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原発維持費自由化後も国民負担 発電業者は選べても風力や火力にも料金上乗せ〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141002-00000004-sasahi-soci
週刊朝日 2014年10月10日号より抜粋
原発輸出、再稼働に前のめりな姿勢を見せる一方、「電力市場を完全に自由化します。日本では不可能と言われてきたこと」とダボス会議で宣言した安倍晋三首相(60)。自由化されれば、「脱原発」が実現するかも――。そう期待する国民もいるだろう。だが、その裏で原発救済計画が着々と進行していた。安倍政権の本音は何なのか?
こうした中、“ウルトラC”として浮上してきた案がある。
原子力小委に英国エネルギー・気候変動省のキーナガン・クラーク副部長が招かれ、英国が導入するCfD(差額決済契約)という耳慣れない制度が説明されたのだ。
この制度は、廃炉費用や使用済み燃料の処分費用も含めた、原発の運営にかかるコストを回収できる価格を事前に「基準価格」として定め、実際の電気料金が基準価格を下回った場合、差額を電力会社が受け取れるというもの。いわば、再生可能エネルギーについて行われている固定価格買い取り制度(FIT)の原子力版だ。英国でも計画段階で、まだ実施されていない。
基準価格は、政府と電力会社との間の交渉で決められる。例えば「原発のコスト」を回収できる基準価格が1キロワット時あたり10円、実際の電気料金が7円なら、電力会社は不足分の3円を受け取れることになる。環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長がこう解説する。
「英国のCfDは新規原発1基についてのみですが、経産省の議論の進め方を見ると、既存の原発まで対象にしようとしているような印象がある。その場合、基準価格との差額分は、電力会社が送電網を使用する際に支払う託送料金に上乗せされる可能性が高い。結果的には電気料金となって、広く国民全体から徴収する形となる。電力自由化後に火力や風力の新電力会社と契約した消費者も、等しく『原発のコスト』を負担させられることになります」
脱原発を促進したくて自然エネルギーの電力会社と契約しても、結局、原発コストを払わされることになるというのだ。原発のコスト計算に詳しい立命館大学の大島堅一教授はこう憤る。
「もしそんな制度が導入されたら、原発の弱点である初期投資や廃炉のコストを一挙に負担するリスクを除外して運転できるわけですから、原発を持つ既存の電力業者に一方的に有利になる。電力自由化が骨抜きにされてしまいます。普及が進めば技術革新でコストが下がって支援が不要になることが見込まれる再生可能エネルギーと違い、電力消費者が半永久的な負担を強いられることも問題です」
そもそも、政府がモデルにしようとしている英国の制度には批判の声も上がっている。自然エネルギー財団のトーマス・コーベリエル理事長がこう語る。
「英国のCfDで導入されようとしている基準価格は1キロワット時あたり約16円で、現在のデンマークでの風力発電による電力の価格の約3倍にもなる。競争市場ならコストの安い電源を使うべきで、古い技術が生き延びるために国が支援するのは、おカネの無駄です」
CfDを実施するにはEUの承認が必要だが、市場のルールに反する特定産業の保護とみなされる可能性があり、承認が得られるかは不透明だという。前出の飯田氏もこう批判する。
「英国のエネルギー政策ははっきり言って失敗している。政府と産業界の原子力コミュニティーの力が強く原発に固執しているが、電力民営化後に国策で作られた原発会社が破綻しているし、再生可能エネルギーの導入も欧州の中では立ち遅れている。CfDも原発維持のための苦し紛れの制度で、まだ何の実績もなく、検証もされていない。手本にすべきとは思えません」
突如降って湧いたかにみえる“原発救済計画”だが、実は12年12月の安倍政権誕生直後から、水面下の動きは始まっていたという。
13年2月に経産省の電力システム改革専門委員会が発表した報告書には、こんな文言がさりげなく盛り込まれている。
<自由化後の電力市場において活発な競争を促す観点から、原子力安全政策や、原子力政策をはじめとするエネルギー政策を含め、何らかの政策変更等に伴い競争条件に著しい不利益が生じる場合には、これを緩和するための別途の政策的措置の必要性や内容を検討する>
わかりにくい言い方だが、電力システム改革によって電力会社が不利益を受ける場合、国がフォローするということである。
さらに、今年4月に閣議決定され、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けたエネルギー基本計画の中にも、こんな文言が入っていた。
<電力システム改革によって競争が進展した環境下においても、原子力事業者がこうした課題に対応できるよう、海外の事例も参考にしつつ、事業環境の在り方について検討を行う>
海外の事例も参考にするとは、今回検討され始めた英国などの事例を思わせる。元経産官僚の古賀茂明氏が語る。
「電力自由化後に原発が維持できないことは原発推進派もわかっていたはずだが、本当のことを言えば『それなら原発をやめろ』と言われてしまう。エネルギー基本計画で原発維持が保証されたことで安心して、ようやく表立って救済策の必要性を言い始めたのでしょう」
ちなみに、エネルギー基本計画の中では原子力発電を「発電(運転)コストが低廉」と称賛しているが、建設コストや廃炉コストには触れていない。こうした“トリック”には注意が必要だ。
「英国の原子力事業者にCfDがなかったらどうするか聞いたら、『リスクとコストが高いから原発は建設できない』とハッキリ言っていた。日本でも同じ制度を導入したいなら、原発のコストをきちんと調査して情報公開した上で、国民の合意を得る手続きが必要なはずです」(前出の大島教授)
原発の本当のコストをあいまいにしたまま、国民に請求書だけ回すことは許されない。
(本誌・小泉耕平)
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