20. 2014年12月10日 16:28:06
: jKC3hZK8YQ
特定秘密とは、外国やテロ集団などに漏洩した場合、日本の防衛・警備態勢の間隙を突かれたり、領土保全や権益確保のための外交交渉で不利になったりするなど、日本の安全保障に著しく支障を与える恐れのある情報だ。特定秘密として指定し、保護できる情報は、特定秘密保護法で、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野、23事例に限定。さらに、閣議決定した運用基準で、23事例を細分化した55項目の具体例を示している。 政府が、特定秘密に指定する情報の種類を具体的に例示したのは、「秘密指定の範囲が無制限に拡大するのではないか」という国民の懸念を払拭するためだ。 これらの55項目に該当するものが全て特定秘密になるわけではない。「公になっていない情報であること(非公知性)」と、「その漏洩が日本の安全保障に著しい支障を与える恐れがあるたえめ、特に秘匿することが必要である情報であること(特段の秘匿の必要性)」という2つの要件を満たす必要もある。 このため、特定秘密が新聞に報じられたり、外国政府によって公表されたりして、「公になっていない情報」の要件を満たさなくなった場合には、特定秘密の指定を解除しなければならない。 特定秘密の件数については、現時点では確定していないが、現在、国の重大な利益に関する事項が指定される特別管理秘密の約47万件が一定の目安になるとされている。なお、特別管理秘密の約9割は、衛星写真の画像や暗号だ。 *特定秘密の対象となる主な項目の例 防衛(19項目) ・自衛隊の情報収集・警戒監視活動 ・武器、弾薬、航空機の種類または数量 ・潜水艦、情報収集器などの仕様、使用方法 外交(17項目) ・外国政府から提供された情報 ・外務省本省と在外公館との通信・暗号 ・外国政府との交渉内容(領域の保全、海洋・上空の権益確保など) スパイ防止(10項目) ・スパイ防止のための計画、研究 ・外国政府と協力して実施する措置 ・政府が用いるために作成した暗号 テロ防止(9項目) ・サイバー攻撃の防止 ・緊急事態への対処に関する部隊戦術 ・重要施設、要人に対する警戒警備 秘密指定する行政機関(19機関) @国家安全保障会議 A内閣官房 B内閣府 C国家公安委員会 D金融庁 E総務省 F消防庁 G法務省 H公安審査委員会 I公安調査庁 J外務省 K財務省 L厚生労働省M経済産業省 N資源エネルギー庁 O海上保安庁 P原子力規制委員会 Q防衛省 R警察庁 正当な取材妨げず 特定秘密の指定や保護により、憲法21条で保障された国民の「知る権利」が侵害されるのではないか、と懸念する声がある。 特定秘密保護法はこうした懸念を踏まえ、「国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない」と明記した。取材行為についても、「専ら公益を図る目的」であって、法令違反や「著しく不当な方法」によらない場合には、「正当な業務による行為」と認定し、罰しないこととした。 政府は、国会答弁などで、 @早朝・深夜の自宅訪問(夜討ち朝駆け) A頻繁にわたるメール、電話、直接の接触 B個人的関係などに伴うコミュニケーションや飲食 Cたまたま閲覧可能となっている状態の特定秘密を閲覧 D裏向きで机の上に放置されている情報を裏返して閲覧、写真撮影を行うこと などの取材は、「正当な業務による行為」になると説明している。 これらにより、報道を目的とした通常の取材である限り、特定秘密について取材しても処罰の対象にならないことが、明確になっている。 知る権利との関連で重要なのは、政府が都合よく特定秘密の範囲を広げたり、情報を隠したりしないように、適正な運用を確保することだ。 特定秘密保護法では、政府が統一的な運用基準を作成・公表するとともに、作成・変更の際には、有識者の意見を踏まえることとした。これを受け、弁護士や学者らによる有識者会議「情報保全諮問会議」(座長=渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長・主筆)が2014年1月に設置され、運用基準について様々な修正を求めた。諮問会議の指摘は、閣議決定された運用基準に反映されている。 特定秘密の指定や解除が適正かどうかをチェックし、是正を求める権限のある「独立公文書管理監」も内閣府に新設される。独立公文書管理監は審議官級のポストで、その下に事務局となる20人規模の「情報保全監察室」も設けられる。 さらに、政府が毎年、運用状況について、情報保全諮問会議の意見を付けて、国会に報告し、公表することも義務付けている。これとは別に、国会にも法の運用をチェックする「情報監視審査会」が衆参両院に常設される。 運用基準には法施行後5年で見直すことが盛り込まれていた。法施行後も政府には不断の努力が求められる。 日本新聞協会は2014年12月8日、上川法相に意見書を提出し、「懸念が生じないよう法律を運用するとともに、情報公開関連の法整備を充実させていく」ことを求めた。 明確に区別 厳重に管理 特定秘密に指定された情報は、行政機関が、他の情報と区別できるように表示し、厳重に管理する。 特定秘密を指定した時には、その特定秘密を扱うことができる公務員や武器の製造業者などの民間業者の従業員を定め、それ以外の人が特定秘密を取り扱うことは認めない。 特定秘密を取り扱う公務員や民間業者の従業員には、事前に「適正評価」を行い、秘密を漏洩する恐れがないことを確認することを義務付けている。外国の情報機関などが、借金や女性関係などで問題のある公務員に接触し、秘密を引き出そうとする工作を行うことが知られているためだ。 適正評価の調査項目は、 @スパイ活動などとの関連 A犯罪・懲戒歴 B情報の取り扱いに関する問題の有無 C薬物乱用 D精神疾患 E飲酒についての節度 F借金などの経済的な状況 の7項目だ。配偶者の国籍なども対象となる。 特定秘密を取り扱うことのできる公務員らが特定秘密を漏らした場合、10年以下の懲役が科せられる。これまでも、軍事に関する情報は「防衛秘密」、米国製兵器の情報は「特別防衛秘密」として厳格に管理され、漏洩した場合には5年〜10年以下の懲役が科されるが、対象は狭かった。国家公務員法でも、職務上知り得た秘密を漏らせば守秘義務違反で罰せられるが、罰則は1年以下の懲役か50万円以下の罰金だった。 特定秘密保護法は、罰則を強化することで、国の安全保障に重大な影響を与える恐れがある特定秘密の漏洩に対する抑止力を強める狙いがある。 行政機関の長や閣僚、内閣官房副長官、副大臣、政務官、首相補佐官は適正評価を受けなくても、特定秘密を扱うことができるが、漏洩した場合の罰則は適用される。 一方、外国情報機関のスパイとなり、特定秘密を盗んだり、暴行・脅迫などによって不正に取得したりした人も、10年以下の懲役に処せられる。また、特定秘密を漏らすように公務員をそそのかすなどした人は、5年以下の懲役の対象になる。 例外的な場合除き対象外 一般人が処罰の対象となるのは、特定秘密と知っていてその情報を得ようと公務員をそそのかしたり、不正な方法で取得したりした場合に限られる。 単に、原発や基地の情報を探ろうとしたり、「秘密を明らかにしよう」と呼びかけたりしただけでは、逮捕されない。法律では、特定秘密であることを知っていた場合にその情報を得ることが違法行為となるため、たまたま特定秘密にあたる情報を入手しても処罰されることはない。 政府は、「外国情報機関などに協力し、特定秘密をあえて入手したような例外的な場合を除き、一般の人が処罰対象となることは想定し難い」としている。 脱「スパイ天国」へ法整備 日本はこれまで、安全保障に関する重要な秘密を管理する厳しいルールがなく、外国政府などから「スパイ天国」と呼ばれてきた。 先進諸国では、安全保障上の秘密漏洩に対する厳しい罰則を設けている。米国では軍事計画などの「機密」を外国政府に漏洩した場合、最高刑は死刑だ。英独仏などでも、機密情報の漏洩には3年以上14年以下の自由刑などの罰則を設けている。 同様の秘密保全法制を持つことを、機密情報を提供する際の条件とする国も少なくない。実際、米政府が、情報機関が得たシリアの化学兵器使用の証拠などについて、日本の秘密保全法制の不備を理由に提供を渋ることもあった。 日本では外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(NSC)が2013年12月に発足したが、外国政府から機密情報を得られないままでは、期待されている役割を果たせない。その意味で、特定秘密保護法はNSCと「車の両輪」と位置付けられている。 特定秘密保護法は2013年12月、自民党の安倍政権下で成立したが、法整備の議論が本格化したのは、民主党政権時代だ。 きっかけは2010年9月、沖縄県・尖閣諸島沖で中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件が起きた際、同庁が撮影した衝突時のビデオ映像がインターネット上に流出したことだった。流出元が現職の海上保安官だったことを当時の菅政権が問題視し、秘密保護法制の検討に着手した(特定秘密保護法では、このビデオ映像は特定秘密の対象にはならない)。 2011年8月には、政府の検討委員会の下に設置された有識者会議が報告書を提出。それを受け、野田政権が機密情報を漏洩した国家公務員の罰則を強化する法案の国会提出を目指した。結局は「国民の知る権利を害する」といった批判を受けて提出を断念したが、報告書の内容は、現在の特定秘密保護法の骨格部分に引き継がれている。
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