけど、あなたにしか話せないことがあって」。山口さんはほほ笑んだ。【深津誠】
http://mainichi.jp/select/news/20150105k0000m040025000c.html
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