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空間放射線量から個人被ばく線量の意味 小出裕章
http://blog.livedoor.jp/home_make-toaru/archives/7837640.html
2014年09月03日09:07 とある原発の溶融貫通(メルトスルー)
谷岡理香:
東京電力福島第一原発事故に伴う除染をめぐって、環境省は8月1日、「これまでの空間放射線量から、より実態に近い個人被ばく線量に基づいた除染に転換すべきだ」という報告書を発表しました。
なぜ急に、これまでの空間放射線量から個人被ばく線量に変えようとするのでしょうか?その目的は何なのか、小出さんに伺います。小出さん初めまして、どうぞよろしくお願い致します。
小出さん:
初めまして。こちらこそお願いします。
谷岡理香:
まず、この空間放射線量と個人被ばく線量の違いについて教えて下さい。
小出さん:
はい、空間線量というのは、それぞれの場所がどの程度の放射線が飛び交っている場なのか、ということを測定します。
例えば、学校の教室がどれだけ放射線が飛び交っている、校庭に出ればどれだけだ、あるいは家庭はどれだけだ、道路はどれだけだということを測るのが『空間線量』です。
これまで福島の事故の後、あちこちでそういう線量を測ってきて、どこで何時間その場にいるのであれば、どれだけ被ばくをしてしまうという事を推定し ながらきたのでした。そうやって推定してしまいますと、人々の被ばく線量を1年間に1ミリシーベルトに抑えることが、ほとんどもう出来ないということが分 かってきたために、今度は国は、「一人ひとりの被ばく線量を測ってしまって、それが1ミリシーベルトを下回ればいいことにしてしまおう」ということを考え始めたのです。
個人の被ばく線量というのは、一人ひとりに放射線の被ばく量を測る測定器を持たせまして、それがいくつの値になるかということを調べるわけです。
ただし、なかなか難しくてですね。例えば、ずーっとほんとに一人ひとりが放射線を測定する機械を肌身離さず、1日24時間365日持っていられるか と言えば、恐らく多分私はできないだろうと思います。ですから、個人の被ばく線量を測定するということ自体が、まずは無理だろうと私は思います。
谷岡理香:
これまでの環境省の除染の目標基準からは、どういうふうに変わっていくのでしょうか?
小出さん:
これまでは、日本の普通の方々は、「1年間に1ミリシーベルト以上の被ばくをしてはいけない」と定められていました。しかし、福島第一原子力発電所の事故というものはあまりにもひどい事故であったために、福島県を中心として、到底それはもう守れないという状態になってしまったのです。
そのため、日本の政府は、今はもう守れないのだから、1年間に20ミリシーベルトを超えないような地域には人々が住んでもいいし、一度逃げた人達もそこに戻れと言って指示を出しているわけです。
でも、それはあまりにもひどいことだという事で、これまで原子力を推進してきた人達の中にも、やはり納得しない人達がいる。そのために、できる限り 早く1年間に1ミリシーベルトを下回るように、除染というものをやろうということになっていたわけですけれども、除染がほとんど効果がないのです。
もともと除染というのは、汚れを除くと書くわけですけれども、汚れの正体は放射能であって、人間が放射能を消す力はありませんので、言葉の本来の意味で言えば除染はできないのです。
出来ることは、人々が生活している場の一部から放射性物質をはぎ取って、どこかに移動させるということが、唯一できることなわけですけれども、もう大地全 部が汚れてしまってるわけで、除染ということ、私は除染は正しくないので、「移染」(汚れを移動させる)という言葉を使っているのですが、移除できる場所 というのも、ほんとに限られた場所しかないのです。
それで、これまで環境省等がやって来た、いわゆる除染活動というものがほとんど効果が無いということが、既に分かっているわけです。
そうなると、もう基準自体を引き上げるしかないだろうということで、なんとかその1年間に1ミリシーベルトという基準すら変えたいと彼らは思っているわけですし、出来る限り小さな数字が出てくるような測定の仕方をしたいと、彼らが思っているわけです。
谷岡理香:
先程ちょっとお話して頂きましたけれども、個人の被ばく線量というのは具体的にはどうやって計るんですか?
小出さん:
私自身は毎日、「ガラスバッチ」という放射線測定器を身に着けて仕事をしています。同じように、個人の被ばく量を計るための測定器を一人ひとりにずっと持っていてもらうというかたちで測定します。
谷岡理香:
ずっとというのは、ほんとにさっきおっしゃっていた24時間ということですか?
小出さん:
そうです。そうしなければ、要するにほとんど意味がないわけですけれども、私のことを言っても、放射線の管理区域に入る時にはもちろん持っていきますけれども、そうでない時には、肌身離さず持っているということはほとんどできないわけです。
谷岡理香:
そうですね。苦しいですね少し。生活する中で。
小出さん:
ですから、おそらく私でも出来ないような事ですから、普通の方々が丸1日24時間持ち続けるということは、まずできないはずですし、1年365日ずっと持っているという事もできないだろうと思います。
そして、個人の被ばく線量の測定器というのは、例えば、ひと月間ずっと肌身離さず持っていたとしても、ひと月経った後に「あなたはどれだけ被ばくをしました」という結果が出てくるのです。
私はそういう測定に関しては、私のような放射線業務従事者と法律で決められてる人間にとっては、もちろんやらなけばいけないし、ある程度意味があると思いますけれども、一般の人々の場合には、とにかく被ばくを少なくするということが何よりも大切なことだと思うのです。
そのためには、ひと月間測定した後に「あなたはどれだけ被ばくをしてしまいました」というように教えるようなやり方は私はダメだと思います。
ですから、従来と同じように空間線量というものを測って、「この場所に近づいてしまうと被ばく線量が多くなってしまうよ。だから、できる限りそうい う場所には行かないように」と言って、予防できるようにするという事の方がむしろ私は大切だと思います。ですから、空間線量を測るのと個人線量を測るの は、二者択一ではなくて、本当であれば両方をやらなければいけないという、そういうものです。
谷岡理香:
環境省がそういった個人被ばく線量に方向転換した目的というのは何だとお考えですか?
小出さん:
要するに、これまでは空間線量だけ測ってきたわけですけれども、空間線量を測ってきて、人々の被ばく線量を1年間に1ミリシーベルト以下に抑えるという事がほとんどできないと。だから、今度は個人線量という形で測定をして、なんとか上手く逃れることはできないかなと彼らが考えているのだと私は思います。
谷岡理香:
小出さん、どうもありがとうございました。
小出さん:
はい、ありがとうございました。
http://www.rafjp.org/koidejournal/no86/
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