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原子力規制委は 「自己規律なき独立」からの脱却を
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140929-00010002-wedge-pol
Wedge 9月29日(月)12時20分配信
【この記事のポイント】
・「脱原発」は民主的な意思決定(「脱原発法」の制定など)によるべきで、安全規制を利用したり歪めたりして達成すべきものではない。
・規制の「予見可能性」の向上のために最重要なのは規制活動の基本原則の確立だが、規制委の活動原則は抽象的すぎてもはや哲学的。
・「効率性」や「首尾一貫性」といった概念を含んだ米NRCの活動原則を参考にし、安全規制の方法論も議論していくべき。
前回まで見てきた原子力安全規制を巡る規制委員会と事業者の相互不信の構造は、どのようにすれば改善するか、まずは規制委員会に求められる取組み、そして次回は事業者に求められる取組みについて述べたい。
■規制機関側に求められる取組み
安全規制の存在意義は、本来事業者が原子力という危険を孕む技術を利用して発電事業を営むことを前提として、それが公衆の安全や環境の保全に悪影響を及ぼさないようにすることにある。したがって、事業者が原子力事業を営むに当たっての不確実性を除去することにつながるような安全規制になっていなければならない。それが逆に不確実性を増大させることになっているとすれば、本末転倒である。仮に、原子力事業や技術が安全その他の理由で社会的に容認されず、事業の対象又は手段とすることが許されないということであるならば、原子力事業が存在しない状態は民主的な意思決定(すなわち、例えば「脱原発法」の制定など)によって行われるべきであり、安全規制を利用したり歪めたりすることによって達成すべきものではないのだ。
したがって、安全規制のあり方として求められる規制側・事業者側の共通理念が「予見可能性」である。予見可能性は広い概念だが、許認可の申請から処分に至るプロセスの面では、どのような順番で、どのような場で、どのようなメンバーで、どのくらいの期間で行われるのか等、また内容的には許認可の判断基準や解釈が担当者によってぶれることなく一定の範囲内で安定的であること等がその概念に含まれる。このような予見可能性を向上させるためには、手続きや規制基準適用事例・解釈などの徹底した文書化などが求められるが、それにも増して最も重要なポイントは、規制活動の基本原則の確立である。
■規制活動基本原則の再構築
まず、現在の日本の規制委員会が設立時の組織モデルとした米国原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission, NRC)の例を見てみよう(次表)。NRCでは、自立性、公開性、効率性、明白性、首尾一貫性を規制活動に係る基本的姿勢として定め、技術的な判断を行う際の判断基準として用いることができる程度にまで具体化したレベルで、その概念を定義している。この規制原則の存在によって、米国では、透明性と一貫性を備えた原子力安全行政が進展してきたと考えられている。
一方、日本の規制委員会はどうか。ホームページの組織理念の項の中に次の行動原則が掲げられている1。
活動原則
原子力規制委員会は、事務局である原子力規制庁とともに、その使命を果たすため、以下の原則に沿って、職務を遂行する。
(1)独立した意思決定
何ものにもとらわれず、科学的・技術的な見地から、独立して意思決定を行う。
(2)実効ある行動
形式主義を排し、現場を重視する姿勢を貫き、真に実効ある規制を追求する。
(3)透明で開かれた組織
意思決定のプロセスを含め、規制にかかわる情報の開示を徹底する。また、国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める。
(4)向上心と責任感
常に最新の知見に学び、自らを磨くことに努め、倫理観、使命感、誇りを持って職務を遂行する。
(5)緊急時即応
いかなる事態にも、組織的かつ即座に対応する。また、そのための体制を平時から整える。
1:原子力規制委員会「原子力規制委員会の組織理念『活動原則』」http://www.nsr.go.jp/nra/idea.html
彼我の違いは一目瞭然である。NRCの活動原則の具体性に比べて、日本の規制委員会の活動原則は「哲学的」でしかなく、規制判断を行う際の参照軸とするほどの具体性を持たない。これでは実際的な規制活動の場面場面で、どのような判断が下されるのか、またその判断がどういう活動原則に沿って行われるのかを予測することは不可能である。
■「安全のため」が許容されやすい社会的文脈
また、内容的な差異も重要である。NRCの活動原則にあって、日本の規制委員会の活動原則にないものは「効率性(efficiency)」と「首尾一貫性(reliability)」である。
まず「効率性」は、規制活動はそれによって達成されるリスク低減の度合いに見合ったものであるべき、また有効な選択肢が複数ある場合はリソースの消費が最小となる選択肢を採るべき、さらに規制の判断は正当な理由なく遅延してはならない、などの要素を含む活動原則である。この原則は、納税者、消費者、事業者といった規制のステークホルダーは、政府機関が行う規制活動に最大の効率性を要求する権利があるという当然の価値観から設定されているものだが、日本ではこうした行政コストが国民負担になるという意識が薄いからか、こうした原則は設定されていない。安全のためだという理由があれば、どのような審査プロセスでも(場合によっては、ムダに時間や人員をかけた方がよりポジティブに)許容されるという社会的文脈が日本に存在するのかもしれないが、この点は改善するべきである。
またリスクはゼロではなく、その対策にコストがかかるのだから、その比較によって対策の要否を決めるという原則も日本で受け入れられるように、規制委員会が能動的に説明して行くべきである。米国でも公衆の安全にとって即刻必要となる措置については、そうした比較をせずに規制要求が行われることになっており、効率性の原則はそうした場合以外の規制要求に関連して運用されるものである。その意味では、日本でも規制要求の内容によって、対策に重要度の優先順位を付けつつ、こうした原則を適用していくことを検討すべきである。
また、リスク低減度合いに見合った規制という意味は、あまりにリスク低減度が小さければ、規制要求を変更することによる他の要求との不整合の可能性などによって、かえって安全性が損なわれるなどのデメリットが大きいという点にも留意すべきである。対策は新たな設備や手順を求めるため、そこには、設備の設計、保守のエラー、関わる人間のエラー、未知の共通原因や二次影響の可能性が新たに発生するのである。
■技術論的・方法論的な観点から大掛かりな議論を
第二に「首尾一貫性」についても重要である。規制委員会が果たして利用可能な知見をすべて考慮して判断しているのか(例えば地震・断層問題について外部の知見を取り込むための有識者会合では、これまで安全審査に携わった有識者を排除)、またいったん確立した規制判断を簡単に覆していないか、あるいは規制活動が文書化された規制に合致しているかなど、「首尾一貫性」の原則が欠如していることによる自己規律の弛みが見てとれるケースも多い。
規制委員会は国家行政組織法第3条に基づいた非常に独立性の強い規制機関である。それだけに、外部から規制委員会の規制活動や審査プロセスなどについて何らかの「圧力」になるように働きかけることは許されていない。だとすれば、規制委員会がしっかりとした規範を自ら課し、その規範に則って自らの活動を規律するということが非常に重要になってくるのである。
こうした独立性の制度的担保の陰に隠れて、外部とのコミュニケーションを断ったり、さまざまな技術的知見に耳を傾けることを拒否したりするならば、それは自らの判断や活動についての自信のなさの現れだと受け止められかねない。独立と孤立は違うとよく言われるが、「自己規律なき独立」はそれ以上に大きな問題である。そうなる前に、米国並みの活動原則を打ち立てて、それを規制活動の実際的な基本方針とするべく、現状の活動原則を再度根本から議論し直すべきである。またそのようにして樹立された原則は、場合によって炉規制法又は原子力規制委員会設置法に唱うことも検討する必要がある。
ライセンシー(事業者)の組織ガバナンスについてコメントや改善を要求する立場にある規制委員会が、自らの組織ガバナンスの基軸となる活動原則を、この程度の抽象度でしか有していないことは、事業者の規制委員会の活動や判断に対する信頼感も喪失させてしまいかねない。炉規制法が存在する限り事業者は規制委員会の要求通りの措置を講じることは間違いないが、それだけでは形式的な法規制遵守しか生まない。しかし、事業者の規制委員会の判断に対する敬意なり信頼が基礎となっていれば、安全性の向上に向けた取組みを事業者が一層進めるモチベーションにもなる。「面従腹背」といった状態に陥らないようにすることが肝要である。
また、同時に、そうした新たな活動原則が拠って立つ安全確保へのアプローチのあり方(NRCの場合は「risk-informed performance-based」という基本的な安全規制方法論が確立している)について、技術論的・方法論的な観点から大掛かりな議論をスタートすべきである。これまでは個別プラントの新規制基準適合審査にリソースが取られて、こうした議論を行う余裕がなかったことは理解できるが、そろそろ本質的な規制行政のあり方論について着手すべきだ。(9月29日掲載分に続く)
澤 昭裕 (21世紀政策研究所・研究主幹)
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