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3・11前に戻るのか 川内原発
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014110802000137.html
2014年11月8日 東京新聞社説
鹿児島県が同意して、手続き上、川内原発の再稼働を妨げるものはない。ゼロから3・11以前へ。多くの疑問を残したままで、回帰を許すべきではない。
何をそんなに急ぐのか。残された危険には目をつむり、不安の声には耳をふさいだままで、流れ作業のように淡々と、手続きが進んだようにも見える。
「安全性は確認された」と鹿児島県の伊藤祐一郎知事は言う。
原子力規制委員会の審査書は、規制基準に適合すると認めただけである。田中俊一委員長も「安全を保証するものではない」と話しているではないか。
◆責任など負いきれない
「世界最高レベルの安全対策」とはいうが、未完成や計画段階にすぎないものも少なくない。
知事は「住民には、公開の場で十分説明した」とも主張する。
しかし、鹿児島県が先月、原発三十キロ圏内の五市町を選んで主催した、規制委による住民説明会の会場では「本当に安全なのか」「審査が不十分ではないか」といった不信や不満が相次いだ。
再稼働への懸念を示す質問が司会者に遮られる場面もあった。なぜこんなに食い違うのか。
「万一事故が起きた場合、政府が責任を持って対処する」
鹿児島県の求めに応じ、政府が入れた一札である。
だが、どのように責任をとるのかは、明らかにしていない。
今年もあと二カ月足らず。何万という被災者が、放射能に故郷を追われて四度目の新年を迎えることになる。補償問題は一向に進展しない。
原子炉の中で溶け落ちた核燃料の取り出し作業は延期され、地下からわき出る汚染水さえ、いまだに止められない。繰り返す。原発事故の責任を負える人など、この世には存在しない。
◆はるか遠くに降る危険
議会と知事は、川内原発の再稼働に同意した。だが起動ボタンを押す前に、明確な答えを出すべき課題が、少なくとも三つある。
法的根拠はないものの、地元の同意が再稼働への最後の関門だとされている。
第一に、地元とはどこなのか。
伊藤知事は「県と(原発が立地する)薩摩川内市だけで十分」というのが、かねての持論である。「(原発による)苦労の度合いが違う」というのが理由である。気持ちはわからないでもない。
原発事故の被害は広い範囲にわたり、長期に及ぶというのも、福島の貴重な教訓である。
福島の事故を受け、避難計画の策定などを義務付けられる自治体が、原発の八〜十キロ圏内から三十キロ圏内に拡大された。
福島の事故から二週間後、当時原子力委員長だった近藤駿介氏は、半径百七十キロ圏内でチェルノブイリ同様強制移住、二百五十キロ圏内で避難が必要になるという「最悪のシナリオ」を用意した。
原発事故の深刻な被害が及ぶ地域には、「地元」として再稼働を拒む権利があるはずだ。
次に、火山のリスクである。
九州は、火山国日本を代表する火山地帯である。川内原発の近くには、カルデラ(陥没地帯)が五カ所ある。巨大噴火の痕跡だ。
約四十キロ離れた姶良(あいら)カルデラの噴火では、原発の敷地内に火砕流が到達していた恐れがある。
ところが規制委は、巨大噴火は予知できるという九州電力側の言い分を丸ごと受け入れてしまった。
一方、「巨大噴火の予知は不可能」というのが、専門家である火山噴火予知連絡会の見解である。
これほどの対立を残したままで、火山対策を含めて安全と言い切る規制委の判断は、本当に科学的だと言えるのか。適正な手続きと言えるのだろうか。
三つ目は、避難計画の不備である。県の試算では、三十キロ圏内、九市町の住民が自動車で圏外へ出るだけで、三十時間近くかかってしまうという。
入院患者や福祉施設の人々は、どうすればいいのだろうか。福島では、多くの要援護者が避難の際に命を落としているではないか。
知事の自信と現場の不安。ここにも深い溝を残したままである。
◆代替エネルギーはある
そもそも、新潟県の泉田裕彦知事が言うように、福島の事故原因は、まだ分かっていない。
原因不明のまま動かすというのは、同じ事態が起き得るということであり、対策が取れないということだ。根拠のない自信によって立つ再稼働。3・11以前への回帰であり、安全神話の復活である。
川内をお手本に次は高浜、そして…。原発再稼働の扉をなし崩しで開いてしまうことに、多くの国民は不安を抱いている。再生可能エネルギーという“国産”の代替手段はあるのに、である。
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