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川内原発の火山審査に専門家から疑義噴出
東洋経済オンライン 2014/9/3 16:30 中村 稔
九州電力・川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の火山審査の妥当性が、極めて怪しくなっている。
原子力規制委員会は8月25日と9月2日に、原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チームの会合を開催。実質的に川内原発の新規制基準適合審査・火山影響評価についての検討の場となったが、そこで火山専門家から規制委の判断結果に対し、その前提を根本的に否定するような意見が相次いだためだ。
火山リスクは、川内原発審査における最重要検討課題の一つ。過去に火砕流が敷地近辺まで到達した痕跡もある。その火山リスクに対する規制委の認識が誤っているとすれば、火山審査を初めからやり直す必要性が生じる。規制委は7月、川内原発の設置変更許可申請が新規制基準に適合しているとして、事実上の”審査合格証”を与えたが、それ対しても多くの専門家から根本的な疑義が表明された形だ。
■ 海外の一論文を無理やり一般化し適用
そもそもの間違いは、川内原発の火山審査の場に専門家を入れなかったことにある。審査が終わった後になって、規制委は火山活動のモニタリング方法をどうするかということに関し、検討チームをつくって火山学者などの専門家を集めたが、そこで認識の根本的な誤りを指摘されるという失態を演じている。
規制委の火山審査では、「Druitt et al.(2012)(以下、ドルイット論文)がVEI7以上(VEIは噴火規模の単位)の噴火直前の100年程度の間に急激にマグマが供給されたと推定している知見」を主要な根拠として、川内原発の運用期間中にVEI7以上の巨大噴火が起こる可能性は十分に小さい、と結論づけた。さらに同論文を根拠に、モニタリングを行うことで巨大噴火を予知でき、さらに予知してから噴火までに核燃料を搬出する十分な時間があると判断している。
だが、8月25日の第1回会合において、火山噴火予知連絡会会長でもある藤井敏嗣・東京大学名誉教授は、「ドルイット論文は、3500年前のサントリーニ火山のミノア噴火では、準備過程の最終段階の100年間に数立方キロメートルから10立方キロメートルのマグマ供給があったということを述べただけで、カルデラ噴火一般について述べたものではない。これは本人にも確認した」と指摘。ドルイット論文という一例を、川内原発周辺を含めたカルデラ一般に適用しようとする、九電や規制委の判断根拠に疑念を示した。
また九電は、巨大噴火の早期の段階であるマグマ供給時の地殻変動や地震活動を観測することでモニタリングを行う計画とし、規制委もこれを妥当と認めた。しかし、藤井氏はドルイット論文を踏まえ、「マグマ供給に見合うだけの隆起が起こるとは限らず、マグマだまりの沈降による拡大で隆起が生じないか少ない可能性がある」と指摘した。これらは九電と規制委の判断根拠に重大な欠陥があることを示すものだ。
東京大学地震研究所の中田節也教授は、「巨大噴火の時期や規模を予測することは、現在の火山学では極めて困難、無理である」と、予知は可能とする九電、規制委の認識を根本的に否定した。
規制委は、昨年6月に自らが作成した「原子力発電所の火山影響評価ガイド」(以下、火山ガイド)を用いて、火山審査を行っている。その火山ガイドでは、火山性地震や地殻変動、火山ガスなどを監視することでモニタリングを行い、火山活動の兆候を把握した場合、原子炉の停止、適切な核燃料の搬出などを実施するとし、事業者にその対処方針を定めることを求めている(九電の対処方針は未定)。
中田氏は、「火山ガイドでは異常を検知するとしているが、異常があっても噴火しない例や、ずっとタイムラグを置いて噴火する例もあり、異常を検知するバックグラウンドの理解が非常に不足している」と述べ、火山ガイドの前提自体に疑問を表明した。前兆現象を把握したとしても、数カ月後など短期で噴火するケースもあり、核燃料の冷却・搬出に必要な数年〜10年程度より前にわかるとは限らないと指摘した。
■ 真に兆候が出たら「異常あり」といえるか
同様に、防災科学技術研究所の棚田俊収・総括主任研究員は、「事業主(電力会社)が巨大噴火モニタリングと評価システムから、『異常なし』と判断した時、われわれ火山学者は、その判定を科学的に検証するだけの実力を持ち合わせているのだろうか。巨大噴火に至らない兆候が繰り返し観測され、何度も異常なしと判断が続いた時、真の兆候が出てきた時に、『異常あり』と、事業主はタイミング良く発表できるのだろうか」と、火山モニタリングの実効性に懸念を示した。
第1回の会合では、こうした専門家の意見に対し、議長を務める島崎邦彦・委員長代理や規制委事務局の規制庁サイドから、特に反論はなかった。噴火の兆候を把握した場合の九電の対処方針について、規制庁の桜田道夫・原子力規制部長は、「今後審査していく保安規定(認可申請)の中で具体的に九電側から示されることになろう」と説明した。そもそも、こうした重要な問題を議論することなく、基本方針としての設置変更許可申請を了承し、パブリックコメントに付すということ自体、妥当性が疑われる問題だ。
こうした第1回の会合を踏まえて、9月2日の第2回会合では、規制庁からモニタリングに関する「基本的考え方」の案が提出された。
この中で規制庁は、まず川内原発の審査結果について、「現状、運用期間中(核燃料が存在する期間)にカルデラ噴火に至るような状況ではないと判断しており」とし、判断の修正は行わなかった。この点、会合の中でも藤井氏が「火山ガイドへの疑義や、カルデラ噴火に至る状況ではないとの判断も今後の議論の対象にするのか」と質問したが、島崎氏は「そこまでひっくり返すことはない」とし、火山ガイドや川内原発の火山審査結果を既定事実として譲らなかった。専門家側と規制委・規制庁側との認識のギャップを印象づけた。
モニタリングに関しては、「万が一、異常な状況が認められた場合、規制委としては安全側に判断し、原子炉の停止を求めるなどの対応を行うこととしている」との考え方を示した。
■ モニタリングによる検知は限界
そのうえで、「他方、巨大噴火については観測例が少なく、現在の火山学上の知見では、モニタリングによってその時期や規模を予測することは困難であるが、巨大噴火には何らかの前駆現象が発生する可能性が高い。ただし、モニタリングで異常が認められたとしても、それを巨大噴火の予兆と判断できるか、あるいはバックグラウンドの情報がないために、定常状態からの“ゆらぎ”の範囲と判断してしまうおそれがあるのではないか、といった懸念もある」とし、第1回の会合の議論を一定程度、反映させた。
しかし、あくまで「何らかの前駆現象が発生する」という前提。そして、「何らかの異常が検知された場合にはモニタリングによる検知の限界を考慮して、空振りも覚悟のうえで巨大噴火の可能性を考慮した処置を講ずることが必要である。また、その判断は規制委、規制庁が責任を持って行うべきである」とした。
こうした案に対して専門家からは、「(火山学者でもわからないのに)事業者が本当に異常を判定できるのか」(棚田氏)、「規制委・規制庁が責任を持って判断を行うべきというのは非常に重い。そうした判断ができると言っていいのか」(石原和弘・京都大学名誉教授)、といった疑問が改めて示された。
結局、根本的な認識のギャップを残したまま、第2回会合の結論としては、異常の指標化などモニタリング方法の具体化や精度の向上、国家主導も含めたモニタリング体制などの方法論、組織論的な対応について第3回会合から検討していく、という方向になった。
しかし、遅ればせながら火山専門家を議論に入れたことによって、川内原発の火山審査の根拠や結論に大いなる疑義が生じたことには変わりない。規制委・規制庁は現状、専門家の疑問や意見を十分受け止めたとは言いがたい。また、九電が保安規定の中で、異常検知時における燃料搬出などの対処方針をどう策定し、規制委がいかに審査するのかも焦点となる。川内原発の規制委審査は、今なお重大な課題が残されたままだ。
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20140903-00047016-toyo-nb
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