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高知県の明神水産の会長が三陸の漁場では操業しないと主張
2014年10月20日08時33分
カツオ船団では高知県内一の規模を誇る明神水産(高知県幡多郡黒潮町佐賀)の会長、明神照男さん(78)が最近、「福島の海が危ない。今後、基本的に三陸の漁場では操業しない」との主張を強めている。脱原発を訴える講演会に足を運び、「残念なけんど、もう福島で漁業はできんと思う」とも語った。決断は、東京電力福島第1原発の事故による海洋汚染だという。明神さんが漁を始めた1950年代、米国は太平洋のマーシャル諸島周辺で核実験を繰り返し、高知県の漁船も多数被ばくした。そんな経験もあって判断した、と。明神さんの率直な思いに耳を傾けた。
■海底にたまる
―この7月、福島県南相馬市に行ったと聞きました。
「漁の視察に。福島県ではJR常磐線も止まっちょって。知人が(福島市から南相馬市へ行く車の中で)線量計で測って、『山は除染されてないき、数値が高い』と。自分らは高知で『原発は危ない』と言うけんど、心の中から言いよったかどうか、と思うたね」
―福島県沖では、2013年9月下旬から水深150メートルより深い海域で操業が始まりました。その年末には水深135メートル、今年8月には水深120メートルまで漁が可能になっています。
「だんだん汚染の数値が低くなりよるからね。地元の漁師は『早く操業ができるよう、今の規制を解除してもらいたい』という思いがある。以前、福島の海は土佐沖より底引き漁の条件は良かった」
「けんど、放射性物質は全部海底に沈下して、たまりゆうわけよ。それをね、底引きで魚を捕るとよ、沈下している放射性物質を巻き上げる。それと、底におる魚はこんまいときは(海底の)土の中で育ちゆう。それを思うと、操業開始は難しいやないか、と。再開できても、消費者が安心して食べてくれるかどうか」
■家族の心配
―汚染水対策をどうみていますか。
「去年の8月に(福島第1原発で)タンクの漏水があったろ? タンクが傾いたとか、ホースの継ぎ目から漏れたとか。(そんな程度のことに)今まで注意していなかったこと自体が信用できんわけよ。そんな管理する東電さんに原子力を動かす資格はないと思う」
―漏水事故では高濃度の放射性物質に汚染された水が約300トン漏れました。今年も事故は続いています。
「南相馬市で収穫されたコメから、放射性セシウム1兆ベクレルを計測した、と東電が(今年7月に)発表したこともあった。けんど、その1カ月後には2600億ベクレルの間違いでした、と訂正した。どんな管理しゆうがか、と。公表前に確認するのが普通。命に関わる問題やきね。国や東電の情報は信用できん」
―明神水産にとっても三陸沖は大事な漁場ですね?
「今も行きゆうよ。6月くらいから、9月、10月まで。(100トン以上の)太い船3隻でカツオを捕りに。自分が心配するがは(乗組員の)家族よね。家族から『お父さん、あんな怖いとこ行く船に乗りなや』っていう話が出たら、三陸での操業は控えないかん」
「ほんでね、うちらは去年から(主力を)19トンの船に切り替え、(鹿児島県沖の)薩南海域で操業させゆうがやき。もちろん、放射能の問題だけやない。燃料も高うなった。カツオも釣れんなった。だんだん採算が合わんなりゆう。けんど、やっぱり、さっき言った家族の心配よね。これからは基本的に三陸は捨てる」
■ビキニを経験
―主に放射能の危険があるから、と?
「ビキニ、広島、長崎と放射能の恐ろしさは分かっちょった。昔、佐賀から(室戸市船籍の)第二幸成丸に6人乗ってビキニの沖で操業しちょったわけよ。そのうち3人は(自分が)かわいがってもらった先輩やった。5歳くらい上で、こんまいときから悪いことしの仲間よ。3人は60、70代で亡くなっちゅう」
「3人が本当にビキニ被ばくが原因で死んだかは分からん。けんど、放射線を浴びた人はよ、がんの死亡率が高うなるがやき。それはビキニで分かっちょることやき」
「第五福竜丸以外の船で被ばくの影響があったというのは、私も20年くらい前まで知らざった。今は知っちゅう。そこに福島の原発事故。汚染水が海に漏れたことは、東電も認めちゅう。そういう問題があるときに、船員を船に乗せよる立場の人はよ、ここ(三陸)の海に行かすことはできん」
◆福島第1原発の汚染水漏えい問題◆
2013年8月、「H4」と呼ばれるタンク群のうち1基から約300トンの汚染水漏れが判明。ストロンチウムなどの放射性物質が1リットル当たり8千万ベクレルという高濃度で検出された。一部は排水溝を通じ、海に流れ出たとみられる。国際的な事故評価尺度の暫定評価は「レベル3」。
【写真】明神照男会長(みょうじん・てるお) 1935年、旧幡多郡佐賀町生まれ。73年に明神水産社長。2000年から会長。明神水産は関連会社も含め、カツオ船を8隻所有。「第83佐賀明神丸」(149トン)は昨年、漁獲量約2千トン、漁獲高約6億円を記録し、20トン以上の近海一本釣り船として日本一になった。1991年から黒潮町議を務め、現在7期目。
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