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関西電力の八木誠社長 photo Getty Images
与野党が原発問題に「ダンマリ」の隙に「老朽」高浜原発再稼働へ関西電力が独走中
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41273
2014年12月02日 町田徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
公示日を迎えてヒートアップする総選挙戦の中で、この分野だけは「触らぬ神に祟りなし」といわんばかりの態度で与野党が踏み込んだ公約を出し渋っている原発政策について、たった一社で波紋を投げかけている“勇敢”な会社がある。
■自民党は統一地方選まで「原発政策はダンマリ」
高浜原子力発電所の1、2号機で原則40年の運転期間を20年延長しようとしている関西電力だ。同社の八木誠社長は先週水曜日(11月26日)の記者会見で、「安全性確保のために必要な各種対策などを実施できるメドがついた」と語り、近く原子炉の状態を調べる特別点検を始めると表明したという。
しかし、高浜原発再稼働に疑問を投げかけているのは、11月18日付の本コラム(「『関西電力』が『40年超老朽原発』運転延長へ 経産省はなぜこの暴挙を止めないのか」など)や新聞各紙が指摘している老朽化に伴うリスクだけではない。
実は、福島第一原発事故を調査した国会事故調などが指摘した「複数ユニット」(1ヵ所に2機以上の原子炉を置くこと)とか「集中立地」と呼ばれる問題も、大きな影を落としている。せっかく関西電力が議論の場を提供してくれているので、今回はその問題を取り上げることにした。
解散前から予想されたこととはいえ、やはり与野党はそろって原発に踏み込んで大きな争点にしたくないらしい。本稿の執筆段階(11月30日現在)で、出揃っている各党のマニフェストは、原発関連の諸策の実現性や必要なコスト、その結果値上がり確実な電気料金の詳細など肝心なポイントに関する記述が驚くほど乏しい。
例えば、総選挙での勝利が確実視されている連立与党では、自民党が「責任あるエネルギー戦略を」というタイトルを掲げ、「安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源との位置付けの下、活用してまいります」と大上段に振りかぶりながら、肝心の「重要なベースロード電源」とは全体の何パーセント程度を指すのかまったく触れずじまいだ。
同様に原発依存度の項目でも、「徹底した省エネルギーと再生可能エネルギーの最大限の導入、火力発電の高効率化により、可能な限り低減させます」としているものの、それらの振興策にいくら資金が必要で、どの程度を税金や電気料金で賄う計画なのかをまったく明かしていない。
関連して言うと、自民党の稲田朋美政調会長は11月23日のNHK番組で、原子力を含む電源のベストミックス(最適構成)について、「来年の夏までにつくる」と表明したという。これまで安倍政権は発足から2年にわたってベストミックスの策定をのらりくらりと先送りしてきたが、稲田発言はさらに今後も先送りを続けて、今回の総選挙どころか、来年春の統一地方選でもだんまりを決め込むという趣旨に他ならない。
同じく連立与党の公明党のマニフェストも、総論は「原発に依存しない社会・原発ゼロへ」と歯切れよく言い放っているものの、いつまでにゼロにするのか何ら説明していない。しかも、個別具体策となると、あらかじめ逃げ道を用意しておく内容になっている。例を挙げると、再稼働問題では「(原子力規制委員会が策定した厳格な規制基準を満たすことを大前提に、)国民、住民の理解を得て判断する」といった具合なのである。
■野党も共産党がましな程度
コスト問題に触れない選挙戦略は、野党も同じだ。
民主党は「2030年代原発ゼロに向け、あらゆる政策資源を投入します」と時期を明示しているが、そのためにどんな政策を実施するのか、そしてコストがいくら必要で、国民負担がどの程度になるか、ひと言も触れていない。維新の党とも共通するが、電力小売市場の全面自由化など競争政策の断行には意欲的で、それによって安価な料金を実現すると強調している。しかし、競争政策ではコストを賄えない廃炉の問題には、両党がそろって素知らぬ顔を決め込んでいる。
こうした両党の姿勢は、かつて政権奪取前の民主党が、「増税をしなくても、無駄を省けば財政再建ができる」と主張してまったく空振りに終わった経緯を彷彿させるものがある。
次世代の党や生活の党の公約も、箇条書きで「メガフロート上の洋上風力発電等により水素を生成」「世界最先端の原子力技術の維持」(以上、次世代の党)、「原発の再稼働・新増設は一切しません」(生活の党)と簡単なスローガンを並べてあるのが目立つぐらいで、実現への意欲や可能性を疑いたくなるような水準にとどまっている。
あえてユニークな主張を探すとすれば、共産党だろう。同党は、「日本のすべての原発が停止して1年2ヵ月がたちます。それでも電力不足はどこにも起きていません」として、「日本社会は『原発ゼロ』でも立派にやっていけることを、国民自身が証明した」と断言。「『即時原発ゼロ』を決断し、すべての原発でただちに廃炉のプロセスに入る」などと主張している。
しかし、この状況認識は、大口需要者向けの法的な節電義務付けなどが行われる中で、本コラムで何度も指摘してきたように、老朽化した火力発電所を夏冬の需要のピークのたびにフル稼働させる綱渡りが続いた事実を無視する乱暴なものである。その一方で、コストの裏付けもなく、「再生可能エネルギー電力の適正な買い取り価格を保証します」と、家計に占める電気料金の割合が急騰しかねない主張も盛り込んでいる。
■関西電力が「老朽」原発再稼働へ独走中
いずれにせよ、与野党は、エネルギー・原発政策について、円滑な脱原発や廃炉には長い時間がかかることや、膨大なコストが必要なこと、また再生可能エネルギーが十分な即戦力でないことなど「不都合な真実」に目を瞑り、耳触りのよい抽象的な議論しか選挙公約に盛り込んでいない。与野党がそろって、原発問題を「触らぬ神に祟りなし」と捉えており、踏み込むまいという本音が透けて見える状況となっている。
まさか、こうした政界のムードに配慮しているわけではあるまいが、電力業界の大勢もこのところ、再稼働や廃炉の問題には判で押したように沈黙を守っている。
そうした中で異端のふるまいをみせているのが、関西電力である。
日本経済新聞が11月13日付の朝刊1面トップで、『原発40年超え運転』の大見出しを付けて「関西電力は運転開始から39年以上たつ高浜原子力発電所1、2号機(福井県)の運転を20年程度延ばす方針を固めた。年末に特別点検を行い、来春にも原子力規制委員会に運転延長を申請する」と報じたのが端緒だ。
同社の八木社長(電気事業者連合会会長)は翌14日の記者会見で、高浜原発の2基の運転延長について「ワンオブゼム(複数選択肢の一つ)」と早くも意欲をみせた。そして、冒頭で記したように、同26日の記者会見で、運転期間の延長のために特別点検に着手すると宣言した。
全国には、運転開始から39年の歳月を経た“老朽原発”が7基ある。このうち、4基(美浜1、2号機、高浜1、2号機)を保有しているのが関西電力だ。残りは、敦賀1号機を日本原子力発電が、島根1号機を中国電力が、そして玄海1号機を九州電力がそれぞれ保有している。これら4社の中で、関西電力が初めて原則40年に限定されている運転期間の延長に名乗りをあげたのである。
原則として運転開始から40年に制限されている原発の運転期間を延長をするためには、原子力規制委員会が一般の原発の再稼働の際に課す新規制基準への適合に加えて、より厳しい特別点検にも合格する必要がある。そして、以前にも本コラムで指摘したように、特別点検に適合するには、「古い原発ほど燃え易い材質のものを使っている」と言われている電気ケーブルの交換が必要だ。原子炉そのものの経年劣化が深刻でないことの証明も求められる。これらの老朽化対策が、本コラムや新聞各紙が盛んに指摘している問題である。
■問題は老朽化リスクだけではない
さらに、高浜原発のようなひとつ敷地に複数の原発が設置されている場合は、老朽化とは別に、「複数ユニット」問題とか「集中立地」問題と呼ばれるリスクをコントロールできるかどうかの問題も存在する。
実は、この問題は、福島第一原発事故を調査した「国会事故調」や、「福島原発事故独立検証委員会(いわゆる民間事故調)」、そして政府の事故調査委員会の関係者に対する聴取段階などで、大きく取り上げられていた。
複数ユニットには、用地の取得やアクセス道路の建設など単独ユニットに比べてコスト面で有利という要素や、仮に一つの原子炉で電源を喪失しても他の原子炉から電力供給を受けられるなど多重防護の面で役立つ要素があると言われてきた。
しかし、その一方で、@共通の原因(一つの地震や1回の津波)で、すべての原子炉が被害を受ける可能性がある、A一つの原子炉が制御不能に陥ったり、水素爆発を起こしたりすることによって、他の原子炉も制御不能に陥るリスクがある、B設計上独立させておくべき施設を共有してしまう問題が起きがちで、結果として事故を引き起こしやすいなど、集中立地ならではの問題が多く確認されていた。
例えば、民間事故調の調査・検証報告は、「隣接するプラントの水素爆発等の影響を受け、作業環境が悪化した」と指摘した。
国会事故調の報告書も「原子炉事故を回避した5、6号機においては、ユニット間の互助効果というプラス面が見られる」と複数ユニットに一定の長所があることを認めつつも、「重篤な原子炉事故を経験することになった1〜4号機においては、問題の相互作用、増幅作用とでもいうべきマイナス面が浮き彫りになった」と厳しく断定した。
同報告はさらに踏み込んで、克明にトラブルの状況を以下のように記している。
「1号機の爆発によって飛散したがれきのため、2号機の電源盤に給電しようと敷設した電源ケーブルが損傷し、復旧策の選択肢の一つをつぶしてしまった。」
「また、3号機の爆発によっても、2号機の復旧作業は否応なく振り出しに戻された。4号機原子炉建屋の爆発は、3号機から流入した水素が原因と理解され、ここにもユニット間の影響が見受けられる。」
「さらに1〜4号機の事故は、発電所周辺の放射線量を上昇させることで、近接する5、6号機に影響を及ぼし、さらに、福島第一原発から約12km離れた福島第二原発の復旧活動にも影響を与えた」
■故・吉田昌郎所長も「集中立地」に批判的
加えて、今年9月に公表された政府事故調査委員会(政府事故調)による福島第一原発事故の関係者ヒアリング記録の中で、事故発生時に同発電所の所長だった吉田昌郎氏(2013年に死亡)が、「昔から集中立地は嫌い」「会社のリスク分散からすると余りよろしくないと思っている」「(2007年の)中越沖地震の時の柏崎刈羽(発電所)もそうだが、(いくつも原子炉があると)大混乱になる」などと語り、複数ユニットを批判的に捉えていたことも浮き彫りになっていた。
さて、以上の議論を踏まえて、高浜原発の再稼働問題に議論を戻すと、事は老朽化した1、2号機の運転延長を認めるかどうかだけの問題だけでなく、現在審査中の3、4号機に、新たに1、2号機を加えて合計4機の複合ユニット(川内原発で規制基準に適合したのは、1、2号機の合計2機の複合ユニット)の再稼働を容認できるかどうかという問題が存在していることがお分かりいただけるはずだ。
欧米と違って、日本の原発は、こうした複数ユニットが主体だ。今回の総選挙では、与野党(政治)が頼りにならないことが明らかになりつつある。それだけに、われわれは、与野党により踏み込んだ施策を求めていくだけでなく、高浜原発に対する原子力規制委員会の対応を今後の原発再稼働の方向性を大きく左右するものとして注視していく必要があるだろう。
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