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[迫真]号砲 電力大競争
(4)うごめく原発再編
「むちゃくちゃや。ありえへん」。今夏、政府関係者と非公式に懇談した関西電力首脳はため息をついた。政府関係者が突然、電力各社の原発事業の再編構想を口にしたためだ。
構想は生木を裂くような内容だった。関係者の話を総合すると(1)電力9社の原発事業を東西2社に集約(2)東日本は原発専業の日本原子力発電を受け皿に(3)西日本は関電が引き受ける――などの枠組みだった。
東日本大震災から3年余り。電力市場の自由化をにらみ、官主導の原発再編論が浮上している。福島原発事故を受け電力各社は2兆円の安全投資を迫られた。自由化が進むと原発の建設・維持費用を電気料金に上乗せできる制度もなくなる。「事業集約を考える時だ」(経済産業省幹部)
自由化で先行した米国では政府が原発新設費用を債務保証し、英国も政府公社が廃炉を担う。政府の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員の寺島実郎(67)は「国策統合会社をつくるべきだ」と踏み込む。
官民の綱引きには長い歴史がある。原発の黎明(れいめい)期だった1957年。原発国営化を画策した政府に電力業界は猛反発。各社の結束をテコに民主導の運営体制を実現した。
60年近くたった今、官主導の再編論に電力各社は割れている。「1社じゃできない」。東京電力会長の数土文夫(73)は漏らす。福島原発事故で巨額の損害賠償責任を負った東電は事実上国有化された。トップに就いて半年。東電の経営をつぶさに点検した数土は原発事業が抱えるリスクの重さを実感する。
だが、原発事業を分離すれば電力経営のかたちは根底から見直しを迫られる。「原発の発電コストはまだ安い」「分離すれば新電力との価格競争で優位を保てなくなる」。百家争鳴に陥った電力業界。関電社長の八木誠(65)は9月の記者会見で「我々が予見性を持って取り組めるよう検討を進めていただきたい」とくぎをさした。
攻防は政官民が入り乱れる展開になりそうだ。「我が国の方向性を間違わないようにしなければならない」。16日、東京・永田町の自民党本部。今秋発足した原子力政策・需給問題等調査会の初会合で会長に就いた額賀福志郎(70)はこうあいさつした。足元では再稼働などの懸案に追われるが、額賀が再編論に判断を下す時期がいずれ来る。激しい綱引きの予感に電力業界は身構え始めている。
(敬称略)
エネルギー取材班が担当しました
[日経新聞10月25日朝刊P.2]
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号砲 電力大競争
(1)東電は本気だ
9月16日、東京駅そばの高層ビルの一室。東京ガス常務執行役員の高松勝(58)は東京電力副社長の佐野敏弘(62)に静かに告げた。「うちは降ります」。東電が中核の火力発電事業で提携先を探し始めてからほぼ半年、東電の提携先が中部電力に定まった瞬間だ。
東電社長の広瀬直己(61)と中部電社長の水野明久(61)が都内で記者会見に臨んだのは3週間後だった。2人は「企業価値を上げる」「国際競争力を高める」と口をそろえ、提携具体化へ合同のワーキングチームを発足させた。小さな一歩だが、長く競争や業界再編と無縁だった電力業界には地殻変動の号砲だ。
「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門は戦時下で発足した日本発送電の独占を破り、1951年に9電力(現在は沖縄電力を含め10電力)体制を築いた。だが実際は各社が地元を押さえ、実質的な独占が続いた。
電力自由化は2000年以降徐々に進んだ。それでも他電力の管内で電気を売る越境行為は「禁じ手」で、東日本大震災以前は九州電力が広島市の大型商業施設に供給した1例にとどまった。
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だから東電が今年1月の経営再建計画に他社と包括提携する構想を盛り込んでも、電力大手は「苦境にあるとはいえ東電はどこまで本気なのか」と様子見を決め込んだ。
状況が変わったのは3月中旬。東電は中部電、東ガス、関西電力、大阪ガス、JXホールディングスの計5社に提携の提案書を送付した。その中で首都圏3カ所の発電所の共同建て替えや、液化天然ガス(LNG)権益の切り出しなどに踏み込んでみせた。
「東電とバックにいる国は本気だ。組むか、組まずに対抗軸を作るか。天下分け目の戦いだ」。東電が回答期限とした5月末を前に交渉当事者の一人はこう漏らした。
最も頭を悩ませたのが、火力発電燃料のLNGの調達規模が大きく提携先の最有力とされた中部電だ。副社長の勝野哲(60)が率いる経営戦略本部は連日、提携の損得を議論することになる。
「得るもの」は首都圏市場だ。東電の老朽火力を共同で建て替えれば、首都圏での電力小売り拡大に必要な電源が手に入る。一方、慎重派は「ひさしを貸して母屋を取られる」ことを危惧した。実質国有企業である東電と組めば、福島事故の巨額の負債や政治動向に経営が翻弄されかねない。
社長の水野が「変革期はチャンスにほかならない」と決断し、内々に提携に乗ることを東電に伝えたのは8月だった。その後は、福島事故の負債を共同出資会社が負わないことや、既存火力発電所の統合は「検討課題」として棚上げすることなど条件闘争に入った。
「経済産業省が描いた絵のまんまだ」。提携発表後、エネルギー大手幹部はつぶやいた。「巨人」を創り出し、他電力の連鎖的再編を誘う狙いも透けて見える。だが「官製アライアンス」と言われても、東電会長の数土文夫(73)はなりふりを構っていられなかった。
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数土は4月の会長就任にあたり首相の安倍晋三(60)からくぎを刺された。「東電は福島の復興、賠償、廃炉を実行するために存続を許された」。小売りの全面自由化、発送電分離など電力改革の足音は容赦なく近づく。何としても競争に勝ち抜き、利益をあげ続けなければならない。
「もっと戦う気概を持て」。提携発表を控えた9月末の週末、都内の研修所で数土は幹部150人にハッパをかけた。国主導で進む再建策にじくじたる思いの社員も少なくない。ある幹部が「我々にも戦う気持ちはある」と反発すると、数土は「そんな軽いもんじゃないんだ」と声を張り上げた。
原発停止に伴う火力依存で燃料費は年約3兆円と震災前の倍になり、老朽火力の建て替え資金もない。提携は燃料費を圧縮し資金を得るために中部電に「虎の子の首都圏市場を差し出す」(東電幹部)苦渋の決断だった。
競争的な自由企業とすること――。松永の懐刀だった木川田一隆(元東電社長)は終戦後の電力改革にかけた思いを後にこう振り返った。「地域分割」にとどまった先達の限界を超えられるか。「平成の電力改革」が試される。
(敬称略)
◇
東電と中部電の提携は電力会社や新規参入企業を交えた再編劇の第1幕にすぎない。大競争時代に向け絡み合う当事者たちの思惑を追った。
[日経新聞10月22日朝刊P.2]
(2)再編ドミノ
「よし、伊藤忠エネクス(東京・港)で決まりや」。9月上旬、関西電力取締役の白井良平(61)は決断を下した。関西電力が東日本に初めて火力発電所を造るためのパートナーを選んだ瞬間だ。白井が社長を務める関電エネルギーソリューション(大阪市)は伊藤忠エネクスと組み、2017年にも仙台市に出力11.2万キロワットの石炭火力発電所を建てる。発電した電力は首都圏の家庭や企業に売る。
「本体を超えるつもりでやれ」。白井は関電社長の八木誠(65)からこうハッパをかけられてきた。白井のもとには発電所の共同建設の提案が次々と届く。伊藤忠エネクスを選んだのは「速度を最優先した」ためだ。
未踏の地で販売実績を上げるには自前の発電所が不可欠だが、大型だと建設期間も費用もかかる。伊藤忠の提案は環境影響評価の対象外で、16年の電力小売り全面自由化から間を置かずに事業を始められる。
それでも関電社内には東京電力と中部電力の提携への危機感が広がる。最大の懸案は増え続ける燃料費だ。14年3月期に初めて1兆円を超えた。八木は「東京ガス、国際石油開発帝石、総合商社と組む考えもある」と含みを持たすが、東電・中部電連合のような燃料費抑制につながる連合は組めていない。
10月1日、八木は大阪・中之島の本店に幹部を集め「変革に力を入れていこう」とげきを飛ばした。東電・中部電連合を意識してか、中堅社員からは「なんか、おいてけぼりやなあ」とのぼやきが漏れる。
他の電力会社も焦燥感にかられ対抗軸づくりに奔走する。9月8日、関電の動向を耳にした中国電力の社長、苅田知英(66)はつぶやいた。「うちも域外でのノウハウはない。どこかと組まなければ」。26日には子会社を新電力に登録。周辺には「他社との提携も含め先兵として動いてもらう」と狙いを話す。
30日。今度は九州電力が出光興産、東ガスと千葉県で火力発電所を建設することが明らかになった。「勝てるチャンスがある」。九電社長の瓜生道明(65)は記者会見で強気の姿勢を見せた。九電の基本線は「国の会社になった東電とは組めない」(九電幹部)。瓜生直轄の専門チームを東京支社内に立ち上げ、提携交渉を進めてきた。
業界の垣根が高く地域を越えた競争がなかった電力会社。だがいったん垣根が破れれば、我も我もと「越境」の動きは止まらなくなる。ドミノ倒しのような再編劇が始まった。(敬称略)
[日経新聞10月23日朝刊P.2]
(3)これはチャンスだ
「このチャンスを逃す手はない」。家電量販大手ケーズホールディングス執行役員の高橋修(54)は聞いたばかりの話に引き寄せられた。5月、水戸市の本社を東京電力茨城支店の営業担当者が訪ねてきた。「関西に安い電気があります」
省エネ対策の責任者で電気料金の高騰に悩む高橋は即座に見積もりを出すよう求めた。関西電力から買うより電気代を5%程度節約できる。今月、関西の20店舗が東電にくら替えした。
東電が子会社を新電力登録し「宣戦布告」したのは5月22日。「全国のお客さまへ 電気の契約を見直しませんか?」と題した資料を携え、他電力の顧客を切り崩し始めた。「関電はまるで殿様やった。ライバルが出てきたのはええことや」(大阪に機械工場を持つ企業の幹部)
最初に動いたのは中部電力だった。昨秋、新電力のダイヤモンドパワー(東京・中央)を買収し東京都の施設などに供給を始めた。4月には関電も首都圏に進出。東電も「競争を正面から受けて立つことにした」(事業戦略室長の真田秀雄=50)。
「コストだけでなく周辺サービスにも優位性があった」。関西や中部の62店舗で東電に乗り換えたヤマダ電機の幹部はこう評価する。東電に契約を一本化すれば、群馬県の本社で各地の店舗の電力コストをつかめる。
東電と中部電は今月、火力発電事業で提携に基本合意したが、販売は別だ。提携交渉のさなかの8月、ヤマダの大量離脱を耳にした中部電幹部は「仕方ない。こちらから仕掛けた勝負だ」と厳しい表情を浮かべた。
競争は電力会社間だけではない。7月、ソフトバンクが電力小売りを始めた。電力の料金規制の緩和をにらみ「通信と連携した課金も検討する」と社長の孫正義(57)。新サービスを繰り出しNTTグループなど巨人と渡り合ってきた孫は、電力の世界でも通信とのセット割引など「何をしてくるか分からない」(電力大手)相手だ。
太陽光発電などを手掛ける子会社SBエナジー副社長の藤井宏明(45)が孫に「小売りは面白そうです」と提案したのは2年前。「考えておけ」との指示を受け藤井を中心に準備し、5月からは通信の営業担当者3千人を対象に電力販売の勉強会を重ねた。満を持しての参入だ。
2016年には家庭向けを含め電力小売りが完全自由化される。一方的に供給してもらうものだった電気は、顧客が価格やサービスで選ぶ普通の商品に変わろうとしている。
(敬称略)
[日経新聞10月24日朝刊P.2]
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